2026-11-01

"デザインと障害が出会うとき" Graham Pullin 著

この手の書には、なにやら癒やされるところがある。ささやかな希望が...
しかしながら、希望ってやつは危険だ。時には人を狂わせ、下手すると絶望よりもタチが悪い。障害者にも活躍の場を... などという政治的なキャンペーンは言葉を安っぽくさせる。当事者の気持ちなんか分かるもんか。分かってもらおうとも思わん。そっとしておいてくれ!それが本音やもしれん。障害者家族も、障害者自身も...

人は、なかなか本音を口にしない。暗い面なら尚更、気持ちとは真逆なことを言ったりもする。それを聞く方が察したところで、しばしば的外れ!結局、人の居場所、すなわち、存在をめぐる問題となる。はたしてプロダクトデザインが、障害を明るい存在にしてくれるだろうか...
尚、小林茂監訳、水原文訳版(オライリー・ジャパン)を手に取る。

障害の定義も幅広い...
ざっと挙げてみても、機能障害、運動障害、感覚障害、発達障害、認知障害、精神障害、知的障害など枚挙にいとまがない。
このカテゴリを欠点という言葉で抽象化するなら、欠点のない人間などいるのか。人は誰しも、大なり小なり何らかの障害を持って生きている、と言うこともできる。それを自認できる者もいれば、自認できない者もいる。自認できれば、健常者を演じることも容易い。相手に差別用語を浴びせかけるからといって、自認できない証拠とも言えない。支援する側も、どこか上から目線になりがち。支援してあげているんだと。ただ、日常から障害者に接していると、人間というものを少しばかり勉強できるような気がする。

障害そのものも変化してきた...
かつての障害は、今では障害ではなくなった、ということもある。障害に対する配慮では、まず目立たせぬように... という考えが古くからある。あるいは、経済学風にトリクルダウンという考えも、一般向けデザインが障害に特化した器具にも浸透していくというような。こうした伝統的な考え方にも一理あるが、万人のために... というこだわりがデザインを貧弱にさせることもある。

本書で紹介されるデザインは、さりげなく支援するものから、あえて機能性を目立たせ、個性をアピールするかのようなものまで。登場するデザイナーも多彩で、工業デザイナー、インタラクションデザイナー、プロダクトデザイナー、家具デザイナー、ファンションデザイナー、グラフィックデザイナー... と。彼らが、もしお尻ふきと出会ったら、もし車いすと出会ったら、もし義足と出会ったら、もしロボットアームと出会ったら、もし補聴器と出会ったら、もし点字と出会ったら、もしコミュニケーション補助具と出会ったら、もしアクセシビリティ標識と出会ったら... といった視点から支援テクノロジーの在り方を問う。

「障害者たちは、たとえ同じ機能障害があったとしても同じ経験を共有してはいない。同様に、同じ分野のデザイナーたちも同じアプローチに従ったり、同じ価値観を持ったりしてはいない。具体的なデザインブリーフに基づいて個人としてのデザイナーが障害者個人個人と協力することから、エキサイティングな新しい方向性が生まれてくる。そこから生み出される反応は毎回異なり、補い合うものであったり、時には矛盾するものであったりもするが、必要とされているのはそのような豊かさなのである。」

障害者は社会的弱者とされ、健常者の配慮が必要とされる。
だが、社会的優位性なんてものは時代とともに変化し、逆転することもしばしば。パラリンピック選手がオリンピック記録を上回るといったことも、驚くほどのニュースではなくなった。自分の弱点を受け止められる者が真の強さをまとうことができるのかも...

巷には、障害のためのデザインに溢れている。障害者が身にまとうものすべてを... メガネも、補聴器も、義足も、ロボットアームも、車いすも、コミュニケーション補助器も... ウェアラブルデバイスと見るならテクノロジーの見方も変わる。障害者の世界が健常者の感受性を刺激したり、その逆であったり。
電子デバイスは自然に身につけるもので、睨めっこしながら使うなんて馬鹿馬鹿しい... と教えてくれるのは、むしろ障害者たちの方かもしれない。ながらスマホなんて時代遅れ!ってかぁ。こうした視点から、本書で紹介されるデザインをいくつか拾ってみよう...

1. まず、成功例にメガネを...
ひと昔前、視力が弱い人は分厚いレンズをまとい、牛乳瓶の底などとからかわれる光景を目にした。今では、ファッション性を高め、伊達メガネってのもある。だからといって、メガネのようにさりげなく演出される補助具は珍しい。

2. 盲人にも視覚的芸術性を...
盲人には白い杖がお決まり。社会では、白さが SOS サインとして受け入れられている。それでも見た目は飾れるし、電子デバイスにも位置づけられる。
点字は読める人にとってはありがたいが、盲人の中でも少数派だという。晴眼者にとってもとっつきにくい。
そこで、誰にでも分かりやすくした彫り文字が提案される。しかも、そのデザインはテクスチャや壁紙風に幾何学的なイメージを与え、芸術的ですらある。こうした発想が万人に受け入れられるには、文字の大きさや線の太さなどの標準化も必要であろう。
また、ムーン線字法というのも紹介される。凸凹で表現される文字の一種で、ローマ字の簡略化された書体に由来するという。元々視力を持っていて、後に視力を失った人たちが多く活用しているらしい。
杖にしても、点字にしても、字体にしても、線画として捉えれば、そこに芸術性が暗示され、明るい存在となりそうな...

3. 視覚障害者のための腕時計...
触知式や音響式時計の歴史は長い。触知式の文字盤に機械式の点字を採用すれば、初のデジタル時計か。最初の音響式はリピータと呼ばれ、ある時間毎に音で知らせる仕掛けだったという。こうした発想は、十七世紀頃の時計職人から受け継がれ、今ではオシャレなボイス時計を見かける。
これに振動式を採用すれば、初のバイブレーション機能か。マナーモード機能の原点も、こんなところにあるのかも...

4. トイレではプライバシーを...
トイレでは、手の届く範囲が限られていて不自由を感じている人が少なくない。そこで、トイレットペーパーを巻き付けるお尻拭き!おかげで、用を足す時にプライバシーが守られるそうな。排泄の場では、介護生活で奮闘した思い出が鮮明に残っている...

5. 車いすは障害の象徴的存在...
障害を意味するピクトグラムに、アクセシビリティ標識がある。国際シンボルマークには車いすに乗った男性がイメージされ、車いすは障害者の象徴といったステレオタイプを助長する。
そのためかは知らんが、車いすの進化は目を見張るものがある。介護生活でお世話になったが、スタイリッシュで機能性を兼ね備え、コンパクトな構造の上に座り心地がよく、爺ヤ婆ヤも気持ちよさそうに乗っていた。歩道に埋め込まれた点字ブロックの上もスムーズに走行できる。階段の昇り降りも、意外と楽。ちとテクニックがいるが、介護士さんの手ほどきで。難を言えば、重量が 17kg もあって、自動車のトランクに乗せるのが一苦労!
ちなみに、病院の車イスは、ちょっとした凸凹でも車輪が取られ、押すのも大変!
本書では、褥瘡防止機能までも紹介される。姿勢の微調整ハンドル付きで。褥瘡とは、床ずれのこと。その呼び名からそんなに重々しくは感じないが、かなり恐ろしい病気と聞く。下手すると骨が見えてきて、そこからバイ菌などが入って命を落とすこともあるのだとか。訪問看護師さんによると、毎日、消毒しなければならない患者さんもいます... とのこと。理学療法士さんからも、まず褥瘡防止に配慮して、介護ベッドに寝返り用の自動エアーマットを強く勧められたものである。こうしたデザインが、車いすにも装備されるとは...

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