2025-11-16

"微積分読本" 田村二郎 著

秋風立つ今日この頃、いつもの古本屋で散歩していると、なにやら懐かしい風を感じる。数学を読み物にする本とは... 読本の定義も微妙だが、それは読み手次第ということであろうか。今、童心に返る思い...

「現実の世界を支配している自然法則に対して、われわれが一度十分に透徹した理解に到達するならば、これらの法則はただちに、最も透明な単純さと、最も完全な調和をもつ数学的関係として表現される; この事実は幾何学のなかだけではなく、それにも増して物理学のなかで、驚くほど繰り返し示されてきた。この単純さと調和に対する感覚は、今日、理論物理学において欠くことのできないものであり、これを養うことが数学教育の主な任務であると私には思われる。」
... ヘルマン・ワイル

本書は、六つの基本関数を典型的な物理現象に照らしながら物語ってくれる。六つの関数とは、一次関数、二次関数、cos 関数、sin 関数、指数関数、対数関数。物理現象とは、物体の一様な運動で、自由落下、放物体、等速円運動、振り子、放射性核の崩壊など。微積分が対象とするのは連続関数で、動的な関数の挙動や動く量に対する感覚を要請してくる。

物理現象の変化は時間の関数で記述され、それを瞬間的に捉えようとすれば時間で微分することになり、大局的に捉えようとすれば時間で積分することになる。
連続性は、人間の認識能力にとって根源的な性質であり、「瞬間」という見方と「変化率」という捉え方で、距離、速度、加速度を時間の関数で記述することができる。そう、ニュートン力学の第二法則だ。

空間認識を記述するには、ベクトル空間の概念がしっくりくる。ベクトル分解の概念は、座標に関数を投影する感覚で捉えることができ、多次元に適用できる。ベクトルの加法が登場すれば、可換群が匂い立つ。そう、あのアーベル群だ。本書にアーベルの名は見当たらにないが、ここでは匂わせてくれるだけで十分。

cos 関数と sin 関数の相関では、ともに二階微分すると符号が変わる特性に照らして、そのまま向心力と遠心力に適用できる。そう、ニュートン力学の第三法則だ。cos と sin はセットで相殺特性があり、解析学で鍵となる分解特性が匂い立つ。そう、フーリエ変換だ。本書にフーリエの名は見当たらないが、ここでは匂わせてくれるだけで十分。

指数関数と対数関数の相関では、考古学や地質学で用いられる年代決定法などに照らして、相対変化率や減衰率といったものを味わわせてくれる。

しかしながら、微分方程式には、いつまでもつきまとう問題がある。解の存在と一意性の問題である。微分方程式を相手にすれば、その多くは解くことができない。少なくとも、おいらには解けない。
となれば、対象の範囲を狭めて、解に近づこうとする思考法が有効となる。そう、ε-δ論法の思考法だ。あの忌々しい... 呪われた... おいらを数学の落ちこぼれにしやがった... 本書では、そんな感覚にも目を細める。それを振り子の運動で体現させてくれる。単振動の微分方程式の解で、初期条件を満たすものは一つしかないと...

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