今日、四月一日...
小雨ちらつく中、しとしとぴっちゃん気分でお決まりの古本屋を逍遙していると、本棚の奥で、なにやら「談義の幕」が開いた様子。
それは、ソクラテスの言葉に発した。
「とにかく結婚しなさい。良妻を得れば幸せになれるし、悪妻を得れば哲学者になれる。」と...
そして、クサンティッペは思いっきり偉大な悪妻を演じきり、夫を思いっきり偉大な哲学者に仕立て上げたとさ。よっ、良妻賢母!
「歳をとったら女房の悪口を言っちゃいけません。ひたすら感謝する。これは愛情じゃありません。生きる知恵です。」
... 永六輔
まず、キェルケゴールが口火を切った。
「結婚だって!?君は結婚しなかったことを悔やむだろう。そして結婚すればやはり悔やむだろう。」と...
ヘンリー・ルイス・メンケンは断じた。
「真の幸せ者は結婚した女と独身の男だけよ!」と...
フランシス・ロッドマンは独り酒瓶に向かってぼやいている。
「結婚とは、花屋に払っていた勘定が、乾物屋に回っていく過程のことよ。」と...
釣られて、シリル・コノリーが愚痴る。
「孤独に対する恐怖は、結婚による束縛に対する恐怖よりもはるかに大きいので、俺達はつい結婚しちまうんだ。」と...
ラ・ロシュフコーは自ら慰めている。
「よい結婚はあるが、楽しい結婚はない。」と...
モンテーニュは閉塞感を漂わせている。
「結婚は鳥カゴに似ている。外にいる鳥は必死に入ろうとし、中にいる鳥は必死に逃げ出そうとする。」と...
エルバート・ハバードは教育論まで持ち出す。
「女を教育してやろうと思って結婚する男も、また、男をよくしてやろうと思って結婚する女も、共に同じ間違いの犠牲者になる。」と...
ベンジャミン・フランクリンは、彼らに助言を与えている。
「結婚前は両眼をぱっちり開けてよくみるがよい。しかし、結婚後は片眼を閉じたほうがよい。」と...
ソーントン・ワイルダーも応酬に加わる。
「結婚生活の最良の部分は喧嘩である。あとはただ可もなく不可もない。」と...
そしてついに、バルザックは悟ったのだった。
「あらゆる人智の中で結婚に関する知識が一番遅れている。」と...
結婚に関する名言は枚挙にいとまがない。これほど所有の概念と強く結びつくものがあろうか。所有とは、支配欲の源泉。結婚(けっこん)と血痕(けっこん)が同じ音律なのは、偶然ではなさそうだ。運命の糸が血の色というのも...
談義の締めくくりに、サマセット・モームが所見を述べた。
「結婚はすばらしいことだが、結婚という習慣をつけたことはミステイクだと思う。」と...
そしてついに、寡黙なニーチェが重い口を開いた。
「偉大な哲学者たちの誰が結婚したというのか!?ヘラクレイトス、プラトン、デカルト、スピノザ、ライプニッツ、カント、ショーペンハウアー... 彼らは結婚しなかったではないか。のみならず、彼らが結婚する姿を想像することすらできない。結婚した哲学者は喜劇ものよ。これは私の教条だ。そして、ソクラテスのあの例外はどうかと言えば... 意地の悪いソクラテスのことだ。わざわざこの教条を証明するために、反語的に結婚したらしい。」と...
おやおや!なぜか?この場にアリストテレスの姿が見当たらない。友より真理を愛した彼なら、なんと答えるだろう。Philosophia... 哲学の語源は、「知を愛する」ということ。哲学者ときたら、これほど貪欲な人種が他にあろうか。金や名声なんぞでは満たされない。愛情や憐憫なんぞでも満たされない。もっと高次な、もっと高尚な、もっと崇高なものを貪り... そして、真理という幻想に憑かれ、疲れ果て、死んでいったとさ。
そして、劇作家ビバリーニコルズのピロートークで「談義の幕」は閉じた。
「結婚... 第一章は詩で書かれ、残りの章は散文で書かれた一冊の本。」
今日、四月一日。酔いどれ天の邪鬼は、賢者たちに屁理屈屋の末路を見たのだった...
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