本格的にエディタの選択に迫られたのは、20年前になろうか。Emacs に近寄り難いと感じたのは、当時のデフォルトのキーバインドが酷かったこと。vi の方がましだと思ったぐらい。現在でも、Emacs のキーバインドにうろたえる人は少なくあるまい。ネット社会ともなれば、カスタマイズした設定ファイルを公開してくれる方々がいて、非常に助かる。shell環境もそうだが、この手の設定環境は伝承される傾向があり、情報不足に陥ることはなさそうだ。
とはいえ、デフォルトで使いづらいというだけで、ヤル気が失せる。編集作業において、キーワードの補完や色分けといった機能は必須だ。コーディング中に、変数名の綴りを間違うだけで大きなストレスとなる。ちなみに、Emacs では、テキストの色分け機能がデフォルトで無効になっているという。(require 'generic-x)ってやれば済む話だが。著者は、これだけで Emacs ユーザの損失だと嘆いている。そうだろう!そうだろう!てなわけで、おいらは秀丸エディタ派となった。なんにせよ、テキストエディタってやつは、料理人でいうところの包丁一本... の存在だ!
しかしながら、プラットフォームに依存しない作業環境という観点から、Emacs も捨てがたい。たまには、Emacs + Mew を使うし、TRAMP というリモートアクセス用のパッケージにも興味がある。Windows版や Mac版もあるにはあるが、一昔前はバージョンや OS の違いで互換性が保たれないという印象があった。現在ではそうでもないらしい。
Emacs のマクロ機能は、秀丸エディタのそれとは比べ物にならないのも確か。一つのエディタの中に作業環境を押し込むのもどうか?という疑問もあるが、Emacs はエディタの概念をも超越している。実際、エディタの外に、gcc, Ruby, HTML & JavaScript などの環境を並行して構築しているが、プラットフォームを Emacs で吸収するという考え方もあるだろう。それを実現させるものが、バッファの概念だ。初めて触れた時、そのエレガントな思想に感動したものである。ファイルから独立したバッファの抽象度は高く、作業領域やアプリケーション領域に割り当てることができる。
ざっと眺めるだけでも... コマンドや関数の補完では、Completions バッファが自動で開いて候補が表示される。Help を開けば、そこに表示用バッファが生成される。ファイルを探す時(find-file)、カーソルでディレクトリ階層を辿ることができる。shell との相性がよく、端末として使える。本書は、eshellってやつを紹介してくれるが、病みつきになるらしい。なによりも驚くべきは、一時的な作業領域の scratch バッファが、lisp式を評価する機構を具えていることだ。あるいは、Lisp用対話型インタプリタも用意されている。本書では、これらよりもっといいやり方を教えてくれるけど...
それにしても、秀丸エディタのタブモードは捨てられん!と思いきや、Emacs にもあった。tabbar.elってやつが...
さて、Emacs Lisp の方はというと、ちと印象が違う。多少の方言は覚悟しても、Common Lisp の簡易版ぐらいに思っていたのだが、本書は決定的な違いがあることを教えてくれる。その違いとは、グローバル変数やクロージャの思想、そして、Common Lisp がレキシカルスコープであるのに対し、Emacs Lisp はダイナミックスコープだということ。
例えば... 関数もどきの let ってやつは、Common Lisp ではレキシカルスコープだが、Emacs Lisp ではダイナミックスコープになるんだとか... おいおい!!!
Common Lisp の機能を提供するパッケージ(cl.el)ってやつもあるが、禁止事項があって制限が設けられているという。著者は、そんな無駄なことを... と愚痴を語ってくれる。ソフトウェアを使う上で、達人の愚痴ほど参考になるものはあるまい。Emacs Lisp の進化過程では、Common Lisp の機能から派生したものが多い。昔は、when すらなかったとか。徐々に Common Lisp に近づいていくとすれば、制限することになんの意味があるのか、と疑問を持つのも当然であろう。実際、cl.el は標準装備され、(require 'cl)ってやるだけで使える。Lispユーザは当たり前のように使っているそうな。いくら制限を設けても、民主主義によって淘汰されていくだろう。
また、Emacs lisp はシングルスレッドだが、emacs 自体はマルチスレッドで、擬似マルチスレッドプログラミングのための deferred.el というライブラリも紹介してくれる。
1. Emacs Lisp のためのパッケージ... auto-install.el
auto-install.el は、URLを指定するだけでネット上の Emacs Lisp プログラムをインストールできるようになるという。尚、EmacsWiki(http://www.emacswiki.org/)には、様々なパッケージが集められている。
$ mkdir -p ~/.emacs.d/auto-install
$ cd ~/.emacs.d/auto-install/
$ wget http://www.emacswiki.org/emacs/download/auto-install.el
$ emacs --batch -Q -f batch-byte-compile auto-install.el
.emacs.el
(add-to-list 'load-path "~/.emacs.d/auto-install/")
(require 'auto-install)
(auto-install-update-emacswiki-package-name t)
(auto-install-compatibility-setup)
(setq ediff-window-setup-function 'ediff-setup-windows-plain)
他にも、Lisp 使いに便利そうな5つのパッケージを紹介してくれる。
open-junk-file.el (試行錯誤用ファイルを開く) lispxmp.el (式の評価結果を注釈する) paredit.el (括弧の対応を保持して編集する) auto-async-byte-compile.el (保存時に自動バイトコンパイル) package.el (ELPA/Marmaladeインストーラ emacs24で標準)
ダウンロードは...
M-x install-elisp-from-emacswiki open-junk-file.el
M-x install-elisp-from-emacswiki lispxmp.el
M-x install-elisp http://mumble.net/~campbell/emacs/paredit.el
M-x install-elisp-from-emacswiki auto-async-byte-compile.el
ついでに、tabbar.el も...
M-x install-elisp-from-emacswiki tabbar.el
それぞれダウンロード後にファイルがポップアップするので、C-c C-c とすればインストール完了。2. Lisp式の評価方法
対話的に評価できる方法が二つあるという。一つは、scratch バッファを使う方法。二つは、ielm(Interactive Emacs Lisp Mode)を使う方法。
scratch バッファでは、eval-print-last-sexp コマンドで直下に評価結果が出力される。eval-last-sexp でも評価できるが、出力場所がコマンドライン上で少し遠い。尚、eval-print-last-sexp には C-j が、eval-last-sexp には C-x C-e がキーバインドされている。
ielm は対話型インタプリタで、Rubyで言うところの irb(Interactive Ruby)か。M-x ielm とやれば起動する。
この二つだけでも感動しているというのに、本書はもっといいやり方を教えてくれる。上記の方法は、Emacs を終了すると結果が消える。そこで、open-junk-file.el パッケージを用いれば、ジャンクファイル上で評価して自動保存できる。ジャンクファイルとは、日時を元にしたファイル名をもつファイルのことで、M-x open-junk-file ってやれば起動する。惚れっぽい酔っ払いは、ジャンクにイチコロよ!
3. Common Lispパッケージ... cl.el
関数の名前空間は、Common Lisp と Emacs Lisp に違いがあって、衝突の可能性がある。なので、cl.el の禁止事項は、eval-when-compile でバイトコンパイル時にロードしてマクロを使う分には許可するが、Common Lisp の関数は使うな!ということらしい。つまり、(require 'cl) が禁止ということか?
本書は、(eval-when-compile (require 'cl)) ってやれば、Common Lisp のマクロを合法的に使えるとしている。ランタイムに cl.el のロードが禁止となれば関数は使えないが、コンパイル時に展開されるマクロならOKってか?ん~... 解釈の問題のような気もするが...
今となっては、Common Lisp に総入れ替えするわけにもいかないだろう。古い資産が誤動作しそうだし。Common Lisp と Emacs Lisp で、レキシカルスコープとダイナミックスコープの違いがあるのも、関数の変数をめぐって大きな問題となりそうだ。ならば、(require 'cl)を許可して、Common Lisp でオーバライドさせることを明示すれば良さそうな気もするが...
それはともかく、本書で紹介されるマクロは、なかなか便利そうである。リスト構造を分解して変数に代入する時、car, nth が冗長的なので、destructure-bind を使うとすっきりする。汎変数を使うと、代入の概念を拡張できる。setq は、その拡張版の setf が使える。汎変数には、car, nth といったリスト要素だけでなく、buffer-substring, point といったバッファ関連もあるようだ。
let/let* のレキシカルスコープ版は、lexical-let/lexical-let* があるという。ん~、これは微妙だなぁ!他には構造体が使えたり...
本書は、loop マクロをかなり丁寧に解説してくれる。こいつは、Common Lisp が提供するモンスターマクロだという。リストやベクタの要素の合計/最大値/最小値を与えたり、各要素に関数を適用したり、条件を満たす要素を抽出して演算を施したり... などの演算節が豊富で、統計情報を処理するのに強力なツールとなる。連想リストやハッシュテーブルのキーを求めたり、フィボナッチ数列を求めたりするのも、エレガントに書けるという。
また、非局所脱出メカニズムには二つあるという。Emacs Lisp 本来の catch/throw と Common Lisp の block/return-from。Common Lisp には block の概念があり、明示しなくても暗黙に block が形成される。この block がレキシカルスコープを実現している。block からは、return-from で脱出できる。一方、catch はダイナミックスコープの場合で、脱出時には、throw を呼び出す。cl.el のおかげで、Emacs Lisp でも block/return-from の仕掛けが使えるというわけか。
4. eshell のすゝめ
eshell は、Emacs Lisp で書かれているために、プラットフォームに依存しないという。zsh ライクで、使い勝手もよさそう。普通のシェルはC言語などで書かれているため、シェルスクリプトの範囲でしか拡張できないが、eshell はコマンド解釈の部分ですら乗っ取ることが可能で、コマンドラインを丸ごと zsh や Ruby に渡して実行することができるという。おぉ~...
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