原題 "Understanding Media, - The Extensions of Man. "
「メディアはメッセージである」との言葉を遺したマーシャル・マクルーハン。彼は問う。メディアというものを、いかに理解するか... メディアが発信するものを、いかに解釈するか... と。
メッセージそのものは言語的だが、その意図するものは非言語的な領域に及ぶ。現在は電子デバイスの時代、認識空間は仮想空間へ拡張され、現実離れした疑似体験もできる。テクノロジーは五感を刺激し、人間の意識を拡張させていく。それは人間自身を高めているのか、それとも堕落させているのか...
尚、後藤和彦、高儀進訳版(竹内書店)を手に取る。
「眼に見える世界はもはや現実ではない。眼に見えない世界はもはや夢ではない。」
... W. B. イェイツ
人間の意識にとって、メディアの影響力は絶大である。過去にも、無知や偽りの情報によって世界が翻弄された例は多い。ヒトラーがマスメディアの威力によって大衆を扇動したのは、まさにマクルーハンが生きた時代。
そして今、過去とは比較にならぬほど情報へのアクセスが容易となり、拡散の勢いは指数関数的に増す。真実に劣らず、虚偽も、誤謬も、想像上の産物も、大手を振ってやがる。無知や無関心も危険だが、偽りの知識はより危険に...
「レーニンはかつてこう言った。『新聞は集団的宣伝者であり、煽動者であるだけでなく、集団的なオルガナイザーである。』スターリンは新聞を『わが党のもっとも強力な武器』と言ったし、フルシチョフは『われらの主要なイデオロギー兵器』とよんだ。彼らは、個人的な見解を表現する印刷文字よりも、それ自身の立場を押しつける魔力をもった新聞モザイクの集団的形態の方に眼をつけたのである。」
メディアは、ナショナリズムと個人主義の双方を作り上げたという。前者は集団意識の高揚によって、後者はその批判によって、いずれも集団意識の中から生じた... と。
ホットなメディアとクールなメディアは、いつも火花を散らす。熱狂的な大衆には沈着冷静な個人が対抗し、主観性と客観性、感情と論理性などの二項対立によって人間の認識は組み立てられる。時には反発しあい、時には協調しあい... こうした認識原理は、今も昔も変わらない。
かつて、テレビが熱狂すれば、その反論が印刷物に現れ、第三者の冷めた目線がどこかに感じられた。今では、一つのメディアの中にホットな見識とクールな見識が共存し、その区別も難しく、互いのリアルタイム性が論争をさらに過熱させていく...
「メディアの異種交配あるいは雑交は、核分裂や核融合のように、大きな力、エネルギーを放出する。この場合、観察の対象が分かってさえいれば、盲目ということはありえない。すでに明らかなように、メディアあるいは人間の拡張は、『生起させる』動因ではあるが、『目覚めさせる』動因ではない。このような異種交配や合成の動因は、メディアの構成要素や属性を知る絶好の機会を与えてくれる。『サイレント映画が音を呼び求めたように、トーキーは色を呼び求める』と、セルゲイ・エイゼンシュテインは『ある映画監督のノート』に書いている。」
企業は、ユーザが何を望んでいるか、といった漠然とした文句に支配され、メディアも負けじと、視聴者は何を求めているか、という決まり文句に囚われる。そして、あらゆる情報伝達システムが劇場化していく。マスコミは、増すゴミ!などと揶揄されるが、参加型メディアともなると、さらにコメントゴミに溢れ、人間社会はゴミ屋敷と化す。参加者はみな、炎上の共犯者か。不安を煽れば、注目を集める。これが報道の原理。不安が増大すれば、自己防衛本能が強く働き、意識を偏重させる。これが人間の原理。
大量の詐欺広告にまみれば、それにも慣らされ、感覚を麻痺させていく。マクルーハンは、情報に対して誰もが関与し、参加を余儀なくされる社会を「現代は不安の時代である」と呼んでいるが、より正確に、不安拡張の時代!としておこう...
マスメディアが勢いづけば、集団意識が巧みに操られ、自己を大衆の中に埋没させていく。ソーシャルメディアが勢いづけば、個人の主張が強調され、自我を肥大化させていく。分かりやすく、心地よいフレーズに人は群がる。昆虫が光に集まるように。人は自分の気に入った情報の中に自己の居場所を求め、それを裏付ける情報のみで自己を確認する。
もはや、GAFAM や Magnificent 7 といった巨大企業に依存している場合ではあるまい。おまけに、すべてが米系企業とくれば、一大国によって意識の画一化へ誘導されていると見ることもできる。
広告過多の社会は息が詰まる。情報が溢れ、知識が増すほど、自己を見つめることが難しくなっていく。だがその反面、無意識という状態をより意識するようになる。周りを知りたいという欲求は自己へ向けられ、自己とは何か、人間とは何か... といった哲学的な問いに耽る。禅問答でもやるかのように。自意識ってやつは、自己を知り得ない状況ほど一層強くなるのやもしれん...

