2007-08-12

"アメリカ経済終わりの始まり" 松藤民輔 著

アマゾンを放浪していると、お薦め品の中に本書があった。タイトルからして経済界の陰謀めいた話を期待しつつ衝動買いするのである。その実体は、投資理論と資産運用論を語った経済学書であるが、アメリカ経済の悲観論や政治陰謀などリズミカルに読める部分も多くストレス解消によい。もしかしたら、ちょうどサブプライム問題とマッチしているかもしれない。ただし、日本経済の底力については信じたい面もあるが、やや評価し過ぎのように感じる。本題である投資理論の部分は、概念的には分かりやすく書いているが、実践となるとアル中ハイマーは途方に暮れるしかない。資産運用の考え方は参考にできそうだ。

冒頭から「種の起源」のダーウィンの言葉から始まる。
「生物史の中で勝ち残ったものは、頭のいい生物でもなければ、強い生物でもなかった。それは変化に順応する生物だった。」
個人でも企業でも国家であろうと、自己変革を忘れたものに未来はないと語られる。そして、いまやアメリカで残る世界産業はIT業界を除いて金融業だけであると続く。金融業は雇用に貢献もしなければ、資金はボーダーレスで世界を動き回る国籍がない業種である。国内経済がどうなろうと関係ない業種であると語られる。

1. 金の役割
本書は、いずれ金が世界の基軸通貨として役割を果たすと主張している。今更、金本位とはなんだ?本書のいまいちわからないところである。ただ、今後アメリカ市場の暴落とBRICsの破綻を予想している点は興味がわく。アメリカ市場が暴落すれば、その市場規模からして受け皿となりうるのが日本市場だという。しばらくは、アメリカ市場に追従するだろうが、数年で日本経済の底力が発揮されるという。確かにアメリカの市場規模からして簡単に受け皿になりうる市場は限られる。暴落すれば、短期的なドル暴騰となりうるだろうが、やがて下落に転じる。その結果、ドル暴落後の世界基軸通貨が金になるというのである。
ユーロじゃないのか?本書のように日本経済の底力を信じるならば、円じゃないのか?アメリカの市場規模で暴落すれば、どこの通貨も信用できない事態になっているかもしれない。それで貨幣価値が無くなるというのは一理ある。
本書は、もはや米国債は紙切れ同然であると述べている。日本政府は相変わらず買いつづけている。日銀はFRB同様会計監査を必要としないのはよく聞く話であるが、国債にしても時価でなく取得価格で計算してよいことになっているらしい。アメリカの戦費は米国債から賄っているのは周知のとおりである。日本が米国債を買うのを止めれば世界平和が訪れるかもしれない。

2. ゼロ金利政策の意味
日銀のゼロ金利政策は、円が世界の基軸通貨になったことを意味するという考察はおもしろい。NYダウの上昇、不動産価格の上昇、短期金利が上昇しても長期金利が低いままで推移、これ全て、日本の資金がアメリカに流出した結果である。つまり、日本のゼロ金利のおかげでアメリカ経済が崩壊しないで済んでいるという。アメリカ人の慢性的な消費体質は債務超過の傾向がある。これは日本人の貯蓄体質と対比してよく言われるが、もはや債務超過は国家財政にまでおよび、いつ金融恐慌が起こっても不思議ではない。
金利は信用度のモノサシであり、歴史的に見ても格付の高い国ほど金利は低い。金利が低くても資金調達ができるからである。市場税を無くし自由営業を許すとは、織田信長の楽市楽座であると語られる。

3. BRICs
中国の最大のリスクは共産党政府であろう。民主化が進めば、かつての日本の高度成長など凌駕できるかもしれないが、急激な方針転換は経済混乱を招く。資金の流れだけならば、物理法則に従い逆流することもあるだろう。しかし、技術の流出は悩みの種である。政府により簡単に接収されかねない。本書では、この点を一国の指導者が3000億円も蓄財する国家とはどんな国か?と語られる。この金額を聞いただけで、隠された政治腐敗、ビジネス腐敗が想像できるだろう。中国に限ったことではないが、大金持ちがいるということは、地べたに這いずり回るその他大勢がいるということだ。
ここで、LTCMについて少し触れているところに目が留まった。アル中ハイマーは興味を持ったことがある。ノーベル経済学賞2人を擁したドリームチームが破綻した話である。コンピュータがはじき出した破綻確率300万から800万分の1を信じて、ロシアへ投資した結果である。ちなみに、歴史的に世界で借金を踏み倒したのは、ロシアと中国の清だけだと述べている。へー!もっと多いかと思っていた。

4. アメリカの凋落
アメリカ凋落の原因は、90年代にものづくり精神が失われた結果であり、アメリカによる世界の一極集中はもう崩れており日本に移転し始めていると語っている。工学専攻の優秀な学生がメーカに就職するよりも、金融業界に流れる傾向がある。アル中ハイマーは、アメリカ凋落については否定はしないが、日本が受け皿になるとは疑問に思う。ものづくりの精神が失われつつあるのは、日本でも似たようなものである。人材派遣業の発達がそれである。堂々と人材派遣を看板にしている会社のみならず、エンジニア会社と称していても実体は人材派遣業というのはよく見かける。しかも、どういう基準で審査されているかわからないが、そこに出資している金融機関がある。アル中ハイマーが関わっている業界では、技術者を大量リストラしている企業も少なくない。しかし、人材不足という矛盾を抱える。これを補うために人材派遣業を利用する。現場は見かけの経費節減を余儀なく強いられる。中間管理職は大変である。技術蓄積も人材育成も難しい状況にあり、レベル、質ともに低下傾向にある。最終的にシステムとして仕上げる意欲が低下し、奇妙な分業体質ができてしまう。

5. 日本のエネルギー効率
天然資源をほとんど持たない日本は、原油価格の高騰は深刻であると主張する経済学者も少なくない。アル中ハイマーも素人ながらそのように思う。しかし、本書は、日本ほどエネルギー効率が優秀な国はないという。原油価格が200ドルになったとしても国家として生き残れるのは日本だけだという。天然資源を持たないから、エネルギー効率を上げようとする努力は伝統的になされてきたのかもしれない。あらゆる規制に日本企業は立ち向かってきた。これも政治に足を引っ張られたことにより、自然と鍛えられた底力なのかもしれない。エネルギー対策は、まともな国家戦略と噛み合えば恐ろしい底力を見せるかもしれない。しかし、そんなに楽観できるとは思えない。

6. 陰謀説
アメリカの戦略は、各地でいかに平和的に緊張感のあるまま保持したいかということだろう。そうすることでアメリカの相対価値が高める。テポドン発射も、日本にミサイル防衛システムを買わせるためである。アメリカは日本が独自の資源外交を展開した田中角栄をロッキード事件で失脚させたという話にも触れる。
9.11テロ事件では、アメリカ自作自演であるかも?と勘ぐる。ワールド・トレード・センターの52、53階には、米国債のメイン取引会社があったらしい。投資銀行のコンピュータシステムも吹っ飛んで米国債の残高と持高が一瞬にして消えた。デリバティブには米国債を使う。つまり、膨大なデリバティブ損失を隠蔽したのではないかという疑いである。9.11陰謀説については、10年ぐらい先に鋭い考察が発表されることだろう。

7. 日本人の投資行動
ここ数年、マスコミや証券業関係の宣伝は、日本人に積極的なリスクへの挑戦を呼びかけている。しかし、本書は、むしろリスクを取らず預貯金に邁進してきた日本人の投資行動を高く評価している。同感である。なんでも周りの動きに惑わされてしまう日本人の風習からしてリスク投資を続けていれば、とっくに破産していた家庭は多いだろう。日本の企業でさえも伝統的に高値を掴まされ続けているのである。
まったくその通りと思わされる例がアル中ハイマーの目の前にもある。
母親は預貯金が習慣である。貧乏の悲しい性である。これは団塊世代の前の世代の特質だろうか?いくつかの金融機関に資産を長期で眠らせていた。それも20年や40年の単位である。最近でこそ金利が低いので回収する方向であるが、元本からして複利による優位性をまざまざと実証している。逆に、支出する時は大胆である。食品などを買う時はバーゲンでないと手を出さないが一気に買い占める。消費行動も極めて計画的である。いつも馬鹿だと思っている母親だが、預入金利と貸出金利のバランスを無意識に実践しているのだ。まさか、右肩上がりの経済が破綻することを予測していたわけではないだろう。金利の有利な時期を有効活用しようと考えたとは到底思えない。物がない時代を生きたのだろうが、だからといって、この世代が節約主義ということにはならない。その対極にいるのがギャンブラー父である。せっかくの利息を父親はサラ金で喰い潰した。そのせいで母親の行動はいつも隠密である。この影響からか?おいらも金利の動きにはうるさい。車を買うにしてもローンなど絶対に組まない。ただ10年以上前、固定資産の購入には税制面の配慮が足らず失敗した。そういえば、昔、パソコンの購入にボーナス分割払いしている奴がいた。半年もしないうちに性能アップしたマシンが半額で売り出されていた。案外、投資活動の真髄とはこうしたものかもしれない。というのもアル中ハイマーは、ある光景と照らしあわしている。数々の金融商品の金利を天秤にかけ、これにより物理法則のように資金が流れ、一旦バブルが崩壊すると、途端に大バーゲンセールされた企業体に海外投資家が群がるような光景である。

最後に本書は資産運営の考え方にも触れている。
将来、金利が6%から8%に上昇するまでに、それなりの資産を蓄え管理できるよう準備しておきたいと促している。これはアル中ハイマーの考えと似ている。ただ、ターゲット金利は5%である。

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