2024-05-19

"世界を変えた 6 つの「気晴らし」の物語 - 新・人類進化史" Steven Johnson 著

「おもちゃとゲームはまじめなアイデアの序章である。」... チャールズ・イームズ

歴史上に名を連ねる人物は、その名の通り偉大であろう。
但し、彼らが歴史を育み、真に文明を開花させて来られたのも、無名な人々の地道な支えがあったればこそ。だから人間は、人間自身の進化に誇りを持てる。その誇りが、誇大妄想を掻き立てることもあるにせよ。歴史を冷静に見つめるためには、人間の本能に根ざした視点が必要なようである。

スティーブン・ジョンソンは、「気晴らし」という衝動的な行動を主題にしている。その着眼点は、歴史を冷静に語るにはちと違和感があるものの、逆説的でなかなか面白い。おいらは、これを「気まぐれ」と解しているけど...
歴史物語ってやつは大抵、生き残りのため、権力のため、自由のため、富のためといった闘争として描かれる。そうした志に比べれば、気晴らしなんぞおまけのおまけ。必需品と贅沢品を対置すれば、明らかに必需品が重んじられ、労働と娯楽を比べれば、明らかに労働が重んじられる。
しかしながら、気晴らしのための娯楽の方にこそ、人間味溢れた歴史物語があるのやもしれん...

文化度を測る物差しに、余暇の時間と、余暇の多様性といった尺度がある。つまらない日常から解放されるために、ささやかな心の変化を求めて改良や改善に努める。これも気晴らしの類い。人間ってやつは、退屈とやらがよほど苦手と見える。一般的な世界史と距離を置くのは、なかなかの趣向(酒肴)!
それは、歴史の裏舞台か。いや、どちらが表やら...

「この探求への発展的な衝動が、楽しみと必要の差である。人は遊びモードのときには新しい驚きに寛容だが、基本的欲求は人の心を、生存のためにどうしても必要なことに集中させる。この差を理解することは、一見したところ表面的には軽薄な遊びが、これほど多くの重要な発見やイノベーションにつながった理由を理解するのに欠かせない。」

前記事「世界をつくった 6 つの革命の物語」では、ガラス、冷却、録音、清潔な水、機械仕掛けの時計、電球の光といった日常の発明が革命的な存在であったことを示してくれた。
本書では、機械時計から初期ロボットに至るからくり人形的な趣向、ファションに始まる紡績業の発達と商業主義への流れ、自動演奏ピアノからコンピュータに至る音響技術の情緒、香辛料の生産と消費に見る世界交易マップの成り立ち、幻影や錯覚を利用した映画産業の発展と映像技術の罠、ゲームに確率論が結びついた人工知能の出現、酒場や動物園などのレジャーランドが育む発想の原動力といった側面から文明史を物語ってくれる。すべては遊び心に発し、驚きを探し求める人間の本能に導かれてきたとさ...
尚、大田直子訳版(朝日新聞出版)を手に取る。

「現在私たちは、機械がとても器用になって製造業の労働者の仕事を奪い、とても賢くなって人間の上司になるような、暗い未来について心配している。しかし歴史を知ると、私たちはまちがった不安に気を取られているのかもしれない。機械がみずから考え始めるときに起こることについて心配するのは、まちがっているのかもしれない。ほんとうに心配すべきなのは、機械が遊び始めたときに起こることなのだ。」

0 コメント:

コメントを投稿