2008-08-24

"宇宙を測る" Kitty Ferguson 著

今日は、ブルーバックスを買うと固く決意して本屋へ向かった。最近ブルーバックスをあまり読んでいない。というのも、新刊がいまいち肌に合わない。そろそろ、ブルーバックス教から脱退する頃合なのだろうか?ちなみに、岩波文庫教は衰えを知らない。岩波文庫はウィスキーのように年代物にこそ味わいがある。
立ち読みしながら物色していると、二日酔いで頭が重い。昨晩、はしごをしたようだ。ついでに、「宇宙の距離はしご」も悪くない。店間距離を測るには夜の社交場をはしごする。それは、千鳥足というゆらぎに支配され、予測不能な行動パターンが生じる。宇宙の点間距離を測るのも、量子論のゆらぎに支配され、予測不能な誤差が生じる。アル中ハイマーには、宇宙も夜の社交場も同じ磁場に見える。

本書は、プトレマイオスからホーキングまで、宇宙の果てに挑んだ天才たちの歴史を振り返る。それは、宇宙の距離を測ろうとした歴史であり、測定誤差との戦いでもある。科学が発展すればするほど、課題も増え登場人物も増えていく。そして、研究や実験が個人であったものが、グループによって成し遂げられるようになる。これは、解明する速度よりも、複雑化する速度の方が速いことを示しているのだろうか?コンピュータの構造も、社会システムも、ますます複雑化し、人口も爆発的に増加する。これは全て自然法則で、エントロピー増大の法則へと向かっているのだろうか?
おもしろいことに科学の発展は、人間中心の宇宙から人間の地位をどんどん引き摺り降ろしていく。だが、いつの時代でも宗教は、それに待ったをかけようとする。宗教は、実は神を崇めようとしているのではなく、人間を崇めようとしているのか?一方で、哲学的な精神はそれほど変わらない。現在においても、プラトン哲学が継承されているところがある。それは、どんな複雑な現象も、背後には単純な自然法則が潜んでいるに違いないと信じてきた科学者の執念である。

本書は少々古いので、ホーキングが登場するあたりまでである。それでも、学生時代が思い出されて楽しい。ちなみに、おいらは自らの能力を顧みず、宇宙物理学に夢を見ていた時代がある。
本書には登場しないが、新しい宇宙観では、超ひも理論の登場で、素粒子物理学者によってサイクリック宇宙論を支持する人も多い。宇宙の膨張は、宇宙項と物質の密度との関係によって論じられる。宇宙項とは、真空がどの程度のエネルギーを持つかを表す定数である。宇宙項が大きいほど、エネルギーのタダ食いの効果が大きく、宇宙は速く膨張する。宇宙は永遠に膨張するか、やがて停止し定常宇宙となるか、いや、収縮に転じるかもしれない。インフレーション理論では、宇宙のエントロピーは、ただの一回の指数膨張と、それに次いで起こる再加熱によって作り出されると主張する。一方、サイクリック宇宙論では、ビッグバンとビッグクランチを繰り返しながら、徐々にエントロピーを蓄えてきたと考える。そこから計算されるのが、30回から50回の繰り返しで、その途上に人類は住んでいると主張する。つまり、インフレーションという特殊な時期を考慮する必要がない。宇宙は、ビッグバンとビッグクランチを繰り返していくうちに、だんだん巨大化しているのか?ビッグバンとビッグクランチの境界は、実時間によって受け継がれているのか?ただ、一晩に同じ店へ何度も繰り返して立ち寄る現象は、虚時間を持ち出さないと説明がつかない。

宇宙論には、こんな名言がある。
ホーキング曰く。
「もしも宇宙が永遠の過去から存在するならば、あらゆるものの温度は等しいはずである。」
オルバースのパラドックス。
「空は無限に明るくはない。ゆえに目に見える宇宙は無限ではない。」

1. 視差と光
カッシーニは、火星が地球に最も接近する絶好の機会に、視差法によって距離を測った。そして、ケプラーの法則によって、惑星との距離が算出される。
光の明るさは、光源からの距離の二乗に反比例して減衰する。元々の星の明るさが同じだと仮定すれば、見かけの明るさを比較すれば距離はわかる。しかし、全部同じ明るさと仮定するのも無理がある。ニュートンによって分光学が登場し、星の明るさを分類できる手段を得る。ニュートンの重力の法則は、ケプラーの法則の背後に潜んでいた物理学を構築する。人類の知性の歴史における最も偉大な業績と評される著作「プリンキピア」は、光学、神学、錬金術、微積分など多岐にわたる。ニュートンは、プリズム実験で、すべての光線を一点に集めることはできないと知るや、レンズによる望遠鏡の性能には限界があることに気づく。そして、鏡を使った新型望遠鏡の開発に貢献した。
ハレー彗星の軌道計算で有名なエドモンド・ハレーは、水星の太陽面通過の時刻を計測した。彼は、惑星が太陽面通過の時刻を測定することが正確に測る機会と考え、他の手法はあまり信用していなかったという。ジェームズ・ブラッドレーは、年周視差を試みるが、困難を極めた。そして「光行差」を発見する。つまり、地球の移動方向にずれて見えるのである。また「章動」も発見する。つまり、地球は完全な球ではないので、ぐらつくのである。
ドップラー効果では、遠ざかる星は赤方偏移し、近づく星は青方偏移する。ドップラー効果の応用は、あまり遠くない星群に対しては有効な方法だという。見かけの移動量とドップラー効果を使えば、移動方向の角度が分かる。この方法で、最も近いおうし座にあるヒアデス星団までの距離がわかった。運動星団法である。幸運にもヒアデス星団には、いろんな種類の星が含まれているので、スペクトルによって絶対等級を計算できるようになった。分光視差法である。ドップラー偏移と視線方向の速度を求めた後、星団の平均速度を求めることができる。統計的視差法である。星はいろいろな方向に動くが、星団としては平均化されると仮定するのである。

2. セファイド変光星
ヘンリエッタ・スワン・レヴィットは、マゼラン星雲から整然とした変化を示す変光星があることに気づいた。極大光度へ急激に上昇した後、ゆっくり減光する。これがセファイド変光星である。そして、絶対等級が同じセファイドは、変動周期も同じになることを示した。これは、視差法では測れない遠い星を測定する足がかりとなる。星雲内にセファイドが見つかれば、その変動周期を測ることで、星雲までの距離が測れるようになる。ちなみに、北極星もセファイドである。今では、セファイドは主系列であることがわかっているらしい。主系列とは、水素からヘリウムへの核融合反応が定常的に起こっている状態で、いずれ赤色巨星に達し年老いて終わる星である。主系列を過ぎると、星の中心核は収縮し始める。すると温度が上がって、熱が外層へ流れ出し、一階電離ヘリウム原子を活性化させる。一階電離とは、原子から電子が一個失われている状態を言う。エネルギーが上昇すると、もう一つの電子がたたき出され、原子は二階電離となる。二階電離した原子は、すぐに光を吸収する。その結果、星の大気は不透明となり、熱を閉じ込め、ますます熱くなり膨張する。星の外層は膨れ100倍の大きさにもなる。星が膨張するとエネルギーは広範囲に広がり、外層は冷える。そして、ヘリウム原子が冷えて、二階電離から一階電離へと戻る。大気は再び透明となり収縮し始め、そのサイクルが繰り返される。これが、セファイドのメカニズムである。

3. ビッグバン説
ハッブルとミルトン・ヒューメイソンの共同観測によって、近傍の銀河は別として、他の銀河がどれも遠ざかっていて、互いに離れていくことを発見した。宇宙膨張説の始まりでる。一般相対性理論から、宇宙は膨張するか収縮するかのどちらかになるという結果が得られる。しかし、アインシュタインは宇宙膨張論を嫌っていた。そこで、宇宙定数という宇宙が静止状態になる項を導入した。これは、生涯の最大の失敗であると嘆くことになるが、宇宙定数の概念は、その後も残っている。アレクサンドル・フリードマンは、アインシュタインの理論を額面通り受け入れて、膨張宇宙の可能性を示唆する。ニュートンは、どちらもありえないと考えた。膨張や収縮をするならば、運動の中心というものがなければならない。宇宙が無限の空間で、物質が一様に分布しているとしたら中心はない。しかし、膨張宇宙となると、宇宙誕生がなければならない。ジョルジュ・ルメートルは、宇宙は原始アトムの爆発から始まったと主張した。ビッグバン説である。この説にクエーサーの発見が後押しする。クエーサーのスペクトルは大きな赤方偏移を持ち、遠方で高速に遠ざかるように見える。かなり老齢なものと考えらているが、依然として謎である。ビッグバン説が正しいとすると、宇宙の果てまでの距離を測れば、宇宙の寿命がわかる。

4. インフレーション理論
ビッグバン説における気がかりは、地平線問題と平坦性問題である。地平線問題は、情報が光速より速く伝わらないという前提からくるもので、宇宙背景放射の等方性は問題となる。離れた領域でも放射強度が等しいのである。平坦性問題は、宇宙がすぐさまビッグクランチに陥って崩壊することもなく、また、暴走的に膨張しあっという間に年老いてしまわないのはなぜかという問題である。宇宙の幾何学、曲率は、宇宙の全エネルギー密度によって決まるが、観測される宇宙が極めて平坦であることへの説明がつかない。アラン・グースは、ごく短時間で膨張する宇宙の初期モデルを提唱し、ビッグバン説を補完した。これがインフレーション理論である。これは、ホーキングとペンローズの特異点への挑戦へと導く。いよいよ無境界宇宙へと展開を見せそうだ。量子力学の世界では、素粒子は自発的に生成消滅すると言うから二日酔いには解読できない。ホーキング曰く。「量子論的揺らぎで、何でもできてしまう。」量子論はなんでもありの世界なのか?これは、向い酒をせずにはいられない。なんとなく、昔読んだホーキングの本を読み返したくなってきた。

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