本書は、ディジタル信号処理の中核をなすディジタル・フィルタの入門書。しかし、入門書は侮れない。根本的な理屈を外観できて楽しい。ついでに屁理屈も...
おまけに、個人的に馴染んできた数値演算ライブラリ Scilab のコードが添えられ、視覚的に味わえる。Scilab に没入しすぎの感も否めないけど...
また、マイクロネット社の DspAnalyzer が紹介され、信号処理アルゴリズムや周波数特性を視覚的に解析でき、ちょいと興味がわく。
フィルタの設計は、アナログ時代から携わってきた。数学的な違いは、アナログではラプラス変換(変数 s)が威勢を張り、ディジタルでは z 変換が幅を利かす。
当時、ラプラス変換と聞くだけで蕁麻疹がでたものだ。表記の仕方にも馴染めず、作用素の変換表はまず手放せない。それは、z 変換でも同じこと。いまだ、微積分で定義される関数空間から逃れられずにいる。
本書では、s-z 変換の考え方から触れられ、これだけでもかなりのことが暗示される。
s は複素平面上で、s = σ + iω の形で記述され、s が微分に、1/s が積分に対応する。そして、連続時間 t を離散時間 T へ持ち込む双一次変換の存在感が強調され、近似法を駆使せよ!と告げる。
z = esT ≈ (2 + sT) / (2 - sT)
1. 通過域と阻止域
フィルタの設計は、基本的には周波数特性とのにらめっこ。基本形は、LPF(ローパス・フィルタ)、HPF(ハイパス・フィルタ)、BPF(バンドパス・フィルタ)、BEF(バンドエリミネート・フィルタ)。要するに、いかに不要な周波数帯をちょん切るか。あとは、これらを組み合わせてマルチバンドパスにしたり、オールパスにしたり...
周波数特性で問題となるのは、通過域と阻止域の境界のノイズ除去と、通過域の損失をいかに抑えるか。利得や動作速度を考察するのはアナログでもディジタルでも同じことだが、ディジタルでは量子化誤差や位相空間が注視され、零点と極の特性が重要となる。零点とは、伝達関数が 0 になる z の値。極とは、伝達関数が無限となる z の値。複素関数の性質が零点と極に左右されることから、周波数特性は伝達関数の零点と極で決定される。
位相については、アナログでもネガティブ・フィードバックで自己発振の抑制に位相補正を用いたりするが、ディジタルの位相は伝達関数における入出力の偏角で記述され、ちょいと空間イメージの違いがあろうか。
偏角といえば、数学的な記述では三角関数だ。フィルタの設計は解析学とすこぶる相性がよく、フーリエ変換がまとわりつく。DFT が...
そして、通過域と阻止域の境界面でギブス現象が問題となるのも定番か。窓関数も...
2. FIR フィルタと IIR フィルタ
基本構成は、乗算、加算、分岐、遅延といった要素で組み立てられ、数学的には差分方程式で記述される。大まかな分類では、非巡回形と巡回形があり、FIR フィルタと IIR フィルタは外せない。名称は、インパルス応答の継続時間が有限か無限かの違い。Finite Impulse Response か Infinite Impulse Response か...
ちなみに、インパルス応答とは、時間幅の非常に短い入力パルスから得られる出力のことで、システムの入出力特性を評価する上で重要な役割を担う。
FIR フィルタは...
有限時間で収束する。つまり、差分方程式がいつかゼロになり、入力次数のみの畳み込み和で記述できる。完全な線形位相となれば、安定性も高い。
よって、非巡回形で構成されることが多く、その分、次数の調整が面倒で、遅延器や加算器の段数も多くなる。
IIR フィルタは...
収束しない。つまり、差分方程式がいつまでもゼロにならず、入力次数に過去の出力データ列を加えた総和で記述する。位相を犠牲にすれば、優れた利得特性が得られるという寸法よ。
よって、巡回形で構成され、次数が少なくて済み、遅延器や加算器の段数も少ない。
リソースが贅沢な時代では、FIR フィルタの方が優勢であろうか。過去に引きずられないという意味でも...
3. 近似アルゴリズム
伝達関数の近似アルゴリズムに、Remez 法が紹介される。そう、チェビシェフ近似ってやつだ。最大誤差を最小にするために振動を分散するという意味で、等リプル近似とも呼ばれる。
事例では、サンプル点に重み関数を適応するなどが紹介される。
4. ヒルベルト変換
正規化周波数を持つ実信号に対して、位相を π/2 遅らせたり、進めたりする変換である。正規化周波数とは、サンプル時間で位相を捉えることで、サンプル時間は任意。数学的には、複素平面上で偶関数と奇関数の結合という見方ができ、物理的には、正の周波数領域で π/2 の遅れ、負の周波数領域で π/2 の進みを持つオールパス・フィルタという見方もできる。
事例では、遅延器で実数部を、ヒルベルト変換で虚数部を生成する解析信号の構成例などが紹介される。

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