2024-04-14

"方程式のガロア群" 金重明 著

群、環、体を巡り、線型空間をさまよう。すると、いつしか初心に返る。そういえば学生時代、ブルーバックス教(狂)にのめり込んだものだ。それは、自然科学や科学技術の一般読者向けシリーズ。相対論も、量子論も、マクスウェルの悪魔も、ラプラスの悪魔も、ここに始まった。ガロア群では逆流する格好だが、相手が難攻不落となれば、思考パターンの原点に立ち返ってみるのも悪くない...

数学界に大変革をもたらしたエヴァリスト・ガロア。そんな大数学者も生前は全く評価されず、ひとりの女をめぐる決闘で命を落とす。享年二十歳。彼は、その短い生涯の中で問い続けた。「方程式が代数的に解けるとは、どういうことか」と...
具体的には、冪根の記号 n√x や四則演算の記号で解を記述できるってこと。しかし、そうした記号も定義に過ぎない。

五次以上の方程式に代数的解法がないことは、アーベルが証明した。
それどころが、三次や四次でも解の公式は複雑だし、実践的には、グラフ上でシミュレーションし、X 軸との交点あたりで近似する方が手っ取り早い。近似の概念を許せば、いくらでもやり方は広がる。だが、ガロアは代数的方法にこだわった。真の数学者たる所以か!
従来の数学は、数式を変形しまくり、そこに活路を見い出してきた。ガロアは、数式の操作に限界を感じ、数自体の構造や性質を調べるという新たな視点を与えた。そして、方程式が代数的に解けるための必要十分条件を見い出す...

「方程式が代数的に解けるかどうかは、ガロア群を分析すれば分かる。ガロア群が可換群であれば、その方程式は代数的に解け、可換群でなければ、代数的に解けない。」

数学の世界は、公理に矛盾しなければ、どんな思考も、どんなやり方も許される。この世界を支えているのは、理性による証明のみ。逆に言えば、証明を疎かにした途端に崩壊しちまう。
しかし、すべての証明を理解した上でないとガロア群を味わえないとすれば、数学の落ちこぼれには酷だ。
まず、ガロア群には、体の自己同型群という見方がある。ここでは、そうした形式的な見方をほぐし、具体的な方程式におけるガロア群を紹介してくれる。アクアリウムで生態系でも観察するようにガロアの群れを観察する... というのが本書のコンセプト。だからといって、現実に方程式が与えられた時、ガロア群をどうやって構成するのか?という問題は残されたままだけど...

まず... ガロア拡大体と Z/nZ の世界が待ち受ける。
ガロア拡大体では、方程式の操作で因数分解を検討し、その方程式の持つ係数体の範囲内で因数分解ができるか、あるいは、係数体の範囲外に体を拡大しなければ因数分解できないか、すなわち、可約か既約か、が問われる。
体とは、四則で閉じた世界。実数体は有理数体の拡大であり、複素数体は実数体の拡大であり、そしてガロア拡大体とは、方程式のすべての解をカバーできるほど拡大した体を言う。
Z/nZ とは、Z は整数で、nZ で割った数。つまり、mod n を問う世界。モジュラ演算が巡回群と相性がいいことは、言うまでもない。それは、演算をすこぶる単純化してくれる性質で、数の性質を見極める時に有効となる。

「ガロアは、方程式を解くとは、係数体をガロア拡大体まで拡大することだ、ということを見抜いた。方程式を代数的に解くとは、係数に四則と累乗根をほどこして解を表現することだった。体の中で四則演算は自由に行える。しかし累乗根を求めるためには、体を拡大しなければならない。つまりポイントは、累乗根を用いて体を拡大するとはどういうことなのかを解明することにある。その鍵を握っているのが、ガロア群なのだ。」

次に... 円周等分方程式で、1 の n 乗根の世界が広がる。
1 の n 乗根とは、xn = 1 の根。これを移項して因数分解すると...

  (xー1)(xn-1 + xn-2 + ... + x2 + x + 1) = 0

それは、xn-1 + xn-2 + ... + x2 + x + 1 = 0 を解くことを意味する。
これが、円周等分方程式ってやつだ。
そして、ユークリッドの時代から語り継がれてきたコンパスと定規による作図問題と結びつける。代数学が幾何学と結びつくと、収まりがいい。

こうした世界を念頭に... 二項方程式のガロア群は Z/pZ (p: 素数)の加法群と同型に、円周等分方程式のガロア群は Z/pZ の乗法群と同型に、一般的な方程式のガロア群はもっと一般化された置換群に... といった具合にガロアの群れを観察していく。

「自我や心が脳の作用であることを疑う人はほとんどいないだろう。しかし脳神経の、物理的、化学的な情報交換が、どのようにして自我の意識へと創発するかについては、何もわかっていない... 数についての謎も同様だ。人類が解明した数は、せいぜい加算無限個にしか過ぎない。人類が解明した数には名前が付いており、あいうえお順でもいいし、abc 順でもいいが、それを一列に並べることができるからだ。しかし数直線上に存在する実数は、非加算無限個ある。... 人類の認識と、実数までの間には、まさに、誰にも渡れぬ深くて暗い河がある。」

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