2021-10-03

"ジェファーソンの密約(上/下)" James Rollins 著

読書という習慣が良いことかどうかは知らん。が、おいらにとって手を出してはならない毒書がある。仕事へ向かう気力を完全に封じ込め、朝までかっぱえびせん状態にするヤツらが... 酒瓶とグルになって...
推理小説には魔物が棲む。こいつが、おいらの読書人生の基本ジャンルなだけに、もう依存症!だからこそ、手を出してはならない...


ところで、老化や認知症に日没症候群というものがあると聞く。痴呆などの症状は夜に悪化する傾向があるとか。黄昏現象ってやつか。虫どもには灯りに集まる習性があるが、人間も光を失うと何かを求めて徘徊をはじめるのか。おいらの場合も衝動に駆られるのは、きまって日暮れ時ときた。Bar は 5 時から!と謳っている行付けもあるし...そして今、クタクタ感に浸りながら、じっと空き瓶を見る。昨晩、開けたばかりのグレンリベット18年が、朝の陽光を透けて眩しい...


さて、ロリンズ小説の魅力は、なんといっても、歴史と科学の狭間でもがき、事実とフィクションの狭間でもがき、想像力を掻き立てるところ。知的探求の場面で集中力を要請し、アクション場面で息抜きをさせてくれるのも、こいつの醍醐味!
そして、シグマフォース・シリーズに手を出すのは、これで七作目だ。このシリーズの邦訳版は、ゼロ番から数えるので六番目の作品ということになるが、とうに十番を通り過ぎ、まだまだ道のりは長い。そして、何のために?おいらの読書人生とは、いったいなんなんだ?こんな問い掛けにも挑発してきやがる。「答えを知りたいなら、読み続けることだ...」と。
しかし、もうリズムは分かっている。翻訳者桑田健氏のリズムも...


原題 "The Devil Colony"... これは、アメリカ建国にまつわる物語である。まず、重要なキーワードは三つ、「モルモン教」、「アメリカ先住民の白いインディアン」、「建国の父たち」。これに最先端科学「ナノテクノロジーの錬金術」が絡んだ時、「大いなる秘薬」とやらが浮かび上がる。
人間ってやつは、陰謀説に目がない。自然な成り行きですら、裏で糸を引く存在を想像せずにはいられない。神の仕業というだけでは満足できないのだ。推理小説ともなれば、深読みするは必定。
陰謀説で欠かせないキーワードといえば、ユダヤ、フリーメイソン、テンプル騎士団、グノーシス派といった秘密結社の類い。アメリカ建国の父たちにも、フリーメイソンを多く見かける。ベンジャミン・フランクリンやジョージ・ワシントンなど。トーマス・ジェファーソンもフリーメイソンだったかは定かでないが、なんらかの形で関わっていたのは確かなようである。
しかしながら、本物語では、これらのキーワードは補足的な役割でしかない。歴史には、光と闇が存在する。そして、闇は葬られてきた。それは、民主主義の源泉にまつわる何か...


1. 合衆国の国璽
アメリカ合衆国の国璽を眺めると、白頭鷲の頭には 13 個の星がダビデの星の形に並べられ、鷲の鉤爪にはオリーブの枝と 13 本の矢が握られている。オリーブの枝は平和への願い、13 本の矢は争いを束ねること。そして、鷲の頭はオリーブの方を向いている。建国時の植民地の数は 13 で、これらが団結して一つの国家を成すという意味だ。ただ、ユダヤを象徴するような絵柄。このことが、現在でもアメリカ政府がイスラエルに執着する理由と絡めて噂される。


2. 十三本の矢の逸話
十三本の矢が描かれる裏には、カナサテゴ族長にまつわる話がある。
ちなみに、日本の戦国武将毛利元就にも三本の矢の逸話があるが、スケールが違う。13 と 3 の違いも偶然とはいえ...
1744年、族長は入植者と会合を持ち、イロコイ連邦を事例に、国家を成すために一つにまとまる模範を示したそうな。この会合にはフランクリンも同席したらしい。そして、出席者たちが族長の言葉を伝えて、合衆国憲法を起草したとさ。
カナサテゴ族長は実在したイロコイ族の指導者で、彼を「幻の建国の父」と呼ぶ人も少なくない。イロコイ連邦の憲法が独立宣言をはじめとするアメリカ建国の文書に貢献したことは、1988年に可決された 331 号決議案で認められているそうな。そして、どこかで見たような文面が綴られる...
「我々人民は、連邦を形成し、平和と平等を樹立し...」
民主主義というイデオロギーの起源がインディアンにあるとすれば、西洋主義も色褪せる。近代民主主義の起源をアメリカ独立戦争やフランス革命とするのは、どうも薄っぺらだ。平和や自由にしても、基本的人権にしても、どこの地域にも見られる社会現象であり、なにも西洋文明の賜物というわけではあるまい。むしろ、人類普遍の価値観なのでは。
とはいえ、哲学的に用語を定義し、政治学という学問を広めた貢献は讃えたい...


3. 十四番目の支族とモルモン教
国立公文書館に残される図案には、14 本の矢がスケッチされているという。十四番目の植民地が存在したということか?それがなんらかの形で抹殺されたのか?
現代でも、古代の白色人種の遺体がアメリカ各地で発掘され、人類学者を困惑させているという。ケネウィック人、ネバダ州スピリット洞窟のミイラ、オレゴン州のプロスペクト人、アーリントン・スプリングスの人骨など。
モルモン教の聖典によると、アメリカ先住民の起源がイスラエルの失われた支族にあると記されているとか。DNA 鑑定でこの説は否定され、初期のアメリカ先住民はアジア起源とされているらしい。
ただ、先住民の言語では、ヘブライ語との共通点が多く見られるとか。ここでは「改良エジプト文字」という用語を持ち出す。それは、エジプト語の要素を取り入れたヘブライ語の進化形とされる。こうした文字が彫られた金の板が、アメリカ各地で発見されているという。
尚、1800年代半ば、モルモン教徒の開拓者と先住民との間に多くに軋轢が存在し、虐殺や戦争に発展した例も多くあり、現代でも、モルモン教に対する嫌悪が根深く残っているらしい。
歴史を振り返れば、国家統一のプロセスは茨の道に覆われている。反発した部族もあれば、犠牲になった部族もある。契約を結べば、契約反故もする。民主主義とは、部族間の同意の上で成り立つものだけに...
ジェファーソンは、メリウェザー・ルイスとルイス・クラークの二人をアメリカ大陸の探検に派遣している。その主目的が、先住民の監視であったことが、議会に宛てた秘密の書簡で明らかになっているという。それで、建国の父たちが、なぜイスラエルの失われた支族に執着していたのかは知らんが...


4. ナノテクノロジーの錬金術に守られた秘薬
錬金術に取り憑かれるのは、人間の欲望の顕れ。かのニュートンまでも。ナノテクノロジーをもってすれば、賢者の石が作れるのかは知らんが...
さて、本物語では、金で封印した「大いなる秘薬」ってやつが注目される。古代の人々は、不安定な物質を断熱するために金で覆い、さらにナノ状の金でできた地図を封印したらしい。ナノ状の金を溶かすには金を溶かすよりもはるかに高い温度が必要で、地図は確固たる場所に保管されていたわけだ。不安定な物質とは、ニュートリノであり、こいつが大量放出すると、地球規模の大爆発につながる。ある箇所に溜まった素粒子が活動を始めると、他の場所に溜まった素粒子の活動を誘発するというから、いわば、素粒子の連鎖反応による大量破壊兵器。その引き金となる秘薬の存在する場所が地図に記され、ナノテクノロジーの錬金術によって守られているという寸法よ。
シグマフォースの隊員たちは、この秘薬をめぐってテロ組織「ギルド」と戦うというお馴染みの展開。
ちなみに、ニュートリノの観測では、岐阜県に設置された「スーパーカミオカンデ」が、ひと役演じる。
ナノテクノロジーといえば、ナノマシン、ナノワイヤ、カーボンナノチューブといったものを思い浮かべる。現代の最先端技術として認識されているが、その起源を遡れば、中世の職人技術に見るばかりか、古代技術の痕跡にも発見されているという。アメリカ先住民の一部族は、けして入植者たちに知らしめてはならない技術を隠蔽していたというのか?建国の父たちは、その技術を欲して、14番目の属州に加えようとしたのか?


「科学は私の情熱であり、政治であり、義務である。」... トーマス・ジェファーソン

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