2024-02-11

"LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略" Lynda Gratton & Andrew Scott 著

時間という物理量が、誰にでも平等に与えられているかは知らん。が、人生が長くなれば、それだけ考える時間も長くなる。鼓動や脳波の周波数に個人差があれば、時間の速さや感じ方も違うであろう。夭逝した偉人たちは、素早く時代を駆け抜けていった。天才とは、早世するものなのか。あまりに研ぎ澄まされた才能ゆえに、自ら寿命を縮めてしまうのか...
長く生きれば、それだけ充実した人生が送れるわけではない。いや、むしろ苦悩を長引かせるだけかも。人生ってやつは、長かろうが、短かろうが、有意義に生きることは難しい。百年時代ともなると、人生計画も思い通りにはいくまい。先が見通せないだけに、不確実性に対する心構えが問題となる。だがそれでも、ぶれない根本の哲学は持っておきたい。
ちなみに、おいらの座右の銘は、今はこれ!ちょくちょく変わるのだけど...

"Live as if you were to die tomorrow. Learn as if you were to live forever."
「明日死ぬと思って生きよ。不老不死だと思って学べ。」
... マハトマ・ガンディー

さて、本書のテーマは、長寿という贈り物を、どうやって謳歌するか...
人生が長くなれば、まず、お金の問題が気になる。老後に必要な資金は... などとファイナンシャルプランナーが算出すれば、年金も心もとなく、社会全体に重苦しい空気が...
本書は問いかける。意識がお金の問題に偏りすぎてはいないか... 他にも同じくらい大事なことがあるのでは... と。そして、従来の人生観を「教育、仕事、引退」の 3 ステージで区分し、もっと多くのステージを模索すること。さらに、マルチステージに挑戦することを奨励している。第二の人生という言葉もあるが、第二と言わず、第三でも、第四でも... しかも、マルチタスクで... おまけに、年齢や世代を超えて、今すぐやってみよう!というわけだ。
尚、池村千秋訳版(東洋経済新報社)を手に取る。

「アイデンティティ、選択、リスクは、長い人生の生き方を考えるうえで中核的な要素になるだろう。人生が長くなれば、経験する変化も多くなる。人生で経験するステージが多くなれば、選択の機会も増える。変化と選択の機会が増えるなら、人生の出発点はそれほど重要でなくなる。そのような時代に生きるあなたは、年長世代とは異なる視点で自分のアイデンティティについて考えなくてはならない。人生が長くなるほど、アイデンティティは人生の出発点で与えられたものではなく、主体的に築きうるものになっていく。」

人生の道のりで、どんなステージを思い描くかは人それぞれ。スキルアップのステージ、旅で視野を広げるステージ、大学に行って再教育を受けるステージ、稼いで貯蓄を潤すステージ、ビジネスを立ち上げ野心に燃えるステージ、そして独りになって人生を見つめるステージ... と。どのステージに身を置こうと、自分を見失わないこと。いや、自分自身を知ること、もっともっと自分というものを知ること。それは、ソクラテスの時代から唱えられてきた難題である。人生が長くなれば、自分自身と向き合う時間も長くなる。いろんなステージを経験すれば、自分というものが、より確かなものになるやもしれん。いや、誇大妄想に駆り立てられるやも。
金融資産のポートフォリオよりも、人生のポートフォリオだ。スキルのポートフォリオに、仕事のポートフォリオに、シナリオのポートフォリオに、無論リスクヘッジも欠かせない。いよいよ、真の多様化時代の到来か...
しかしながら、人生を主体的に生きることは難しい。凡庸な人間には過酷だ。ただし、主体的に生きている気分になることは、そう難しくない。凡庸なだけに...

本書は、「自己効力感」「自己主体感」の両方を持つことを説く。自己効力感とは、自分ならできるという認識。自己主体感とは、自ら取り組むという認識。どちらも、今もてはやされる自己肯定感に結びつく。ただ、人間ってやつは、相対的な認識能力しか持ち合わせておらず、自己肯定感を他人否定で支えるのでは本末転倒。時には、論理的な悲観論も欠かせない。何事も、野心的すぎても、保守的すぎても、うまくいかない。
冒険心は若さの特権ではないが、歳を重ねれば、どうしてもリスクを恐れる。物事を知れば知るほど臆病になりがち。特に、お金のギャンブルは避けたい。
そこで、無形資産の重要性を説く。知的財産なら、いくらでも挑戦できそうだ。安全志向も、挑戦志向も、捨てがたいとなれば、どう使い分けるか。これも人生戦略のうち。
資産は、なにも金融資産だけではない。知識資産に、スキル資産に、人間関係資産に、活力意欲資産に、変身願望資産に... 自分の持ち分でどう組み立てるか。人生戦略では、有形資産よりも無形資産の方が重要なのやもしれん...

現代は技術革新によって利便性が高まり、ますます時間の使い方を考えさせられる。人間が本来やるべきこととは何か。高齢者医療や年金ばかり見ていると人間の本分を見失う。単に機械に頼り、依存症を患うのでは、人間までも失いかねない。
では、人間と機械との違いとはなんであろう。いま、人間を凌ぐ勢いで進化を続ける AI。こいつに対抗できる能力が人間にあるとすれば、それはなんであろう。物理化学者マイケル・ポランニーは、こんなことを主張したという。

「人は言葉で表現できる以上のことを知っている。」

AI は獲得した知識のすべてを言語化、あるいは記号化する。だが、人間は言葉にできない多くのことを潜在的に、あるいは無意識的に知っている。このあたりに、人間と機械の境界があるのやもしれん。
しかし、人間が言葉にできない知識まで言語化する能力を、AI が会得しちまったらどうだろう。進化した AI は人間に命ずるやもしれん。人間どもを排除せよ!と。人間が得意とする排外主義は人間自身へ向かう。生きる権利を主張するなら、死ぬ権利を主張してもいい。裏社会に暗躍する安楽死ビジネスは盛況となり、尊厳死という価値観が見直されていく。しかも、AI の管理下で...

ついでに、おまけ... いや、愚痴か...
長い人生では、経験したくないステージにも遭遇する。本書からは、ちょいと断線するが、高齢化社会における現実的なステージを一つ付け加えておこう。
仕事と家事の両立で苦労している人も少なくなかろうが、長寿化が進めば、さらに介護との両立も必要となる。まさに、おいらが直面している問題だ。しょんべんまみれで御飯を作り、ウンコまみれでキーボードを叩く。このマルチステージは、かなり手ごわい。仕事が自由に選べる立場として独立し、個人事業主となったが、まさか、介護との両立で機能しようとは。プロジェクトマネジメントの経験が、介護マネジメントにも役立っているとは、なんとも皮肉である。長く生きていれば、どんな経験が役立つか分からない。無駄なステージも、無駄ではなくなるかもしれない。家事を一つのステージとするなら、介護も一つのステージ。そして、三世代分の面倒を見なきゃならん時代の到来か。合理的な家族構成は、むしろ多世帯の方にあるのかも。人間嫌いには辛いが...

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