ベートーヴェンは、五つの楽章を通して田舎の風景を記した。「田園における楽しき心の目覚め」、「小川のほとりの景色」、「田舎人の歓会」、「雷雨、嵐」、「嵐のあとの喜びと感謝」と...
こうした風景は、盲人にはどのように見えるのだろう。目が見えなければ色が分からない。だが、音楽には音色(ねいろ)というのがある。金管楽器、弦楽器、木管楽器... それぞれに固有の音色を放つ。色が光の波長なら、音色もまた音の波長。波打つものは互いに干渉し、共鳴し合う。そして、会話で交わされる比喩の共鳴が、音色を確かなものに...
尚、川口篤訳版(岩波文庫)を手に取る。
物語は、白痴で盲目の美少女に出逢った牧師が、神から義務を授かったと、彼女を連れ帰ったことに始まる。
しかし、牧師には妻と息子がいた。実の家族以上に愛情を注いで彼女を教育していくうちに、聖職者が信奉する博愛は異性への愛へ。いや、最初から下心があったのやもしれん。男の本能が、義務と偽らせて...
牧師の息子も彼女に惹かれていく。こちらはまともな愛か。いや、平凡な。だが、牧師は息子の愛をも遠ざける。
愛は人を盲目にさせるというが、どうやら本当らしい。身体的な盲目と精神的な盲目とでは、どちらが不幸か。マタイの福音書は告げる... 盲人を導く盲人よ。そんな輩は捨ておけ!盲人もし盲人を導かば、二人とも穴に落ちん!
やがて、盲目の少女は視力回復手術を受ける。彼女が見たものは... そのために自殺を図り、一度は命をとりとめるも...
おそらく、盲人にしか見えないものがあるのだろう。不幸な境遇を知る人にしか見えない幸福があるように。真理を見るには資格がいるらしい。
悲しいことに、幸福を素直に喜べない不器用な人たちがいる。純真無垢な人間が自分の存在位置を知ったら、それは罪か。
自分のために苦しんでいる人たちがいる。それを知ってしまったら、罪を感じなければならないのか。神は無情だ!いや、神の声を代弁する聖職者はただの生殖者であった、というだけのことやもしれん...
0 コメント:
コメントを投稿