おいらは歴史の興味からラスプーチンが読みたいだけなのだ。それも古典風の。ところが、アマゾン検索は奇妙な答えを出す。最初にひっかかるのがなんと日本人。外務省のラスプーチン、佐藤優氏である。他をあたってみると、これまたしつこい。喧嘩を売ってんのか。そして、ドスの利いた声でつぶやく。「しょうがねーなあ。買ってやろうじゃねーか!」目的と違うからといって目くじらを立てることもない。人生とは寄り道である。こうして、アル中ハイマーはネット民主主義に屈っするのである。
著者のことは昔マスコミ報道で見かけた覚えがある。鈴木宗男氏との疑惑で捕まったダーティーなイメージがある。鈴木宗男氏と田中眞紀子女史の対立なんて聞きたくもない。アル中ハイマーには、マスコミ報道の固定観念が染み付いている。ところが、読んでみるとなかなかおもしろい。著者は情報屋で、それも凄腕のプロである様がうかがえる。その中で、プライドこそが情報屋の判断を誤らせる癌であると語る。また、神学や宗教哲学にも通じていて人間分析にも長けていそうだ。
本書は、外務省の陰謀や、政治家の足の引っ張りあいといった単なる政界の暴露本かと思っていた。前半はそうした部分もある。アマゾンでもそのような論評も多い。しかし、読みつづけると、そう簡単には片付けられるない。本書の主題は国策捜査である。国策捜査という言葉は流行りなのか?便乗したジャーナリストの問題提起した本が散乱しているようだ。民主国家において、政治の体制や方針を転換するには国民世論を必要とする。そのためにマスコミの支援は不可欠である。新旧体制の対立構図はワイドショーにできる。旧体制の象徴をスキャンダルに追い込めば、新体制への移行も容易となる。そこで、象徴的なターゲットに犯罪を作り上げ、その穴に落とし込む。これが国策捜査である。これは冤罪とは根本的に違う。冤罪は犯人を間違って罰するが、国策捜査はターゲットを葬る。元検事田中森一氏が告白本「反転」で、特捜が手がける事件は全て国策捜査であると語っていたのを思い出す。
本書の中で感銘を受けたのは、検事である西村氏の扱いである。敵対する相手を賞賛し、優秀な検事と被疑者の奇妙な関係を物語る。敵は外務省で、政界や霞ヶ関は「男のやきもち」の世界と、子供じみている。仕事は与えられた範囲でやればいいが、一線を越えると陥れられる。それが外務官僚の正体だという。本書はマスコミ不信も募る。著者の主張にはそれなりに説得力を感じるからだ。一流の情報屋にしてみれば酔っ払いを手玉に取るのは簡単だろう。おいらはニュースをあまり観ないようにしている。血圧が上がるからだ。事件に悲観しているのではない。著名なジャーナリストやタレントが正義感ぶって感情的な論調を繰り返すことに信憑性を感じないのである。ジャーナリストの口癖は、国民の知る権利を妨害してはならないと主張する。著者は、国民の知る権利は事実を知る権利であると主張する。アル中ハイマーは、迷惑な報道で悪酔いさせないでおくれと主張する。
本当の政治犯は、傲慢な官僚なのか?いや!それを監視する偉そうな政治家なのか?いや!それを選出する無知な国民なのか?いや!世論を扇動する無責任なマスコミなのか?ぐるぐる回って、ウォッカの力はついに闇の正体を教えてくれる。黒幕はダースベイダーなのだ。
本書は外務省の構図もわかりやすく説明してれる。外務省には学閥は存在しないが、「スクール」と呼ばれる研修語学別の派閥が存在するという。アメリカンスクール、チャイナスクール、ジャーマンスクール、ロシアスクールなど。また、業務による派閥もある。法律畑を歩んだ「条約局マフィア」、経済協力に関しては「経協マフィア」、会計専門は「会計マフィア」。近年は主要国首脳会議の裏方を担当する「サミットマフィア」もあるという。人事はスクールやマフィア内で行われ、情報も漏らさないため省内には閉鎖した小社会が形成される。これが良い方に出れば特出した専門家集団となり、悪い方に出れば不正の温床となるわけだ。本書は、著者が活躍したロシアスクールを中心に展開する。
1. ロシアの情報源、イスラエル
イスラエル建国を最初に認めたのがスターリン。もちろん理念を支持したのではなく、単にイギリスからの独立を支援したに過ぎない。冷戦構造とともにイスラエルはアメリカ陣営となる。国交断絶後、ソ連に在住するユダヤ人の出国は不可能となる。しかし、ユダヤ人は屈しない。抑圧政策を改めるようにロビー活動を展開する。これが米ソ問題まで発展しユダヤ人の出国を緩和させる。当時ソ連にイスラエル大使館は無かったのでオランダが代行していたらしい。出国希望のユダヤ人がオランダ大使館に殺到する。イスラエルの人口20%がロシア系だった。ちなみに、ソ連のオランダ大使館と日本大使館の距離は徒歩2分だったという。こうした背景で、著者はイスラエル人との関係を深めている。エリツィン大統領がチェルノムィルジン首相を解任したことが全世界で衝撃を受けたが、日本はいち早くこの情報を入手していたらしい。その情報ルートがイスラエルだったという。チェチェン問題も、プーチンが素早く制圧して国民の支持を得る。この時もイスラエル人のゴロデツキー教授から情報を得ている。これまで日本の政府関係者で、イスラエルの持つロシア情報に目をつけた人はいなかったらしい。ところが、ゴロデツキー教授に便宜をはかったことが、背任罪で逮捕されるきっかけとなる。
2. 北方領土問題
北方領土問題は、東西ドイツの分裂や東欧社会主義圏の成立と同様、第二次大戦の産物である。よって、解決する機会はベルリンの壁崩壊からソ連崩壊の間に最もチャンスが巡っていたと主張する。確かに、まともな論理に思える。その後にもチャンスは訪れているようだ。日露平和条約を締結するには、北方領土問題解決というのが互いの前提だったという。エリツィン大統領は、2000年までに平和条約に前向きだったらしい。その頃、自民党の大敗と、エリツィン大統領の健康悪化が重なった。小渕首相に至っては、北方領土問題の解決に熱心だっただけに、無念であることが語られる。ソ連崩壊で窮地に追い込まれた北方四島へのディーゼル発電機供給事業が行われる。ちょうど平和的に日本化が進む中、著者が偽計業務妨害容疑で逮捕される。これはクレムリンの陰謀か?ロシアの高級官僚にも領土縮小を快く思わない人がいるだろう。現在の外務省のロシア専門家は、アメリカのロシア研究については熟知しているが、西欧、イスラエルの研究にはほとんど関心を払っていないと指摘する。もはや、日露問題については絶望的なのだろうか?もし、その時代に北方領土問題が解決して日露平和条約が締結されていれば、当時ロシアの影響力が強かった北朝鮮との問題にも影響があったかもしれない。酔っ払いには、プーチンの時代では問題は悪化するように思える。というのもプーチンの資源帝国主義はかつての超ソ連の復活を目指しているように思えるからである。ソ連崩壊でKGBは解体されたが、プーチンの取り巻きは大部分を元KGBとFSBで固めているという噂だ。彼らに逆らう者は容赦なく消す。陰謀と暗殺のお国柄である。そういえばラスプーチンと似た名前だなあ。酔っ払いには、表向きの資本主義と旧共産体制が二重に見える。
3. 国策捜査
西村検事は、本件を国策捜査であると明言している。本件が鈴木宗男氏をターゲットにしたことは疑いの余地がない。ではなぜ、鈴木氏がターゲットにされたのだろうか?小泉政権では大きく二つで変化が現れた。
一つは内政である。競争原理を強化し経済を活性化する。ケインズ型公平配分路線からハイエク型傾斜配分路線への転換である。自民党政治の伝統は日本的な社会主義であることは、ほとんどの人が気づいているだろう。それを、経済的な強者が弱者を牽引し、弱者の生活水準も向上させるという方針に転換する。これは、かつてIMFと世界銀行が手がけた戦略に似通っているように思える。投機的なホットマネーを煽る金利政策や通貨政策をとり、世界レベルで経済的な弱者は強者の餌食になった。東アジア危機では多くの銀行を倒産させ、旧共産圏では市場経済へ移行する際、強烈なインフレを呼び込み庶民の財産価値を奪った。結果、世界中で貧困層を増大し不平等は拡大した。ホットマネーのリスクは現在でも市場を賑わしている。経済学者スティグリッツ氏は、グローバリズムに向かうのは自然の流れだが、この手法には社会的リスクという概念を無視していると警告していた。おいらは経済学は胡散臭いと思っているが、彼の本は何冊か読んでいる。中でも社会学的にアプローチしている点に感銘を受けている。おっと!ウォッカのせいで脱線してしまった。
国民の支持率が権力基盤である小泉政権は、競争原理の強化は地方を弱体化することや、金持ち優遇で傾斜配分が国益になるとは公言できない。そこで公平配分路線の政治家を血祭りに上げた。つまり、橋本元総理や森元総理でもよかったというのである。
二つは外交戦略である。国家意識、民族意識の強化。多角的外交路線から親米主義一本化へ。国際協調主義から排外主義的ナショナリズムへの転換であるという。安部元総理の「美しい日本」というのは、ナショナリズム高揚の道具なのだろうか?鈴木氏は、国際協調路線から北方領土問題を解決しようとした。四島一括返還以外は国是に反するとして、二島返還や先行二島返還は私的外交と非難される。そして、内政、外交の両面から攻撃対象として鈴木氏が適任だったというのである。この見解は、西村検事と著者で一致したようだ。国策捜査は突然終幕。最後に森元首相につながるということで検察庁は躊躇する。結局、ディーゼル発電機供給事業に関わった三井物産の社長は引責辞職。丸紅は入札に加わらない対価として5千万円を得た。これは税金である。しかし、鈴木氏との関わりは三井物産なので、丸紅は刑事責任を終われていない。本事件の勝者は、外務省執行部であると語られる。
4. 西村検事
西村検事は、国策捜査は「時代のけじめ」をつけるために必要であると皮肉っている。かなり激しい取り調べが展開されたかと想像していたら、心温まる話が多い。検事と被疑者が一緒に事件を分析しているあたりは、とても拘留されている話とは思えない。事件後、西村氏は水戸へ左遷されたという。官僚の世界では出世する奴の方が頭がおかしいのかもしれない。著者は西村検事についてこう評している。
「上司に媚を売るようなタイプではなく職人気質な検事である。人間として本当に勝負をかけている感じがする。誠実で優れた、実に尊敬に値する敵であった。」
せっかくだからスキャンダル沙汰も少しだけメモっておこう。
田中眞紀子女史は、9.11テロ事件の数時間後、米国務省の緊急連絡先を記者団に漏らすという大失態を演じた。また、突然人事課に乗り込み一室に篭城し、人事異動命令書をタイプさせるという暴挙にでた。米国務長官との会談をドタキャンした事件も非難の対象とはなるが、眞紀子イジメだとする感情論に支配された。ジャンヌ・ダルクと思っていたら西大后だったというオチである。
ここで著者とエリツィンが一緒に酒を飲んだエピソードを付け加えておこう。
ロシアでは友情を交わすのに3回キスするのがしきたりで、3回目には舌を軽く入れてくるのが親愛の証だそうだ。エリツィンもこのしきたりに従って酔うと男同士でキスをする。もう少し高いレベルの親愛もあるらしいが、日本の文化では想像に辛いという理由で紹介してくれない。もしかしたら著者はエリツィンにやられているのかもしれない。最後にうまいフレーズもメモっておこう。
「霞ヶ関と永田町は隣町だが、その距離は実はいちばん遠い。なぜなら、地球を反対側に一周しなくては行き着けないからである。」
2007-12-02
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