2008-12-14

"はじめての「超ひも理論」" 川合光 著

量子論というのは、なんでもありなのか?真空には突然仮想粒子を登場させ、物質の誕生には反物質を登場させる。また、何もないところに負のエネルギーを登場させ、都合よく宇宙を膨張させてしまう。プラスの現象には、マイナスの現象を登場させて相殺してしまえば、エネルギー保存則になんら矛盾することなく、何事もなかったかのように説明できるというわけだ。このようなウルトラCの技が続々と登場する様は、高度な科学のようで巧みな詐欺のようでもある。量子論の本筋は極微な世界を覗くことである。ところが、物質を細かく見れば見るほど巨大宇宙の解明につながるから摩訶不思議である。本書は、こうした酔っ払った感覚しか持ち合わせないアル中ハイマーにも分かりやすく解説してくれる。何よりも分かった気分になれるのが幸せである。

物質を細かく見ていくと、そこには原子があり、原子核の中に陽子と中性子があり、その核子を構成するクォークがある。そして、全ての素粒子の根源に「超ひも」が登場する。超ひもの形状には、両端が開いたものや輪ゴムのように閉じたものが考えられている。これらが絶えず運動し静止することはない。回転したり、振動したり、伸び縮みしたり、変形したりと。これは想像の世界ではなく、厳密な理論上の計算から導き出されるらしい。超ひもが様々なエネルギー状態によって異なる振動をすることによって、いろんな粒子に見える。現在の素粒子は、クォークと、電子やニュートリノなどのレプトンであるとされているが、その素粒子の正体は、一個のひもであるという。これは、熟成させたスコッチが琥珀色に見えるのも、ピート香やスモーキーさも、単に生命の水が振動しているだけだということを暗示しているのかもしれない。超ひもは、原理的には、引き伸ばして人間の目の見える大きさにすることも可能なのだそうだ。ただ、それに必要なエネルギーはというと...ミニブラックホールができてしまう。超ひも理論のおもしろいところは、ひもの長さの半分を考えた場合、それがニ倍に等しくなるという。はあ?時間も半分がニ倍に等しくなる。はあ?量子論の世界では、コップの半分しか飲んでいないのに、二杯分請求されるということか?これは詐欺ではないか。いや!二杯飲んでも一杯も飲んでいないと言い張ることもできるわけだ。つまり、飲んでも飲んでも酔えない世界のようだ。

極微の世界では、もはやニュートンやアインシュタインの力学は通用しない。しかし本書によると、超ひも理論によって、全ての物理現象を統一して記述できる可能性があるという。物理学には、重力、電磁力、弱い力の相互作用、強い力の相互作用の四つの力がある。重力はエネルギーを持つものの間で働く力、電磁力は電荷のあるものの間で働く力、弱い力は中性子のベータ崩壊などを起こす力、強い力はクォーク間で働く力。この四つのうち重力を除く三つまでは、ゲージ理論によって統一される。ゲージ理論は、ローレンツ変換で見られるように、どのような慣性系に変換しても理論は不変であるというところから発展した理論である。それは、座標そのものの変換ではなく、時空の各点毎に変換しても不変性が保てるということである。歴史的には、一般相対性理論はゲージ不変をもった最初の理論ということらしい。ここで、人間が親しみやすい重力が力学の統一で最も遅れをとっているとは、なんとも皮肉である。人間が直観できる世界とは、宇宙では超常現象なのか?人間は自然法則を無視した悪魔か?量子力学といえば、波動関数によって完成させたシュレディンガーと、行列力学を確立したハイゼンベルグが思いつく。これらは等価であり、そのアプローチが微分か行列かの違いである。超ひも理論では行列模型を用いる。この行列模型は、非可換幾何学という数学の道具にも関係し、超ひもの挙動を明らかにするという。

1. 宇宙の起源への挑戦
宇宙の起源の謎を解くには、アインシュタインの方程式では扱えない領域を覗くことになる。それは、これ以上小さくできないプランクの長さ、これ以上過去へさかのぼれないプランク時間、エネルギーの限界値プランクエネルギーであり、いわゆるプランクスケールへの挑戦である。プランクの長さは、超ひもの大きさに相当し、プランクエネルギーは超ひものもつエネルギーとも言える。アインシュタインは、時間と空間を混在させて時空という概念を持ち出した。極小空間へ迫るということは、極小時間へ迫るということである。そしてビッグバンへと迫る。結合エネルギーは、素粒子間の振る舞いを力学的に説明できる。それを細かく観察するには、高エネルギー状態が好都合である。そこで、エネルギーを拡大する実験装置に加速器が使われる。粒子と粒子を高エネルギーで加速して衝突させることによって、量子の世界を覗く。宇宙の成長過程をさかのぼればのぼるほど、高エネルギーであると考えられる。原子核に電子が回っているのは、太陽系のように地球が回っているようなイメージはできない。素粒子の運動には、位置と運動量を同時に決められないという不確定性原理がつきまとうからである。位置と運動量が同時に決まらなければ、電子の軌道は特定できない。ものを細かくみるための指標として温度も重要ある。温度とエネルギーは比例関係にあるからである。素粒子のエネルギーは、プランクエネルギーが上限であるのに対して、超ひもではそれ以上のエネルギーを持ちうる。エネルギーが増えた分、超ひもの形状はいくらでも伸びることができる。エネルギーがどんどん増えると、温度の上昇はしだいに小さくなり、やがて上限値に達するであろう。この温度の上限が「ハゲドン温度」である。実際には、プランクエネルギーよりも高エネルギーになったとしても、ハゲドン温度のままという事態が起こるという。ところで、超ひもには密度という概念はないのかな?密度が低くなる分エネルギーに転換されるってことか?ますます謎は深まる。

2. クォークの誕生
クォークが誕生するまでに四つのステップがあるという。それを逆にさかのぼると。四つ目のステップは、安定段階で三個一組のクォークがくっつきあって核子を構成している。三つ目のステップは、この安定段階よりもエネルギーを上げていくとクォークが不安定に動く状態になる。クォークどうしがねばねばとした力線を伸ばし、無秩序にくっつきあってどろどろのスープのようになる。二つ目のステップは、更にエネルギーを上げると、単独で動くクォークが質量を獲得する。そして一つ目のステップが、真空から励起される段階である。どんな構成要素でも、結合エネルギーよりも高いエネルギーを与えれば分離することができる。しかし、クォークは、加速器でいくら高エネルギーを与えても、引き離してクォークを取り出すことはできない。これが「クォークの閉じ込め」である。クォークの閉じ込め以前、宇宙には陽子と反物質である反陽子があったと考えられている。反物質とは、物質と電荷などが反対で、性質は同じもののことを言う。現在、反物質は存在しない。物質と反物質が対消滅し、なぜか反物質よりも物質が多かったため、物質だけが残ったということのようだ。この対消滅を経て、個性をもった核子として陽子が生まれた。陽子と反陽子には、それぞれクォークが三つ入っていて、クォークと反クォークが混じりあった状態を「クォーク・グルオン・プラズマ状態」という。グルオンは、クォーク間に働く強い力の相互作用を媒介するゲージ粒子のことである。ゲージ粒子とは、四つの力の相互作用(ゲージ相互作用)を引き起こすボース粒子のことで、電磁気力を伝える光子、重力を伝える重力子、弱い力を伝えるWボソン、強い力を伝えるグルオンがある。

3. ヒグスメカニズム
クォーク間の強い力の相互作用を生んでいるのが「グルオン場」であり、四つの力を作り出している場を総称して「ゲージ場」という。重力場や電磁場もあるのだが、ここでは重力場が統一見解から外れる。クォークが質量を獲得する場が「ヒグス場」である。いわば質量の起源である。ヒグス場は対称性を破りやすい性質を持っているという。この対象性を破る現象でクォークが質量を獲得するのが「ヒグスメカニズム」である。ひもの挙動を調べていくうちに謎のグラビトン(重力子)が発見される。素粒子はスピン(自転)している。エネルギーを与えれば、その回転は大きくなり質量が増える。しかし、グラビトンはスピンがあるにも関わらず質量がゼロである。この重力子の発見によって、超ひも理論が、重力場をも含む統一見解を示唆することになる。

4. インフレーション理論
ビッグバン宇宙論は、主に二つの観測で裏付けられる。一つは、様々な銀河の光が赤方偏移していることから、多くの銀河が遠ざかっていることがわかる。ハッブルは、銀河の後退速度とその銀河までの距離が比例していることを見出し、遠くにある銀河ほど速く遠ざかっていることを発見した。ハッブル定数は宇宙の年齢や大きさに目安を与える。二つは、3K宇宙背景放射で、温度3Kの電磁波が宇宙のあらゆるところから地球へやってくる。人工衛星WMAPは、3K宇宙背景放射のゆらぎまで観測できるという。インフレーション理論は、水素原子の原子核が一気に地球の公転軌道ほどの大きさに広がったとするもので、ビッグバン宇宙論を補完したものである。実際に宇宙をプランク温度になるまでさかのぼると、その時の宇宙の大きさがとてつもなく大きく、平坦に近い状態になってしまう。よって、宇宙の創世をプランクの長さとするならば、どこかで爆発的に大きくなる瞬間が必要である。この平坦問題を巧みにというか、無理やりこじつけたのがインフレーション理論である。インフレーションの間、絶対温度はほぼゼロと考えられている。あまりにも急激な膨張によって密度が薄められるからである。プランクの長さの宇宙は冷たく高エネルギーをもった真空である。そこから、急激な膨張によって、エネルギーは温度に化け、冷たい宇宙は再加熱され、場が振動し粒子が励起され物質が誕生する。この高エネルギーはどこから得られるのか?そもそも、真空にエネルギーがあるのか?アインシュタインの方程式は、この真空のエネルギーを導き出せるという。真空のポテンシャルエネルギーが正の値で、しかもあまり運動をしない状態では、アインシュタインの方程式で圧力が負になるという。この負の圧力が膨張エネルギーを自己調達させて勝手に膨らむといった現象が起こるというのである。本書では、風船を膨らますのに、空気を入れなくても勝手に膨らむという説明がなされる。確かに、内圧がゼロで外圧が負ならば、相対的に風船は膨らみそうだ。では、その負の圧力はどこからくるのか?エネルギーのタダ食いか?それがアインシュタインの方程式だという。この負の圧力を生み出す真空のエネルギーはアインシュタインの宇宙項で表される。この宇宙項は、インフレーションの時期に使い果たしたと思われがちだが、実は今も少し残っているとされる。だから、宇宙は今もエネルギーのタダ喰いで膨張をするということになる。

5. Dブレーン
アメリカの物理学者ポリチンスキーが発見したDブレーンは、超ひもからなるエネルギーの塊である。超ひも理論の古典解としてDブレーンという安定したエネルギーが見つかった。この安定したエネルギーの塊が「ソリトン」である。例えば、波が押し寄せる様子で、波が形を変えずに安定した形状を保ちつつ押し寄せる姿がソリトンである。今までの摂動論では、いろいろな真空の間を偏移することを表すことができなかった。つまり、エネルギーがゼロの基底状態、すなわち真空から少しだけ励起された状態で、多くのひもが同時に関係する現象は扱えなかった。これに対して、Dブレーンは多くのひもがいっぱい詰まっている状態と見なして摂動論の限界を超える。ちなみに、Dは、微分方程式のディリクレ条件の頭文字に由来するらしい。Dブレーンは、超ひもが密集するいろいろな次元の面と考えることができる。Dブレーンの功績は、様々な真空の重ね合わせができたことである。トンネル効果もDブレーンによって引き起こされたと考えれる。例えば、アルファ線が原子核を抜け出すような現象を説明する時、ある確率で真空を超えられる。ここで、オリエンティフィールドというマイナスのエネルギーをもった変わったDブレーンが登場する。プラスとマイナスでエネルギーを相殺する現象は、真空を重ね合わせる上で好都合である。安定した空間を説明するためには、このエネルギーの相殺が必要である。超ひも理論は、10次元の理論とも言われるらしい。無数のタイプの真空があるからであろう。物事を一般化するというのは視点を増やすことにもなろうが、時空の次元を増やしてやれば、矛盾の生じない統一理論ができるということなのか?ところで、人類の住む宇宙は、その真空のどれにあたるのか?人類は10次元宇宙に浮かぶ4次元空間に住んでいるのか?人類へ影響を及ぼす相互作用は重力である。逆に言うと重力を感じない陰の空間が目の前に存在しても感じることすらできない。これが霊感なのか?なんとなくパラレルワールドへと導かれる。普段、均衡しておとなしくしている異空間から、突然表れる重力波を感じても不思議ではないのかもしれない。天体規模ではニュートンの重力法則は成り立つが、超接近するとその関係が崩れるのではなく、別のDブレーンの存在が影響しているだけなのかもしれない。気持ち良くゆらぐ千鳥足に向かって、突然重力点(店)からの影響によって軌道がずれるのも、そこにDブレーンが潜んでいるからに違いない。

6. サイクリック宇宙論
超ひも理論を支持する素粒子物理学者たちは、多くの宇宙研究者に支持されるインフレーション理論とは違った見解を持っている。それがサイクリック宇宙論である。人類は、ビッグバンとビッグクランチのサイクルを30回から50回繰り返した途上の宇宙に住んでいるという見解である。宇宙は膨張しているのか?縮小しているのか?それとも定常宇宙か?宇宙の膨張のしかたは、宇宙項と、宇宙に存在する物質の密度との関係によって論じられる。宇宙項は、真空がどの程度のエネルギーを持つかを表す定数である。宇宙項が大きいほど、エネルギーのタダ食い効果が大きく、宇宙は速く膨張する。物質の密度は、銀河と銀河がどの程度離れて存在するかを意味する。つまり、万有引力の関係で、密度が高ければ、それだけ収縮する力が強いことになる。現在の宇宙は膨張し続けているので、密度は下がり膨張速度も減速する方向であるが、宇宙項の加速方向との競合によって、宇宙の運命も決まる。インフレーション理論では、宇宙のエントロピーは、ただの一回の指数膨張と、それに次いで起こる再加熱によって作り出されると主張する。一方、サイクリック宇宙論では、ビッグバンとビッグクランチを繰り返しながら、徐々にエントロピーを蓄えてきたと考える。そこから計算されたのが30回から50回で、インフレーションという特異点を考慮する必要がないわけだ。宇宙は、ビッグバンとビッグクランチを繰り返していくうちに、だんだん巨大化しているのか?ちなみに、ビッグバンとビッグクランチの境界は、実時間で受け継がれるという。ただ、アル中ハイマーには、一晩に同じ店へ何度も繰り返して立ち寄る現象は、虚時間を持ち出さないと説明がつかない。サイクリック宇宙論には精神の輪廻を思わせるものがある。人間の肉体が成長して亡びていく様は、遺伝子で継承される。サイクリック宇宙論はなんとなくDNAを暗示しているように感じる。自然法則は、宇宙にも生物にも成り立つ可能性があるだろう。そして、人間の精神は、だんだん巨大化していくのだろうか?

0 コメント:

コメントを投稿