2015-11-15

"解析概論 改訂第三版" 高木貞治 著

三十年来、引き戻され続ける書を、もう一冊。相も変わらず、しつこく仕事に絡んできやがる。お前は酔っ払いか。そして、電磁気学で苦しめられた、あの忌々しい奴らにやられる。そう、ガウスとストークスだ。おいらは永遠に赤点よ!ただ、数学屋ではないし、結果だけ知っていれば、道具とすることはできる。薄っぺらな知識しかなくても、生き方はある...

数学は代数学と幾何学の二大分野によって成し、解析学はその双方を調和する立場にある。物事を解析するには、記号的で論理的な思考も、空間的で感覚的な思考も欠かせない。そして、数式と数式の行間に隠された言葉を読みとる。これが解析学の醍醐味であろうか。
本書は、こうした思考原理が微積法にあることを教えてくれる。物理現象の本質を見極めるには、瞬時な方向性を観察するか、総合的な流れを眺望するか、いずれにせよ極限に迫る必要がある。話題の中心は、変数を複素数に拡張した関数。そう、初等関数ってやつだ。これを初等と呼ぶことに、いまだに抵抗を感じるのであった...

代数学の観点から眺めると...
現象を解析するということは、数学的な法則性を導き出すことを意味する。そこで重要となるのが、級数の概念だ。項を多項式などで抽象化し、無限和や無限積で記述できれば、極限値を得る可能性を匂わせる。級数が収束する性質を持つかどうかが、微分可能か、積分可能かの判定基準になる。そして、テイラー展開やフーリエ変換、あるいはゼータ関数といったものの性質が考察される。こうした概念は、アルゴリズムの実装時に非常に有用である。

幾何学の観点から眺めると...
アルキメデスに始まる細かく切断して足し合わせるという求積法が、直感的な思考法としてある。ここに、定規とコンパスで作図できるかという問いかけが、実数の連続性と結びつく。そこで、最初に登場する概念が、デデキントの切断だ。連続性で保証されるからこそ、大小関係が決定でき、適当なところで切断できる。おぼろげな対象には、大雑把な大小関係から始まり、徐々に目標を絞っていくという考え方が成り立つ... などと言えば、あの忌々しいε-δ論法だ。とはいえ、この思考法は、解析学の王道と言うべきかもしれない。相対的な認識能力しか持ち合わせない知的生命体にとって、絶対的な現象を認識することは難しく、なんらかの比較対象を必要とする。そして、認識能力の支柱をなしているのが、時間という連続性だ。精神病患者の多くは、時間の概念を失った状態とも聞く。連続性から大小関係という感覚的に対象に迫るという思考法は、人間にとって自然であり、合理的にも映る。

コーシーは、連続関数の積分和の極限値として、基本的な考察を試みたという。問題は、連続性が保証されない場合である。ルーベル積分の登場で、リーマン積分は中間的な存在になったという。連続性を仮定しなくても積分可能な条件を確定したのがリーマンで、特異点が無数にある場合を扱ったのがルーベルだとか。しかしながら、泥酔者にとって有用なのは有限区間を論じる定積分で、相も変わらずアルキメデスの世界観に幽閉されたまま。その証拠に、酒の力を借りて記憶がぶっ飛ぶと、連続性から解放されて幸せになれる。この現象も、デデキントの切断原理に付け加えておこう...

1. 実数の連続性
入門の概念として、実数の連続性に関する重要な性質を四つ挙げてくれる。

(1)デデキントの切断
実数の切断は、下組と上組との境界として、一つの数を確定する。

(2)ワイエルシュトラスの定理
数の集合 S が上方(または下方)に有界ならば S の上限(または下限)が存在する。

(3)有界な単調数列の収束
有界なる単調数列は収束する。

(4)区間縮小法
閉区間 In = [an, bn] (n = 1, 2, ...) において、各区間 In がその前の区間 In-1 に含まれ、n が限りなく増すとき、区間 In の幅 bn - an が限りなく小さくなるとすれば、これらの各区間に共通なるただ一点が存在する。

いずれも集合論と結びつく概念である。そして、幾何学に投影するために、座標点の距離を観察しながら、それらの大小関係を考察するといった思考を要請してくる。
いま、n次元空間における座標点を、P(x1, x2, ..., xn), P'(x'1, x'2, ..., x'n) とすると、その距離は...

  √{(x1 - x'1)2 + (x2 - x'2)2 + ... + (xn - x'n)2}

そして、三角関係 P, P', P" において、PP' + P'P" ≧ PP" が成り立つ。
さらに、P を中心とする半径 δ となる n次元の球の境界を考察すると...

   |x1 - x'1| < δ, |x2 - x'2| < δ, ..., |xn - x'n| < δ

まずもって数の連続性を想定することが、解析学における基本的な思考となるが、あの忌々しいやつが思いっきり匂い立ってやがる。ちなみに、ε-δ論法風に記述するとこんな感じか...

f(x) が x = a において連続であるということは、
  x → a の時、f(x) → f(a)
であることにほかならず、
  |x - a| < δ の時、|f(x) - f(a)| <ε
となるは必然...

2. 平均値の定理
連続性が想定できれば、平均値を考察するというのは、最も素朴な思考法であろう。そして、平均値を極限に近づけることが重要となる。
まず、微分における平均値の定理では、ラグランジェとコーシーのものが紹介される。

・ラグランジュの平均値定理
f(x) は区間 [a, b] において連続、(a, b) において微分可能とする。然らば、

 f(b) - f(a)

 (b - a) 
 = f '(ξ),  a < ξ < b

なる ξ が存在する。

・コーシーの平均値定理
区間 [a, b] において f(x), g(x) は連続で、(a, b) において微分可能とする。然らば (a, b) 内の或る点 ξ において、

 f(a) - f(b)

 g(a) - g(b) 
 =   f '(ξ)

 g '(ξ) 
,  a < ξ < b 

ただし、g(a) ≠ g(b)、f '(x), g '(x) は区間内で同時に 0 にならないと仮定する。

次に、積分法においては、第一平均値定理と第ニ平均値定理が紹介される。

・第一平均値定理
区間 [a, b] において f(x) は連続、φ(x) は積分可能で、一定の符号を有するならば、
a < ξ < b なる或る点 ξ において、

b
a
f(x)φ(x)dx  =  f(ξ) b
a
φ(x)dx

・第二平均値定理
区間 [a, b] において f(x) は積分可能、また φ(x) は有限で単調とする。然らば、

b
a
f(x)φ(x)dx  =  φ(a) ξ
a
f(x)dx  + φ(b) b
ξ
f(x)dx ,  a ≦ ξ ≦ b 

なるξが存在する。

3. 定積分の近似法
積分法を、平均値や総和で考察する観点は、統計学的とも言えよう。ここでは、シンプソンの方法とガウスの方法が紹介される。
尚、どちらも定積分のアルゴリズムとして実装しやすく、幾度となくお世話になっている。

・シンプソンの方法
区間 [a, b] を 2n 等分して、各分点に対応する f(x) の値を y0, y1, y2, ..., y2n とし、
h = (b - a)/2n と置き、近似値として、

 h

 3 
(y2i - 2 + y2i + 4y2i - 1)

を取って i = 1, 2, ..., n 上にわたって統計すれば、

b
a
f(x)dx  ≒   h

 3 
{y0 + y2n + 2(y2 + y4 + ... + y2n - 2) + 4(y1 + y3 + ... + y2n - 1)}

... これが、シンプソンの公式である。

一方、ガウスの方法では、ラグランジュの球関数を利用する。
いま、n - 1 次以下の多項式 Q(x) に関して、

b
a
Q(x)Pn(x)dx = 0

になるような n次の多項式 Pn(x) を求めることを考える。そして、区間 [-1, 1] において関数が定まるという。
Pn(x)  =   1

 2n・n! 
 dn

 dxn 
(x2 - 1)n

... これが、ラグランジェの球関数である。

・ガウスの方法
さて任意の連続関数 F(x) がある時、区間 [-1, 1] において、xv およびそのほか n 個の点、すなわち合わせて 2n 個の点において F(x) と等しい値を有する 2n - 1 次以下の多項式を f(x) として、それを F(x) に代用して、∫F(x)dx の近似値として、∫f(x)dx を取れば、

1
-1
F(x)dx  ≒  n

v = 1
PvF(xv)

n個のF(xv)だけを用いて、近似値が計算されるところにガウスの方法の特色があるという。

4. ガウスの定理とストークスの定理
多変数の積分は、なかなか悩ましい。ここで重要な数学の道具は、発散(div)と回転(rot)の概念である。ここでは、ガウスの定理とストークスの定理を挙げておこう。なにしろ電磁気学で欠かせないのだから。
まずは、ベクトル場の記述から、

  div u = ∂a/∂x + ∂b/∂y + ∂c/∂z
  rot u = (∂c/∂y - ∂b/∂z, ∂a/∂z - ∂c/∂x, ∂b/∂x - ∂a/∂y)

さて、ガウスの定理は、閉曲面 S において、内部区域 K に関する三次元積分を表す。具体的には、(x, y, z) の三つの関数において、

  a(x, y, z), b(x, y, z), c(x, y, z)

が、K において連続的に微分可能とすれば、



S
a dydz + b dzdx + c dxdy = 

K
(ax + by + cz)dxdydz

... これが、ガウスの定理である。
別の表記では、閉曲面 S の各点において、外部への法線の方向余弦を cos α, cos β, cos γ とすると、



K
(ax + by + cz)dω = 

S
(a cos α + b cos β + c cos γ) dσ

dω は K の微小領域、dσ は S の微小面積。
さらに、より簡単な記述は、(a, b, c) をベクトル u の座標とし、法線上に単位ベクトルを n とすると、



K
div u dω = 

S
u・n dσ

次に、ストークスの定理では、ガウスの定理において、div u = 0 の場合を考える。
任意のベクトル v = (a ,b, c) において、

  u = rot v = (cy - bz, az - cx, bx - ay)
  n = (cos α, cos β, cos γ)

と置くと、



S
u・n dσ = 

S
((cy - bz)cosα + (az - cx)cosβ + (bx - ay)cosγ) dσ

結局、曲面 S で面積分したものが、その境界線 C で線積分したものと一致するという。



S
(cy - bz)dydz + (az - cx)dzdx + (bx - ay)dxdy = 

C
a dx + b dy + c dz

... これが、ストークスの定理である。
さらに、C の接線 t と S の法線 n を対応させると、簡略化できる。



S
rot v・n dσ = 

C
v ・t ds

尚、ds は C の微小弧。

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