2024-05-05

"音楽は絶望に寄り添う - ショスタコーヴィチはなぜ人の心を救うのか" Stephen Johnson 著

「音楽なしでは人生を誤る。」... フリードリヒ・ニーチェ

ショスタコーヴィチには救われる。BGM に彼の楽曲を流すだけで孤独が癒やされ、絶望を少しばかり希望に変えてくれる。抑圧した国家体制の下で曲を書き続けたのは、彼自身を救おうとしたのであろうか...
しかし、希望は危険だ。儚い希望は絶望をより確固たるものにする。だとしても、歴史の重々しさを奏でる悲しい物語は、心の痛みを和らげてくれる。ナチス包囲網にあってはレニングラード交響曲で市民を勇気づけ、ソ連共産体制に対しては交響曲第五番で反骨精神を露わに。生きてゆくために意味を与える音楽をもって、スターリンの神格化なんぞクソ喰らえ!

「音楽は、暗いドラマと純粋な歓喜、苦悩と恍惚、燃える怒りと冷たい怒り、哀愁とはじける陽気、そして、最も微妙なニュアンスと、言葉や絵画や彫刻では表現できない感情の相互作用をあらわすことができる。」
... ドミートリイ・ショスタコーヴィチ

弦楽四重奏曲第八番は、彼自身のレクイエムであったのか...
ファシズム批判を掲げながら自己肯定感を強調し、自らのイニシャルを刻み込む。DSCH 形式がそれだ。
共産党に入党したのは、カモフラージュであったのか...
反体制派が生きてゆくには自虐的な手段も厭わず、スターリン思想を引用しては、まったく説得力のない手段で持ち上げもする。皮肉交じりで、矛盾だらけ。しかし、自由を信条とする芸術家が粛清の時代を生きてゆくには、矛盾をも味方につけなければ...

「ショスタコーヴィチの交響曲第四番は、ほぼその全体を通して、ひたひたと迫る破滅を回避するために、時として必死に努力している様子が彷彿させられる。そして、最後まであと 10 分位のところで、彼がとうとう降伏するのだ。」

原題 "How Shostakovich changed my mind"
著者スティーブン・ジョンソンは、双極性障害(そううつ病)で苦しんだ音楽プロデューサーだそうな。彼は、自ら精神を破綻させることも厭わない音楽家魂に共鳴して、この本を書いたのであろうか。そもそも自由世界なんてものが幻想なのやもしれん。そして、人間が生きてゆくには幻想も必要なのであろう...
尚、吉成真由美訳版(河出書房新社)を手に取る。

「もし音楽が私をこのような気持ちにさせるのなら、私はどうして役立たずで、卑劣で、取るに足らない、耳を傾けるに値しない存在などであろうか...」

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