2008-02-17

"「最強情報戦略国家」の誕生" 落合信彦 著

本屋を放浪していると、ある本に目が留まった。多分売れ筋なのだろう。なかなか陳列が絶妙である。アル中ハイマーは商売戦略の罠に嵌りやすい。著者の本は、昔、何冊か読んだ記憶がある。懐かしさにも誘われて、なんとなくハードボイルドな気分で立ち読みするのである。しばらくすると、カウンターから鋭い視線を感じる。なかなか可愛いお姉さんだ。どうやらおいらに気があるらしい。ドスの利いた声で「この本を頼む!」と話しかける。お姉さんは決まりきった営業文句であっさりとかわす。どうやら照れ屋さんのようだ。

スパイ天国日本。情報漏洩で同盟国に信用すらされない日本。伝統的に情報音痴な日本。こんな国に自立を求めるのは無理な話かもしれない。東西冷戦が終結し平和の時代が来るかと思えば、前にもまして、ナショナリズム、地域紛争、宗教的狂信、環境問題、資源帝国主義、拉致、核拡散などなど危険な時代に突入する。各国は国家存亡のため、諜報活動をますます強化する。こうした諜報活動は、軍事面のみに留まらず外交戦略、経済戦略にも大きな影響を与える。本書は、厳しいこの時代で先進国の一角を担うには、まともな諜報機関を設置する必要があると訴える。では、どんな組織が日本に相応しいだろうか?四代諜報機関、モサド、CIA、SIS(MI6)、KGBを元に考察している。

1. インテリジェンスなき国家
日本でも諜報機関と称される組織がいくつかある。ただ、内閣情報調査室、公安調査庁など、スケールが小さすぎるという。活動内容も国内中心で、世界を網羅する諜報機関というよりは、保安機関というべきだろう。警視庁公安部にしても保安機関である。そうなると外務省が諜報活動の中心となる。外務省にも国際情報統括官組織なるものがあるがほとんど機能していないという。もはや日本には、国家にアンテナがないのか。外交官、自衛官、また、海外で活躍する民間企業にしても、外国からしかけられるトラップに嵌る。日米自動車問題で、日本の通産省や運輸省、自動車業界のリーダ達の電話を盗聴するなどは当然のように行われる。しかし、あまりに日本の政治家の行動に次元の低さを感じると語る。優秀な諜報機関が出現するのは、歴史的にみても危機に直面している国家であろう。16世紀のイギリスから始まり、現在ではイスラエルのモサドのように。日本には卓越した諜報機関がないにも関わらず、世界第二位までの経済大国になった。国家戦略とは別に、民間企業が個々に成長した。これはなぜか?民間企業そのものが情報収集してきた結果であろう。日本の総合商社は諜報機関の役割を果たしていた。少なくともいままでは、外務省の情報よりも、商社マンの情報の方がはるかに価値のあるものだった。それは、企業としての生存競争の中で危機意識を持っていた証である。日本政府は、経済発展は民間企業に任せ、軍事はアメリカに頼り、外交は形だけのものでやってきた。情報を同盟国に頼ったところで、日本にとって重要事項を隠される可能性だってある。所詮、各国は自国の国益しか考えない。インテリジェンスなき国家はインテリジェンスな動きができない。諜報界でよく言われる言葉にこんなものがあるらしい。「友好的な国はある。しかし友好的な諜報機関はない」

2. 日本の国家諜報機関(NIA)の青写真
もし日本に総合諜報機関を作るとしたら、プロトタイプとして何を参考にしたらいいだろうか?本書は四代諜報機関からヒントを探る。CIAは、その動き一つで世界の運命が変わると言っても過言ではない。ターゲットのレベルが違う。日本がここまで責任を負うことはないだろう。日本は優秀な保安機関を持っている。これを基盤として権限と管轄を広げれば効率が良い。問題は対外諜報網である。SISをプロトタイプにすべきだという意見も多くあるようだ。ただ、SISは外務省管轄である。長官の任命権も外務大臣に与えられる。本書は、日本で外務省管轄にするには問題があると指摘する。省組織が脆弱で、しかもつまらない派閥ごっこがのさばる。内部監察も確立されていない。この点は、佐藤優氏の著作を読んでも伝わってくる。本書は、政府内での位置付けはモサドのように、完全独立機関とするのが良いと提案する。政治色が一切あってはならない。首相直轄とする。もちろん、長官は政治家であってはならない。さしあたっては、自衛隊か公安調査庁、または内閣情報調査室出身者とする。構造的には、SISのように、上層部をできるだけスリムにして、重要な現場層を厚くすると良いと語る。上層部が少ないとマネジメントは大変だが、無駄な脂肪がなく効率が良い。また、会議をする必要もない。官庁でも企業でも、会議が多いところほどエネルギッシュさやバイタリティに欠ける。会議が多いということは、個人のイニシアティブが少ないということであり、悪く言えば誰も責任を取らない。会議出席者全員の責任となり誰も傷つかないのは日本の体質である。諜報機関にそんな余裕はない。トップから個人に至るまで、個人のイニシアティブで行動しなければならない。
本書は、全組織図を具体的に提示する。人数はざっと6000人と概算している。もちろん人員は極秘であるので、公務員名簿に実名で載ることもない。まあ、政府省庁が多くの無駄な金を使っていると思えば、このぐらいの組織は必要なのだろう。当然、機密費扱いでマスコミの攻撃を受けるだろう。どこぞの機密費問題と一緒にされても困るのだが。そもそも、日本にはそこまで危機が迫っているわけではないので、モサドのように首相命令で誰でも殺すというようなことは必要ない。地味な情報収集に徹すればいいはずである。優秀な人材による情報収集力はモサドに見習うべきであると語られる。まあ、CIAのような卓越したハイテクに依存するのも問題があるのかもしれない。

3. 日本で活躍する諜報員
かつて自民党副総裁だったある人物は1990年北朝鮮を訪問した時、北朝鮮のエージェント・オブ・インフルエンスであることを自ら暴露してしまった。金日成に彼の家系は北朝鮮に繋がっていると言われて感激のあまり涙を流したという。国税局の幹部の話によると、その後脱税で捕まった時、彼の家には刻印のない金の延べ棒が発見されたらしい。刻印なしの金の延べ棒を製造しているのは世界でも北朝鮮だけである。朝鮮総連の元幹部が外国人登録違反で摘発された時も、彼は警視庁に圧力をかけた。また、朝鮮総連へ警視庁が不当な圧力をかけたと抗議団を結成した時、当時民社党の国会議員二人が一緒に行動していたという。こんな節操のない輩が日本の政治をやっているのも嘆かわしい。愛人と称して外国人エージェントを囲っている政治家もいるに違いない。これでは、エージェント・オブ・インフルエンスのオンパレードである。どこの国でも国家反逆罪で逮捕されるが、日本では保安機関が動くこともない。主権が侵されることもOK。拉致もOK。更にリベラルと自認するマスコミは社説でバックアップする。全く自分では意識していなくても、ごく自然のうちにある国のエージェントになってしまうケースも多い。一部の政治家、マスコミ、文化人や学者、政党、日教組などなど。

4. 報告書「JAPAN2000」
1991年アメリカは「JAPAN2000」で日本研究の報告書をまとめている。そこには、Defcon One(軍事警戒レベル1)と最高レベルの脅威を示しているという。当時、ソ連は崩壊への道を辿っていた。強敵ソ連の脅威が無くなれば、CIAの存在価値も薄くなる。もはや軍事レベルで対抗できる国がないと見るや、日本やドイツをターゲットに置く。ドイツは東西統一で混乱状態にある。よって、日本が狙われる。人種的にも狙いやすいのだろう。その方法は、日本人が金の亡者であり、利益至上主義であると宣伝する。そして、証券業界、ゼネコンの腐敗をスキャンダル化した。この分野は旧体質でグローバル化に合わない日本の弱点でもある。更に、金融業界の不良債権問題を顕著化し日本経済を叩く。これは全てCIAの策謀であるという。9.11事件や、小泉&ブッシュ関係から、一時的にバッシングを止めたが、2015年には日本は先進国の地位から滑り落ちると予告した報告書をCIAが2000年に作成した。ただ、これは予告ではない。占い師があなたの命はあと何年ですと言えば、殺せば当たるのだ。本書は、CIAが予測したことは面子をかけてでも、しかけてくるはずだと警告している。また、「JAPAN2000」で奇怪なことがある。最大の欠点である諜報機関が存在しないことには一切触れていない。スパイの存在さえ認めないことや、先進国の中で唯一機密漏洩法がないことにも触れない。信用できない国で重要な情報をシェアできないことも指摘していない。なぜだろう?日本に本物の諜報機関が設立されると困るからであると語る。現状のアメリカによる情報依存を続けてほしいのだ。アメリカにとって都合の良い情報で日本をコントロールしておきたいのである。日本が経済大国になっただけでも脅威なのに、更に諜報大国にでもなられたらやっかいだろう。経済と外交を制するものが世界を制する。これをCIAが一番良く知っている。もし、まともな諜報機関があれば拉致問題もここまでこじれる前に防衛できたであろう。どの国も存亡のために必至になる。その生存を保障するのが諜報力である。日本は、1985年にスパイ防止法案を、マスコミや野党の攻撃で廃案となった。相変わらず国家休業状態であると語られる。

5. 情報音痴
日本人ほど情報という言葉を使う人種はいないという。情報というものの本当の意味を分かっている人間はあまり口にしないのかもしれない。自衛隊にしても、政府にしても脇の甘さは半端ではないと語る。明日のためのノーガード戦法ということか?そしてパンチドランカーとなる。もっと恐ろしいのは、中国や北朝鮮に簡単に、自衛官や民間企業あるいは一般市民が巻き込まれるケースが多いことである。敵方エージェントを引き抜く手法はMICE、M(金)、I(イデオロギー)、C(コンプロマイズ)、E(エゴ)であるという。金で釣ったり、濡れ場を隠し撮りされて脅したり、日本人が良く行くカラオケバーなどで巧みに罠をしかける。愛想良く笑顔で接待され、持ち上げられることに日本人は弱い。顔が利くなどと勘違いして情報を落として回る。女性の前では、名刺やメモで連絡先を置いていってくれる。これは、アル中ハイマーの行動パターンそのものである。2004年の上海日本領事館の電信員の自殺や自衛隊員事件で、カラオケバーは敬遠しているはずだと思ったら、そうでもないという。懲りない連中であると語られるが耳が痛い。
「普通の悪党でも人を殺すことはできる。しかし、殺しを自殺と見せかけるには諜報機関の才能を必要とする。」
「普通のアル中でも酔っ払うことはできる。しかし、アル中ハイマーにああ気持ちええ!と言わせるには、凄腕のバーテンダーの才能を必要とする。」

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