2021-12-05

"青い鳥" Maurice Maeterlinck 著

童心に帰るのは難しい。脂ぎった大人には、さらに難しい。いまさら童話なんぞを... と思いつつ。気まぐれってヤツは、いつやってくるか分からん...


ところで、青い鳥が幸せを運んでくるってのは、本当だろうか...
かの偉大なアニメには、宇宙脱走犯「青い鳥」なんて逸話も見かける。無理やり幸福光線を浴びせかけ、まるっきり的外れな願いを叶えて、みんなを不幸にしちまう凶悪犯。この野郎を、岡っ引きのチルチルとミチルが追うというドタバタ劇である。高橋留美子も、メーテルリンクにはイチコロだったと見える。
それにしても、メルヘンチックなオリジナルより、そちらの方に癒やされようとは、もはや魂の腐敗は止められそうにない。夜の社交場では、おいらが幸せにしてやるぜ!なんて台詞まで飛び出す始末。
アンドレ・ジッドは、こんな言葉を遺してくれた。「幸福になる必要なんかないと、自分を説き伏せることに成功したあの日から、幸福が僕の中に棲みはじめた。」と...


さて、物語は、クリスマス・イブに薄気味悪い老婆が、ティルティルとミティル兄妹の家を訪ねたことに始まる。老婆は見るからに醜いけど、妖精なんだって。その妖精の娘は、ひたすら幸せになりたがる病にかかっちまったとさ。娘を救おうと、どこかに青い鳥はおらんかねぇ... 鳥籠にコキジバトがいるけど、あまり青くないねぇ...
そして、二人の兄妹は、妖精と一緒に青い鳥探しの旅に出るのだった。まず妖精の邸宅を訪れ、記憶の国、夜の城、月夜の森、幸福の館、真夜中の墓地、未来の王国を巡って...
尚、江國香織/訳 + 宇野亜喜良/絵(講談社文庫版)を手に取る。


サンタのおじさんは、お金持ちの家にはやって来る。だが、貧しい家では、ママがお願いに行けなかったから、来年はきっと大丈夫よ!と慰める。来年は遠い。幼い子には、遥か彼方。ティルティルとミティル兄妹には妹が二人いたが、すでに亡くなっている。貧しい家では、子供を無事に育て上げるのも大変。
記憶の国では、この世にはいないお爺ちゃんやお婆ちゃん、妹たちと出会い、過去の思い出に浸る。だが、ここには青い鳥はいない。過去に縋っても、幸福は得られないの?
幸福の館では、様々な贅沢三昧を検分する。金を持つ贅沢、土地を持つ贅沢、満たされた虚栄の贅沢、何もしない贅沢、必要以上に眠る贅沢、ぶくぶく太る贅沢、不幸な人たちを救いたがる贅沢、宇宙の摂理を知る贅沢など。しかし、ここにも青い鳥はいない。贅沢は幸福ではないの?
夜の城や月夜の森では、光が問題となる。月の光に照らされる死んだ鳥たちは誰が殺したの?真夜中の墓地では、みんながみんな天国へ行けるわけではない。未来の王国に希望を託したところで同じこと。偉大な未来に絶望するか。明るい未来に退屈病を患うか。
そして、現実に引き戻される。すべての旅は夢だったの?目を覚ますと、鳥籠のコキジバトが青く見える。これが、クリスマスプレゼントなの?色彩の特性には三原色ってやつがある。色付きメガネで見れば、好きな色に見えることも。色盲なら想像で補うことも。すべては見方次第!凡人は、目の前の幸せにも気づかない...


「なんにも見ようとしない人間がいるとは聞いていたけど、まさかお前は、そんな心のねじれた、無知な人間ではないだろう?でも、見えないものも見なきゃいけないよ!人間っていうのはほんとに妙な生き物だね。妖精たちが減ってしまってからというもの、人間はなにも見ないばかりか、目に見えるものを疑いもしない...」

0 コメント:

コメントを投稿