2026-04-05

"〆切本" 左右社編集部 編

〆切ひしめく日常。リリース日が近づくと、きまって管理役が声を荒げる... 死守せよ!
すべては約束事に始まり、不平等契約もなんのその。いわれのない義務を背負わされ、仮病にも縋る。責任に考えを巡らすと前にも進めず、鬱病ぎみな人が精神科にかかって本当に鬱病になっちまうようなもの。おまけに、ぼんやりとした不安が暗示をかけてくる。ほんとに死んじまった方が楽になれるやもしれん... と。

「人生とは、〆切である!」

古くは人間五十年と詠われ、今や人生百年時代と言われる。倍になっても尚、時間は無常だ。短い人生を有意義にしようと思っても、好きなことを商売にして生きていくことは難しい。いくら好きでも嫌気が差すこともしばしば。好きが苦悩になろうとは... 原因は、金か、人間関係か。いや、生きること自体が苦悩やもしれん。それでも取り憑かれたように熱中できるのは、やはり才能か。それが、好きなことをして生きていくための資質か。仕事がなくなることへの恐怖心は抑えがたいはずだが...

「あとの一週間で猫をかたづけるんです。いざとなればいや応なしにやつゝけます。... 夏目金之助。」

本書は、書き手たちの〆切にまつわるエピソード集。いや、「しめきり症例集」だそうな。〆切哲学をぶちまける書き手たちに、それが病的であるが故に読み手は勇気づけられる。パンツのゴムのように延びる〆切。それでもボツにならない文壇メカニズムとは... 作家が愚痴を漏らせば、編集屋も負けじと本音をこぼす。書けない時に書かせようとする作家殺しがいれば、〆切が過ぎて、ようやく書き始めるツワモノまで...

「向田邦子は遅筆だった。遅筆にも二種類あって、ギリギリまで書かないが書きだせば早いという人と、原稿用紙に向って呻吟するタイプとがある。彼女は前者だったと思われるが、締切日を過ぎてから書きだすというのだから恐れいってしまう。... 山口瞳」

他の症例には... 掲載するからには編集側にも責任の半分があると責任論を掲げる編集屋、「手塚おそ虫」と陰口をたたかれる漫画家、「缶詰体質」を称し、おいしい缶詰のされ方を処方してはマゾヒスト論を展開するコラムニスト、締切が守れないと言いつつも、「締切の効能」を論じる学者、「書かないことの不安、書くことの不幸」をつぶやく小説家、「自由という名の不自由」を噛みしめる作家... などなど。そして、この病の潜伏期間方程式を提示する小説家まで...

  S =   G2 × N × I × M
 H 

S は病原体の潜伏期間、G は原稿の枚数、N は締切までの残り日数、I は患者の意気込み、M は完成時の報酬。ここで鍵を握るのは、H だという。編集者の原稿取り立て術の巧拙で、潜伏期間も短くなるとさ...

「どの業者に対しても、とにかく『先生、先生』とおだてておいて、陰では呼び捨てている編集者がいるものだ。そいういう編集者にかぎって、誰それに『書かせる』という言い方をする。... 川本三郎」

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