どんな数学的証明よりも、どんな科学的論証よりも、説得力のある実験がある。まさに、見たまんま!それは、振り子の振動面がゆっくりと回転していく正弦則にあったとさ...
尚、水谷淳訳版(早川書房)を手に取る。
いまや地球が自転しているなんて常識中の常識。
だが、これを証明するとなると、コペルニクス、ケプラー、デカルト、ガリレオ、ニュートンらを悩ませてきた。自己中心説から人間中心説、そして地球中心説を覆そうものなら、まさに命がけ。誰もが納得する証拠を叩きつけられなければ、宗教裁判の餌食よ。
レオン・フーコーとて、当初、権威ある学者連に馬鹿にされたという。アマチュア科学家が、居丈高な専門家どもに理論の後づけを強いる物語は、まさに痛快!
科学界のアウトローは、ひたすら興味本位で実験を繰り返す。その後ろ盾となったのは、ルイ・ナポレオン。伯父ナポレオンの失脚後、亡命と獄中生活を送るも、革命によって返り咲く。皇帝ナポレオン三世となった彼は、自分の不遇な人生をフーコーに重ねたのか、排他的なパリ科学界に一石を投じる。
しかし、皇帝の失脚とともに、フーコーの運命も.... 振り子が触れるがごとく。
振り子が揺れるのはいい。それは重力がある証拠。そりゃ、リンゴだって落ちるさ。
では、その振動面がゆっくりと回転する現象をどう説明するか。縦だけでなく、横にも G が働いている。横に G が働くとはどういうことか。振り子は天球の日周運動の方向に移動する。球面上において、移動方向に垂直に作用する奇妙な力の正体とは...
地球が自転しているという前提知識の上では、三角関数を用いた数学的な説明もできれば、円錐形を用いた幾何学的な説明もできるし、コリオリの力による物理学的な説明だってできる。証明の王道といえば演繹法だが、人間のほとんどの知識は経験の積み重ねで、帰納法とすこぶる相性がいい。科学的知識ってやつは、時間とともに後出しジャンケンのような状況にある。それで現代人が賢いとは、笑止!
自転する物体が織りなす空間は、独立した一つの小宇宙をつくる。それは、外部からの視点と内部からの視点という二つの観測課程の距離感として現れ、相対性の概念を呼び起こす。物理学において重要な思考法の一つに、様々な現象に座標系を仮定するというやり方がある。ある座標系から観察した物理運動は、別の座標系から観測したものとは違って見え、こうした視点が相対性理論と結びついた。
人間の発明では、ジャイロスコープに一つの小宇宙を見る。スピンを持つ素粒子にも、そこに一つの小宇宙があるのやもしれん。
フーコーの振り子は世界各地の博物館や教育機関などに設置され、観光の名所ともなっている。高い天上から吊り下げられ、永遠に揺れ動く様子を眺めていると、なんとなく崇高な気分になれる。小宇宙の中でぽつりと埋没する自我を感じながら...
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