2011-08-07

"シックスシグマ" シビル・チョウドリ 著

本棚を眺めていると、時々まったく見覚えのない本に出くわす。だが、嘆くことはない。アル中ハイマー病患者のささやかな喜びなのだ。そして今宵も、百ページほどの入門書を見つけて首をかしげる。アマゾン履歴では十年前に購入したことになっている。そういえば、シックスシグマという言葉が流行ったような。
...んー!今宵の酒は愚痴を加速させやがるぜ。

品質保証がうまくいっているチームは、精度の高い工程管理がなされている。その一方で、工程表に憑かれたプロマネがいる。綺麗に整えられたドキュメントを眺めては、満足感に浸っているようだ。工程表は効率を図るための手段に過ぎないのに、工程表の作成自体が目的化している例は珍しくない。
工程表といえば...日本政府は、福島原発の進捗状況をほぼ工程表通りだと発表した。いまさら何を。そして8月、オープン化された枝野官房長官の定例会見へのフリーランス記者の申し込みがゼロだったことが報じられた。4月に遡ると、海外メディア向けに開催された東電、原子力安全、保安院の合同記者会見で、出席者ゼロだったことは記憶に新しい。政治屋や大本営化した大手マスコミが肝心なことを発表しないことは、世間では周知とされつつある。一方で、記者クラブの団結力は相変わらずか。クラブ活動とは、よほど楽しいものらしい。アル中ハイマーも夜のクラブ活動は欠かせない。
プロマネが工程を誤魔化し始めると、最悪な状況に向かいつつある前兆だ。そして、納期ギリギリで重大な問題が発覚するようにできている。これは、一種のマネジメント法則と言っていい。日本政府の様子をマネジメントの失敗事例として眺めるならば、これほど良い題材はなかろう。...any questions ? (無人の聴衆に向かって)

ISO9000のような国際標準規格を取得して、鼻高々にしている品質管理部長を見かける。理想郷にでも憑かれたかのように。そして、現場から愚痴が聞こえてくる...わざわざプロセス間のドキュメントを増やしてどうする!品質保証とは効率を悪くすることなのか?開発計画を短縮しても開発期間が延びるという矛盾を誰か説明してくれ!などと...
監査資格を持った連中を接待して経費が嵩むとは、なんとも滑稽だ。そういえば、むかーし職印の日付部分が、はめ込み式だと面倒だから、全員に回転式が配られたという話を聞いたことがある。今ではデジタルスタンプでバッチリかな?なるほど「カイゼン」とは「カイザン」のことか。それにしても、TQMやらISOやらと連呼しながら、資格や肩書きに目がないオヤジたちがいる。これも一種の宗教のようなものか。アル中ハイマーもウィスキーの銘柄には目がない。

シックスシグマの語源は、統計学の標準偏差に用いるσ記号である。もともとは、品質特性を正規分布と仮定した場合、欠陥率を100万分の3か4に抑えて、バラツキ範囲を6σにするという発想だ。1980年代、モトローラ社は日本式品質管理を参考にしながら、その概念を拡張させて品質改善手法を開発した。この手法にGEが目を付けると、統計学的な経営理念に発展させ、世界中に広まった。ジャック・ウェルチは、シックスシグマにおける活動を「GEが取り組んだなかでもっとも重要な活動」と語ったという。
しかし、多くの企業はよく理解せずに導入したために、成果が上がらず経営者たちを失望させた。コンサル会社が巧みに語れば、お偉いさんは楽園のようなものを夢想する。そして、大金を投じた企業も少なくないだろう。6σというネーミングが、管理職をビビらせるところもある。「コンサルとは、混乱させる猿」と誰が言ったかは知らん。いや、自ら「混乱する猿」だっけ?
得体の知れない新プログラムを宣伝効果だけで導入すると、新興宗教と化す。そして、最大の被害を受けるのが中間管理職だ。上級管理職のオヤジたちが、あまりにも現場から乖離したシステムを導入したがるのはなぜか?そのリスクを考えないのか?あるいは、現場を知らないだけか?
改革の成否は、現場の人間にいかに哲学的に浸透させるかにかかっている。シックスシグマの本当の力は単純さだという。それはピープルパワーとプロセスパワーを組み合わせたプログラムだという。
「シックスシグマにおいて品質の向上は、目標を達成する手段に過ぎない。目標そのものではないんだよ。目標は品質向上のための品質向上ではなく、顧客満足度を上げて収益を増すことだ。仮に品質を向上させても、顧客が不満を感じたり収益が減ったりしたら、本末転倒になってしまう。」

1. 思想と理念
あらゆる製造工程において品質が求められるのは当然だ。欠損が増えれば、それだけ収益が減るのだから。不良品をなくそうとすれば、検査を厳しくするという防御的な発想に走りがちだ。人間は目の前の現象に囚われるやすい。
しかし、シックスシグマの理念には、不良品が発生する原因を根絶するという思想がある。例えば、製造ラインにおいて、不良率を高める原因が機械設備にあるとすれば、それを客観的に判断できるところまで計測して、大胆にシステムを入れ替えるという攻撃的な発想をする。コスト削減だけからは、何も生まれない。だが、何をやっていいか分からなければ、それぐらいしかできないのも事実だ。
ここでは、品質を重視するのは当然だが、それ以上に「やり直しをしない!」ことに重点を置く。優秀なプロマネは、後戻りすることが最も無駄だということを知っている。
また、よくある考えに品質向上にはコストがかかるというのがあるが、それは間違いだという。シックスシグマを導入した企業は、逆の発想をするらしい。
「導入企業は、品質がコストを節約するということを理解している。不良品、保証にかかる金、返品を減らせるんだからな。そのすべてが収益増につながる。」
シックスシグマは、財務と品質を区別するのではなく、協調関係にある画期的なプログラムだという。
こうした発想は、開発や設計の思想にも導入できるだろう。開発者は要求仕様に忠実に設計しようとする。そして、仕様通りになっているか、厳しいチェック作業を行う。だが、仕様自体が思想的におかしいとか、一貫性がないといった場合も少なくない。企業文化によっては、部署の力関係によって仕様が決定されることもある。そのために奇妙なチェック項目が増えて意欲が削がれる。複雑な仕様は検証工程を指数関数的に増加させるだろう。
ならば、最初からミスの起こりにくいエレガントな仕様を目指してはどうだろうか。奇妙なデザインは捨てることから検討したい。おいらは、上流工程にこそ設計品質の根幹があると考えている。充分に検討された仕様は日程の精度を上げる。そして、問題は早めに発覚し、最初は苦労するものの仕事をだんだん加速させる。なによりも大きな効果は、エレガントな組織文化が開発者のモチベーションを持続させることだ。

2. 分析と数値化
シックスシグマでは、あらゆる要素が測定され数値化されるという。そして、規律、ストラクチャ、統計に基づく意思決定を土台とし、投資利益率や人材利益率を最大にするという。シックスシグマの専門家は、「自分が話したいことを数値で表現できないうちは、そのことを理解しているとは言えない」とよく言うらしい。
また、シックスシグマを導入したからといって、必ずしもシックスシグマの品質が達成できるわけではないという。数値的には、ワンシグマで約30%、ツーシグマで約70%、3.8シグマで99%、きちんと仕事をしていることになる。そして、シックスシグマに近づくように努力する。ほとんどの事業は、スリーシグマからフォーシグマあたりで行われているという。1%のミスでも大きいが。測定する際には、DPMO(Defects per Million Opportunity)という指標を使うという。
 DPMO = (欠陥数/機会) x 100万 :100万機会当たりの欠陥数。
確かに、開発、設計、生産、検査、サービスなどあらゆる工程において客観的判断を下すために、数値化できればありがたい。しかし、それが最も難しいだろう。シックスシグマを機能させるためには、統計情報の収集方法と分析能力が鍵を握りそうだ。統計情報の扱いを一歩間違えば、とんでもない方向に導くことになる。

3. ピープルパワーとブラックベルト
「トップの連中が時間をかけてシックスシグマを理解し、サポートしてくれなきゃ、プロジェクト・リーダーに勝算はない」
そんなことは、シックスシグマに限ったことではない。中間管理職が特攻隊になっている組織を、時々見かける。
シックスシグマを実践する組織はトップダウンで形成されるという。まず、取締役の一人が「エグゼクティブ・チャンピオン」となって、プロジェクト全体の監督とサポートにあたる。そして、全員に熱意を伝えたり、社内の障壁を取り払い、専門プロジェクトを完全サポートする。エグゼクティブ・チャンピオンは、実際に仕事をする「ブラックベルト」を指名する。それは、最も信頼のおける人物で、シックスシグマの真のリーダである。そのサポートスタッフが「グリーンベルト」である。ブラックベルトは、管理能力と技術能力を兼ね備え、熱意や知力があって創造的でなければならないという。しかし、組織にそんな人材を一人見出すだけでも難しいだろう。組織と現場の双方を熟知した人物となれば、中間管理職ということになろうか。だが、中間管理職にそこまで権限を与えていいのか?と抵抗する上級管理者も少なくない。選出の段階から政治的な思惑が絡めば成功の見込みはない。ブラックベルトが企業の未来を担うというわけか。となれば、エグゼクティブ・チャンピオンの現場感覚と眼力にかかっていると言ってもよかろう。

4. プロセスパワー
プロセスで重要なのは、まず問題点を明確に定義すること、そして、結論を急ぎ過ぎないことだという。だが、お偉いさんの最も悪い癖は結論を急ぐことである。その気持ちも分からなくはないが...会議では、あからさまに結論だけ述べろ!と指示するオヤジがいる。最初から考える気がなさそうだ。経営会議の前日になると、現場の意見を集めて回るオヤジまでいる。基本は入念に情報を集めることであろうが、収集方法の違いだけでまったく違った結論を導いたりする。統計情報から様々な解釈ができるのは、今日の社会学者や経済学者たちが証明している。
目的からすると、顧客を不愉快にさせる原因から手をつけるのも一つの考え方であろう。だが、製品やサービスの満足度を調査するにしても、顧客の本音を引き出すことは難しい。アンケートを実施したとしても、不満のある場合、細かく指摘する人もいれば、二度と買わないから答えないという人もいる。満足していても厳しい意見はあるだろうし、不満でも人が良くて優しく振る舞う人もいるだろう。よく見かけるのは、サービス解約時にその理由をアンケートで答えろ!というものだが、真面目に答えると思っているのだろうか?
しばしば経営者は、「顧客目線になれ!」と檄を飛ばす。その通りだろう。だが、本当にその意味を分かっているのだろうか?新製品を開発するにしても、顧客自身が何を求めているか分からないことが多い。アンケートをとったところで、せいぜい現存製品に改良したものを思いつくぐらいであろう。顧客から現存しない新アイデアをもらおうなんて、虫が良すぎる。だから、プロトタイプのようなものを提供しながら、顧客の様子をうかがったりする。新製品の開発にリスクをともなうのは当然だ。にもかかわらず、マーケティング部は、「顧客が求めているのはコレだ!」と強気だ。まるで株価上昇を連呼する証券アナリストのように。彼らの市場調査を疑いたくなる。だいたいの企業において、営業と開発はあまり仲が良いものではないようだ。
経営者は、技術者はマーケティングを考えていないと批判する。そして、新製品は世間に登場させるタイミングが重要で、スピード勝負だ!と強迫する。近年、なんでもスピード重視の傾向がある。その割には、負荷を減らしてスピードを買うといったことはあまりなされない。プロジェクトで適切に処理できないほどの仕事を受けるプロマネは卑怯であろう。大胆に仕様を削ったり、やってはならないプロジェクトを止める決断が重要なのだ。尻を叩いて品質を犠牲にすれば、技術者の精神状態は危険になる。優秀な人材は他に活路を見出すだろう。そこで経営者たちに問いたい!多くのケースで二番煎じが成功するのはどういうわけか?
...愚痴おしまい!

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