2021-10-31

"権力論(上/下)" Guglielmo Ferrero 著

権力とは何か...
それは、恐怖の連鎖であったとさ。恐怖心が暴力を呼び、暴力がより一層の恐怖心を植え付ける。まさに恐怖心の自己増殖システム!
「人間は、最大の恐怖心を有する最高の生物である。恐怖こそ現世宇宙の魂である。... 権力とは、人間が恐怖から逃れようとして自ら惹起した恐怖の最高の表現である。... 命令、脅迫、強制、これこそ人類が創造し、服従してきた権力の本質である。」


権力は、正統性が担保されてはじめて機能する。では、正統性の根拠とはなんであろう。グリエルモ・フェレーロは、正統性の原理を恐怖という心理学を絡めながら論じて魅せる。
尚、伊手健一訳版(竹内書店)を手に取る。
「正統性原理こそ、国家の見えざる精神!その主な仕事は... 革命精神と戦い、かつそれを閉じ込めること... であることが、この魔力の原因である。独裁者の恐怖は、正統性原理の、この魔力の一例にすぎない。独裁者は正統性原理を侵すことにより、権力を獲得したが故に、自己の権力を恐れるようになる。」


フェレーロは、古代史の研究家として知られるそうな。そんな人物をして近代を論じさせた背景とは...
彼が生きた時代は、ウィーン体制の崩壊を招いた1848年革命、いわゆる「諸国民の春」の余韻冷めやらぬ時代。国民国家や民族的アイデンティティといった概念が各地で育まれ、近代国家の成立を見る。王侯や貴族のものであった権力が、フランス革命によって庶民の手に渡るかと思いきや、すぐに恐怖政治と化し、ナポレオンの呼び水となり、さらにナポレオン追放後、ウィーン体制が確立してヨーロッパに新たな国際秩序をもたらした。フランスは、権力の正統性を唱えたタレーランの元で王政復古を果たすものの、権力の所在については問題の先送り。
結局、この新たな秩序の時代に、フランス革命の機運で蒔かれた種が芽を出すことに。民族主義や自由主義といった芽が。そして世界は、自由主義、社会主義、共産主義などが乱立するイデオロギーの時代を迎える。フェレーロの故郷イタリアではムッソリーニ率いるファシズムが台頭。フェレーロ自身はというと、反ファシズムを表明してパリへ亡命する。「権力論」は、デモクラシーの先駆者によって書かれた本というわけか...


フェレーロは、四つの正統性原理を挙げる。「貴族・君主制原理、世襲制原理、選挙制原理、民主制原理」である。実際は、これらの原理が混在し、前者の二つは適合しやすく、後者の二つはすこぶる相性がいい。一見、世襲制原理と民主制原理は矛盾しそうだが、国民議会には世襲議員で溢れている。カトリック教会でも選挙制は採用されているし、ヒトラーは選挙で堂々と躍進した。
となると、こう問わずにはいられない。政治は、国民の意思を代弁しているか?と。そもそも国民とは誰か?なるほど、支配階級も国民というわけか。
政治体制を正統性の観点から眺めると、君主制も、貴族制も、民主制も、大した違いはなさそうに映る。アリストテレスは、民主制が最悪の政体というようなことを漏らした。アテナイ都市国家の実情を嘆いての言葉であろう。だが、君主はことごとく僭主であり続け、真の君主は滅多に見かけない。貴族にしても、真の国家精神を体現する者はごく僅か。実践的な体制となると、結局、民主制に落ち着く。民主主義にしても、崇めるほどのものでもあるまい。社会主義や共産主義、マルクス主義よりもはるかにマシだけど。つまりは、消去法...


ただ注意を払うべきは、民主制が醜態を晒し、弱体化した場面では、危険な独裁者が出現するということ。それは、歴史が物語っている。フェレーロは、この時代にあって既に独裁者の時代を予見している。共和制が醜態を晒し、恐怖政治を目の当たりにすれば、ナポレオンの登場は必然であったように思える。
では、ファシズムの出現もまた民主主義の過程で必然であったのか?そして、ヒトラーはその最終章であったのか?そう楽観もしてられまい...
「正統政治、すなわち、良き政治とは、なさねばならぬことをなし、かつ、それを十分に果たし、そして公共善の完遂に成功している政治である。政治の正統性は、その有効性により確認される。」


民主制は完成を見ないであろう。そして、衰退するのにも時間がかかるであろう。不完全なままの方が人類には適合しそうだ。君主制は、一応の完成を見た。ルイ14世の栄華をもって。そして、完成した瞬間から崩壊の道を辿った。ローマ帝国の衰退に時間がかかったのは、その根底に共和制を受け継いでいたからかもしれん。皇帝と元老院の共存によって。
絶対的な権力の持ち主と言えども、市民の意思を無視していては祭り事が為せない。少数の支配層と大多数の従属者という構図は、君主制も、貴族制も、民主制も同じ。ただ違うのは、民主制は人民に選ばれた人間が統治権を得ること。つまり、人民の承認を得ること。これが正統性の第一歩。
とはいえ、選挙という手段が目的化すれば、やはり同じこと。実際、現在の議会においても世襲議員が溢れ、巷では上級国民などという言葉が飛び交う。
そもそも、人間が人間を支配するところに無理がある。人間ってやつは、自己が支配できなければ、他人の支配にかかる。だからといって、神に委ねたところで、神の代弁者と自称する者の暴走を許すことに。神の声を聞く資格のある人間が、この世にいるのかは知らん。となれば、毒を以て毒を制すの原理に縋るほかはあるまい。これが、権力分立の原理というものか...


ところで、正統性とは気分の問題か。人の行動を誘発する時、最も有効な手段に不安を煽ることがある。あらゆる商売戦略で用いられる心理戦術だ。お得感を強調して、今買わないと損しますよ!流行に乗り遅れますよ!などと脅す。みんなで損する分には慰めにもなるが、自分だけ損することは絶対に許せない。だから、流行りの思考回路に埋もれてしまう。
従属者や隷属者が大多数であれば、それだけで正統性めいたものが浮かび上がる。やはり正統性とは、気分の問題か。それも集団心理を利用した...
正統性とよく似た用語に「正義」ってヤツがある。政治屋や愛国主義者どものお好きな。この言葉ほど胡散臭く、濫用されてきたものはない。きまって彼らは、これに義務と責任を結びつけて、自己宣伝狂を患わせる。正義が権威の後ろ盾になるのも確かで、それだけで正義の御旗を掲げる理由になる。正統性が気分の問題なのではなく、正義が気分の問題なのか。
いずれにせよ、国家への忠誠を政権への忠誠と混同するわけにはいかない。勝てば官軍負ければ賊軍!これが近代国家方式というわけか...

2021-10-24

軽くキャストを流す... Win10 から J:COM LINK XA401 へ...

仕事環境に動画は御法度!... と考えてきたが、なんとなく物足りなさを感じる今日このごろ。YouTube で 4K/8K の風景動画を垂れ流しつつ、テレビへキャストを流してみる。
いかん!高精細の大画面テレビが欲しくなる今日このごろであった...


さて、J:COM LINK のセットボックス XA401 はキャスト機能が搭載される。Chromecast のようなデバイスは不要というわけだ。
例えば、XA401 をローカルネットワークに参加させて電源をオンすると、Chrome ブラウザに "テレビメニュー" のアイコンが現れる。三点リーダこと設定アイコンから「キャスト」をクリックすると、"J:COM LINK XA401 使用可能" と表示され、あとは流れのままに。うん~... こいつは、ちょっぴり遊べそう...
あれっ、Chrome をアップデート(Ver 95.0.4638.54)すると、「キャスト」が「共有」の下に移動した。キャストは共有の類いかぁ?単に流しているだけのような。まぁ、いいや...


ソースは、タブ、デスクトップ、ファイルの三つが選択でき、ファイルを選ぶと動画ファイルがそのまま再生される。
タブを選ぶと、ブラウザ上の YouTube プレイヤーが全画面モードで転送される。
デスクトップを選ぶと、マルチモニタの選択と、システム音声を共有するかどうかのチェックボックスが現れる。
但し、システム音声を共有せずにパソコン側の音響システムに頼ると、映像に遅延が生じる。当たり前だけど。風景のようなコンテンツなら気にならない、というより、BGM と映像は別物に位置づけている。


また、動画再生ソフトでは、CyberLink PowerDVD 21 Ultra を愛用していて、こいつにもデバイスへ流せる機能がある。取説には、Amazon Fire TV, Google Chromecast, Apple TV に対応とあるが、XA401 でも動作する。さすが、ウルトラ!
お気に入りの機能は、YouTube で 4K/8K 動画が視聴できるだけでなく、ピン留めしてオフラインでも再生できること。このピン留め動画が、キャストで流せるという仕掛けである。再生先を XA401 へ向けるだけで...
ピン留め動画は、音声抽出もできる。ファイル形式は、AAC/MP3、ビットレートは、128/192/256kbps がそれそれ選択可。開始/終了ポインタをマークすれば、その範囲で抽出してくれる。


そして、The Piano Guys の素朴な演出に癒やされながら、ダブル Peter こと Bence vs. Buka の魅惑的な着想に翻弄され、Simply Three にシンプルに生きようと意欲を掻き立てられながら、裸足で熱唱するパワフルな Adele に生きる力を注入され... Blue-ray ディスクの衝動買いに突っ走る。
思考のリズムを触発するはずの音空間が、いまや仕事場の概念すらぶっ飛んじまう...


尚、XA401 へキャストできるファイル形式には制限がある。動画では MP4 はイケるが、他は?
うん~... MKV 形式が接続拒否されるのは、ちと痛い!Blu-ray ディスクをいちいちドライブに挿入しないと再生できないのでは、手間がかかってしょうがない。そこで、MKV は容量を喰うのが玉に瑕だが、画質劣化を抑制できるので重宝している。AVI も、MPEG も接続拒否。うん~...
音声や静止画のファイル形式は、だいたいイケそうか。おぉ~、FLAC がイケる。DSD は接続拒否かぁ。うん~...
XA401 のキャスト機能は、スマホとの連携を主眼に置いているのだろう。取説にも、その事例が掲載されているし...


ところで、PowerDVD が YouTube をオフラインで再生できるということは、実体が手元にあるということ。実際、キャッシュを覗くと、.mp4 や .webm などのファイルが生成される。分かり難くしてあるのかは知らんが、あとは煮るなり焼くなり... ゴホン!ゴホン!

2021-10-17

SeeQVault を試すも、まるで実感なし...

BD レコーダ "SONY BDZ-ZW1700" の内蔵 HDD 1TB は、ちと寂しい。そろそろ枯渇気味だし...
そこで、外付けの USB HDD をメインに配置することに。内蔵 HDD をテンポラリ領域に位置づければ、1TB は贅沢な空間となる。
そして、SeeQVault 対応に目をつけてきた...

SeeQVault とは、録画した機器以外でも再生できるようにした技術で、記録データがメーカ依存から解放される仕掛け。ただ、完全に解放されるわけではなく、対応機器を揃えなければならないし、再生側の機器はともかく、記録側の機器は多少なり引きずられる。おまけに、4K 非対応。
また、LAN 録画などで、直接 SeeQVault 対応のストレージに記録できないので、一旦、内蔵 HDD に落としてからダビングすることになる。
4K 用ストレージを別に配置したり、用途で使い分けることになりそうか... などと考えていると、いまいち踏み込めずにいた。
しかし、試してみないことには始まらない。どうせ買うなら...

モノは、ELECOM ELD-QEN2060UBK...
容量は 6TB もあり、十年ぐらい枯渇で悩むことはなさそうだが、今度は、画質にこだわって圧迫されそうな。人間の贅沢に限りはない...
そして、BDZ-ZW1700 後部の USB 端子に接続して機器状況を確認すると、属性に "SeeQVault" のロゴ が刻印された。
ただ、それだけ!
本当に、SeeQVault が機能しているかって?そんなことは知らんよ。他の対応機器を持ってないし...

しかし考えてみると、電子機器が本当に規格通りに機能しているかなんて、信じるしかない。巷で騒がれるセキュリティの脆弱性対策にしても、個人情報の保護にしても、どれほどの信頼が置けるというのか。ユーザが管理できる範囲はますます狭まり、できることといえば、文句を垂れるのみ。アップデート信仰はますます浸透し、WUuu... の呪いがつきまとう。信じる者は救われる... の原理は、宗教が発明されて以来、変わらんよ。
ちなみに、WUuu... とは、Windows Update の略で、うなるように、うぅぅ... と発音する。




尚、BDZ-ZW1700 の取説によると、無線アンテナ部が右側にあるらしいので、電波干渉を避けて、左側上部に設置(写真)。

2021-10-10

"ギルドの系譜(上/下)" James Rollins 著

おいらにとって、読書が毒書となるジャンルがある。くつろぐための行為が、やたらと緊迫感を煽ってくる。そして、読了した瞬間のクタクタ感ときたら... これがたまらないときた。馬鹿は死ななきゃ治らんというが、依存症とはそうしたものだ。
ロリンズ小説は、その最たるもの。歴史と科学の狭間でもがき、事実とフィクションの狭間でもがき、知的探求の場面で思いっきり集中力を要請しておきながら、アクション場面では息抜きをさせてくれる。まるで、アメとムチ!
シグマフォース・シリーズに手を出すのは、これで八作目だが、まだまだ道のりは長い。しかし、もうリズムは分かっている。翻訳者桑田健氏のリズムも...


「ポーカーの名手は決して手札を明かさない。カードをしっかりと隠し、勝てるハンドを持っているのか、それともブラフをかけているのかを、対戦相手に悟られないようにする。それは作家も同じで、事実とフィクションとの境目を曖昧にする。しかし、作品の最後では、正直に白状して、ハンドをテーブルの上に広げ、真実の部分とそうでない部分を明らかにしたいと私は考えている。」
... ジェームズ・ロリンズ


原題 "Bloodline"... これは、陰謀をめぐる血統の物語である。
長い長い歴史を辿っても、陰謀論の絶えた時代は見当たらない。それは、いわば人間の本質。混沌とした社会にあって、あるパターンを見い出し、影で操る何者かを炙り出し、常に見えない存在に怯えながら生きていく。占いに取り憑かれ、運命論に身を投じるのも、何かのせいにすれば救われる、だたそれだけのこと...
暗躍してきた秘密結社の類いは枚挙にいとまがない。フリーメイソンに、テンプル騎士団に、グノーシス派に、イルミナティに、ユダヤ金融に... こうした組織は宗教色が強く、災いをもたらす場合は悪魔とみなされ、恩恵をもたらす場合は神聖視される。決まって彼らは、世界的な名門一族との結びつきが噂される。ロスチャイルド家に、ヴァンダービルト家に、ロックフェラー家に、ハースト家に、ケネディ家に...


「世界の各地で我々に対抗する存在として、統制のとれた冷酷な陰謀があります。その影響力の拡大のために、主として人目につかない手段が使用されています... 軍事、外交、情報、経済、科学、政治の力を組み合わせ、結束力が高く極めて効率的な仕組みが作られているのです。」
... ジョン・F・ケネディ


本物語では、悪名高きテンプル騎士団に米国大統領ギャントの一族が結びつく。言うまでもなく、大統領の名は架空だ。
そして、テロ組織ギルドが胎内に子を宿した大統領の娘を拉致した時、不老不死の遺伝子技術と、恒久の世界支配という野望が露わになる。
ちなみに、アメリカ合衆国史上、七月四日の独立記念日に息を引き取った大統領が三人いる。ジョン・アダムズに、トーマス・ジェファーソンに、ジェームズ・モンローである。そして今、四人目がライフルの照準器に...
「あなたには死んでいただく必要があります。大統領閣下!」


1. テンプル騎士団... 九人目の謎
十二世紀初め、九人の騎士は聖地へ巡礼の旅に出る者たちの保護を誓った。やがて富と権力を蓄積してヨーロッパ各地に拡散し、ついには法王や国王までも恐れる一大組織へと成長していく。
これに対抗するために、フランス国王とローマ法王は共謀し、異端信仰を告げて組織を解体。粛清後、多くの伝説が生まれた。失われた財宝の噂に、迫害から逃れて新大陸へ渡ったという説に、あるいは、厳重な保護のもとで今日も密かに存在し、世界を一変させる可能性を秘めた力を守り続けているとも...
あまり知られていない事実として、最初の九人全員が血縁や結婚によってつながったある一族の出身であったそうな。そのうち八人については、歴史的な文書に名前が記されているが、九人目については今もなお謎のままだという。なぜ、九人目の名前だけが記されていないのか?本物語では、それが女性だった可能性を匂わせる。当時の時代背景からして、女騎士の存在は秘密にされたとさ...
本拠地は、エルサレムの神殿の丘。ユダヤ最古の口伝律法ミシュナによると、ユダヤ人と見なされるためにはユダヤ人の母を持たなければならない。血統に父親は一切関係なく、ユダヤの伝統は女性の血筋を通してのみ後世に伝えられる。
そして、物語の主役は、女系ということに。大統領の座を奪って世界支配を目論む女の正体は?


2. 三重螺旋構造... 女性遺伝
大統領の娘は、ある不妊クリニックの手術によって妊娠した。精子のドナーはランク付けされる。容貌、IQ、病歴、民族など多くの基準によって。何をご所望かな!
ギルドが欲したのは胎児と、その遺伝的実験の成果である。遺伝情報といえば、DNA の二重螺旋構造がある。遺伝子工学の聖杯とでも言おうか。これに三つ目の鎖を加えると、Three Times Three の儀式が始まる。3x3 は、テンプル騎士団の九人目を意味するのか?
PNA 鎖を加えることによって、DNA の二重螺旋構造が持つすべての力を解き放ち、命の青写真が提供されるという。ゲノム学者たちは特定の遺伝子のスイッチを切ったり入れたりできる人工の鎖を生成することが可能になるとか。癌をブロックしたり、何百もの遺伝病を治療したり、寿命を延ばすことだって。そして、究極の目的は、不老不死!
PNA に好きなように遺伝コードを書き込み、受精卵に挿入すれば、もはや神が人間を進化させるなんてことはなくなる。この鎖は、生物学と科学技術とを融合させたサイバー遺伝学の産物か。いよいよ神が待ち望んだライバルの出現か!そう、悪魔の...
尚、コペンハーゲン大学の研究チームが、二本の DNA 鎖の間に PNA 鎖を挿入することに成功したのは事実だそうな。
「三重螺旋構造を持つ男性は、言ってみればラバと同じことだ。永遠に生きるかもしれないが、遺伝的には行き止まり... 男性の精子には本人の DNA の半分しか含まれていないが、女性の卵子には本人の DNA の半分のほかに、細胞質のすべてとそのゼリー状の細胞液の中にありとあらゆるものが含まれている。ミトコンドリア、細胞小器官、蛋白質... この場合は、PNA も。」
PNA 鎖を子孫へ伝えることができるのは女性の特権というわけか。なので、生まれてくる子供に、女の子をご所望ときた。
しかし、大統領の娘が生んだ子は、男の子だった。つまり、用済み!


3. 不死の人間は存在しうるのか?
現代の科学研究では、人間の寿命は百二十歳という説を見かける。だが、人間の寿命が延びるだけで、様々な弊害が生じている。人口過剰、飢饉、経済の停滞など。人間が死ぬのには意味がある。生への意欲や世代の活性化など。
不死の秘薬は、古代エジプトから伝えられてきた、いわば人類の夢。これが実現した社会とは、どんな社会であろうか。事故や災害で命を落とすことがあっても、寿命で命を失うことがなくなるとすれば、より命の尊さが感じられるだろうか。いや、死こそが尊いものとされるかも。希少価値が高くなるのは、経済の鉄則だ。そして、責任だけが、肥大化しそうな。人間ってやつは、誰かのせいにしながら生きていくのが得意ときた。それで、楽になれるのだから。すでに、「自己責任」という用語は、お前が悪い!という意味で使われている。それで、自殺願望を増殖させていくのか。
PNA ってやつは、寿命を延ばすだけでなく、人間を再起動する上でも役割を果たすという。それで、この世に不死の人間は存在しうるのか?との問いには...「もちろんだとも!」

2021-10-03

"ジェファーソンの密約(上/下)" James Rollins 著

読書という習慣が良いことかどうかは知らん。が、おいらにとって手を出してはならない毒書がある。仕事へ向かう気力を完全に封じ込め、朝までかっぱえびせん状態にするヤツらが... 酒瓶とグルになって...
推理小説には魔物が棲む。こいつが、おいらの読書人生の基本ジャンルなだけに、もう依存症!だからこそ、手を出してはならない...


ところで、老化や認知症に日没症候群というものがあると聞く。痴呆などの症状は夜に悪化する傾向があるとか。黄昏現象ってやつか。虫どもには灯りに集まる習性があるが、人間も光を失うと何かを求めて徘徊をはじめるのか。おいらの場合も衝動に駆られるのは、きまって日暮れ時ときた。Bar は 5 時から!と謳っている行付けもあるし...そして今、クタクタ感に浸りながら、じっと空き瓶を見る。昨晩、開けたばかりのグレンリベット18年が、朝の陽光を透けて眩しい...


さて、ロリンズ小説の魅力は、なんといっても、歴史と科学の狭間でもがき、事実とフィクションの狭間でもがき、想像力を掻き立てるところ。知的探求の場面で集中力を要請し、アクション場面で息抜きをさせてくれるのも、こいつの醍醐味!
そして、シグマフォース・シリーズに手を出すのは、これで七作目だ。このシリーズの邦訳版は、ゼロ番から数えるので六番目の作品ということになるが、とうに十番を通り過ぎ、まだまだ道のりは長い。そして、何のために?おいらの読書人生とは、いったいなんなんだ?こんな問い掛けにも挑発してきやがる。「答えを知りたいなら、読み続けることだ...」と。
しかし、もうリズムは分かっている。翻訳者桑田健氏のリズムも...


原題 "The Devil Colony"... これは、アメリカ建国にまつわる物語である。まず、重要なキーワードは三つ、「モルモン教」、「アメリカ先住民の白いインディアン」、「建国の父たち」。これに最先端科学「ナノテクノロジーの錬金術」が絡んだ時、「大いなる秘薬」とやらが浮かび上がる。
人間ってやつは、陰謀説に目がない。自然な成り行きですら、裏で糸を引く存在を想像せずにはいられない。神の仕業というだけでは満足できないのだ。推理小説ともなれば、深読みするは必定。
陰謀説で欠かせないキーワードといえば、ユダヤ、フリーメイソン、テンプル騎士団、グノーシス派といった秘密結社の類い。アメリカ建国の父たちにも、フリーメイソンを多く見かける。ベンジャミン・フランクリンやジョージ・ワシントンなど。トーマス・ジェファーソンもフリーメイソンだったかは定かでないが、なんらかの形で関わっていたのは確かなようである。
しかしながら、本物語では、これらのキーワードは補足的な役割でしかない。歴史には、光と闇が存在する。そして、闇は葬られてきた。それは、民主主義の源泉にまつわる何か...


1. 合衆国の国璽
アメリカ合衆国の国璽を眺めると、白頭鷲の頭には 13 個の星がダビデの星の形に並べられ、鷲の鉤爪にはオリーブの枝と 13 本の矢が握られている。オリーブの枝は平和への願い、13 本の矢は争いを束ねること。そして、鷲の頭はオリーブの方を向いている。建国時の植民地の数は 13 で、これらが団結して一つの国家を成すという意味だ。ただ、ユダヤを象徴するような絵柄。このことが、現在でもアメリカ政府がイスラエルに執着する理由と絡めて噂される。


2. 十三本の矢の逸話
十三本の矢が描かれる裏には、カナサテゴ族長にまつわる話がある。
ちなみに、日本の戦国武将毛利元就にも三本の矢の逸話があるが、スケールが違う。13 と 3 の違いも偶然とはいえ...
1744年、族長は入植者と会合を持ち、イロコイ連邦を事例に、国家を成すために一つにまとまる模範を示したそうな。この会合にはフランクリンも同席したらしい。そして、出席者たちが族長の言葉を伝えて、合衆国憲法を起草したとさ。
カナサテゴ族長は実在したイロコイ族の指導者で、彼を「幻の建国の父」と呼ぶ人も少なくない。イロコイ連邦の憲法が独立宣言をはじめとするアメリカ建国の文書に貢献したことは、1988年に可決された 331 号決議案で認められているそうな。そして、どこかで見たような文面が綴られる...
「我々人民は、連邦を形成し、平和と平等を樹立し...」
民主主義というイデオロギーの起源がインディアンにあるとすれば、西洋主義も色褪せる。近代民主主義の起源をアメリカ独立戦争やフランス革命とするのは、どうも薄っぺらだ。平和や自由にしても、基本的人権にしても、どこの地域にも見られる社会現象であり、なにも西洋文明の賜物というわけではあるまい。むしろ、人類普遍の価値観なのでは。
とはいえ、哲学的に用語を定義し、政治学という学問を広めた貢献は讃えたい...


3. 十四番目の支族とモルモン教
国立公文書館に残される図案には、14 本の矢がスケッチされているという。十四番目の植民地が存在したということか?それがなんらかの形で抹殺されたのか?
現代でも、古代の白色人種の遺体がアメリカ各地で発掘され、人類学者を困惑させているという。ケネウィック人、ネバダ州スピリット洞窟のミイラ、オレゴン州のプロスペクト人、アーリントン・スプリングスの人骨など。
モルモン教の聖典によると、アメリカ先住民の起源がイスラエルの失われた支族にあると記されているとか。DNA 鑑定でこの説は否定され、初期のアメリカ先住民はアジア起源とされているらしい。
ただ、先住民の言語では、ヘブライ語との共通点が多く見られるとか。ここでは「改良エジプト文字」という用語を持ち出す。それは、エジプト語の要素を取り入れたヘブライ語の進化形とされる。こうした文字が彫られた金の板が、アメリカ各地で発見されているという。
尚、1800年代半ば、モルモン教徒の開拓者と先住民との間に多くに軋轢が存在し、虐殺や戦争に発展した例も多くあり、現代でも、モルモン教に対する嫌悪が根深く残っているらしい。
歴史を振り返れば、国家統一のプロセスは茨の道に覆われている。反発した部族もあれば、犠牲になった部族もある。契約を結べば、契約反故もする。民主主義とは、部族間の同意の上で成り立つものだけに...
ジェファーソンは、メリウェザー・ルイスとルイス・クラークの二人をアメリカ大陸の探検に派遣している。その主目的が、先住民の監視であったことが、議会に宛てた秘密の書簡で明らかになっているという。それで、建国の父たちが、なぜイスラエルの失われた支族に執着していたのかは知らんが...


4. ナノテクノロジーの錬金術に守られた秘薬
錬金術に取り憑かれるのは、人間の欲望の顕れ。かのニュートンまでも。ナノテクノロジーをもってすれば、賢者の石が作れるのかは知らんが...
さて、本物語では、金で封印した「大いなる秘薬」ってやつが注目される。古代の人々は、不安定な物質を断熱するために金で覆い、さらにナノ状の金でできた地図を封印したらしい。ナノ状の金を溶かすには金を溶かすよりもはるかに高い温度が必要で、地図は確固たる場所に保管されていたわけだ。不安定な物質とは、ニュートリノであり、こいつが大量放出すると、地球規模の大爆発につながる。ある箇所に溜まった素粒子が活動を始めると、他の場所に溜まった素粒子の活動を誘発するというから、いわば、素粒子の連鎖反応による大量破壊兵器。その引き金となる秘薬の存在する場所が地図に記され、ナノテクノロジーの錬金術によって守られているという寸法よ。
シグマフォースの隊員たちは、この秘薬をめぐってテロ組織「ギルド」と戦うというお馴染みの展開。
ちなみに、ニュートリノの観測では、岐阜県に設置された「スーパーカミオカンデ」が、ひと役演じる。
ナノテクノロジーといえば、ナノマシン、ナノワイヤ、カーボンナノチューブといったものを思い浮かべる。現代の最先端技術として認識されているが、その起源を遡れば、中世の職人技術に見るばかりか、古代技術の痕跡にも発見されているという。アメリカ先住民の一部族は、けして入植者たちに知らしめてはならない技術を隠蔽していたというのか?建国の父たちは、その技術を欲して、14番目の属州に加えようとしたのか?


「科学は私の情熱であり、政治であり、義務である。」... トーマス・ジェファーソン