2025-12-07

"電気革命" David Bodanis 著

電気とは何か。それを見た者はいない。だが、その存在を感じることはできる。物体が帯びる電磁場、あるいは、それを取り巻くエネルギー場を通して...
電気が走る... という表現もある。それは気配のようなものか。それは魂のようなものか。人間の意思を自由電子の集合体とするなら、そうかもしれん。
ところで、電流と電圧の違いとは、なんであろう。それは、しびれるか、しびれないかの違いさ...

本書は、雷に電気の種を見たフランクリン、電気の力場に居場所を求めたファラデー、愛の告白のために電話を発明したベル、電磁波の放射に遠隔作用を見たヘルツ、電子の振る舞いに万能機械を夢見たチューリング、物質の結晶格子に電気特性を見たショックレー、そして、彼らの発明や技術が軍事と結びついてきた背景を物語る。
また、電気の基本単位アンペア、ボルト、ワットに名を冠する電気屋さんたちの逸話も見逃せない...
尚、吉田三知世訳版(新潮文庫)を手に取る。

電気革命において、最も社会貢献した技術とは何か?と問えば、トランジスタを挙げる人は少なくない。つまり、半導体素子を。この発明がデジタル社会の幕開けを告げた。主役に躍り出た物質はシリコン。この結晶格子が持つバンドギャップを利用すれば、電子を流したり、止めたりすることができる。原子レベルでオンオフ制御ができれば、チューリングが夢見た超高速の論理スイッチも実装できる。しかも、この結晶を組み合わせることによって、ほぼ無限の多段等価回路が形成され、高密度化への道が開ける。そして、ムーアの法則を呼び込むことに...

それにしても、電気とは摩訶不思議な存在である。力場に存在する正の電荷と負の電荷は同じ数だけ存在し、両者はよく釣り合い、普段は無であるかのように振る舞う。電荷の効果が生じるのは、そのバランスが崩れた時。この「場」を研究したのがファラデーなら、場の中で伝搬する「電磁波」を研究したのがヘルツである。

宇宙には、電磁波が満ちている。光も電磁波の一種だが、これを伝搬するための媒体は存在するのだろうか。宇宙空間には、何かが充満しているのだろうか。マクスウェルは、エーテル説を信じて電磁理論を展開したが、エーテルが存在しなくても成り立つことで苦悩したと伝えられる。それは、エーテルの存在を否定したのではなく、あってもなくてもいいってことか。かつて物理学は、エーテルの存在を否定したが、今ではダークマターの存在が囁かれている。それはエーテル代替説か。宇宙を説明するには、従来の物質とは違う概念が必要なようである。
電磁波は、人体にも満ちている。自己複製能力を備える生命体もまた電荷で形成され、細胞や神経伝達系、DNA までも電磁場に包まれる。人間は電子の振る舞いによって思考し、気分までも動かされる。そして、この電気特性がそのまま医療技術に投影される。

電気を取り巻く力場の研究では、ファラデーが電磁場の基礎理論を確立し、マクスウェルがあの四つの方程式のもとで電磁気学という一分野を確立した。
電気というものの存在が初めて唱えられた時、こんなものがなんの役に立つのかと馬鹿にされたことだろう。ファラデーは、いずれ税金がかけられるだろう... と言ったとか、言わなかったとか。そして、現代社会の利便性は電気によってもたらされる。
だが、どんな利便性も、そのまま社会的リスクとなる。価値交換の利便性は、そのまま犯罪の利便性に。善と悪は共存し、すべてはイタチごっこ!これが人間社会というもの。
最先端の科学技術には、まずもって軍事利用されるという皮肉な歴史がある。その相殺のために人間は神を必要とするのか。但し、神もまたサイコロを振るらしい...

今や、電気のない社会を想像することはできず、ムーアの法則のごとく電気依存を加速させていく。なんにせよ過度の依存症は恐ろしい。いずれ、太陽フレアが大規模で発生したり、小天体の接近で地球の電磁場が削られたりして、かつてない大停電を経験することになるのか。二百年以上かけて築き上げてきた電子社会も、一夜にして崩壊する日が来るのやもしれん...

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