2007-07-15

"石の扉" 加治将一 著

立ち読みをしていると、なんとなく懐かしいキーワードにぶつかった。フリーメーソンである。フリーメーソン、ユダヤ、世界大金融といえば、陰謀めいたものを感じて一昔前に興味を持ったことがある。
本書は陰謀説とは少し離れて柔らかい感じがする。フリーメーソン紹介書といったところだろう。冒頭から事実に基づくとある。信憑性があるかどうかは意見が分かれそうだが、読み物としてはなかなかおもしろい。記事にするからには買ってしまうのだ。

フリーメーソンは、世界最古にして最大の秘密結社である。
思想は、自由、救済、真理、平等、友愛。思想信条を一つにすることもなく強制もない。宇宙には人間の及ばないなにか至高なるものがあって、それを神と呼び、その存在を信じている。どこの宗教の信者も問わない。守るべき戒律はない。
アル中ハイマーは、なんとなく高度な理性と秩序に支配された世界であるという印象を持っている。宗教の香りもするが、宗教は愛も育てるが憎しみも育てるので簡単には説明がつかない。
なぜ、秘密組織が何百年も続いているのか?なぜフリーメーソンが世界を動かしていると噂されるのか?世界に400万人のメンバーを有し共通の掟を持っている。そんな大人数で何をやっているのか?
世界征服、ユダヤの陰謀、カルト教団、更には宇宙人の侵略などいろいろと噂される中で、本書はこれらの陰謀めいた話を否定する。フリーメーソンというだけで暗号やサインで互いに分かち合えれば、世界各国で要人を紹介してもらったり、VIP待遇もあるというから興味を持たざるをえない。さっそく、酔っ払い気分で勝手に章立ててまとめてみることにしよう。なぜかって、そこに泡立ちの良いビールがあるから。

1. その語源
フリーは自由。メーソンは石工。欧州の街並みは、城、教会、家などの建物から、道路、橋、水道というインフラまで石造りで埋め尽くされる。石こそ国家の要であり、石工は重要な位置付けにあった。城などは国家の最新鋭防衛システムであり、石工のマスター(親方)は国防の重要人物である。石工のマスターを束ねるグランドマスターは国防長官といったところだろう。あの荘厳なゴシック建築を見れば圧倒される。石工も馬鹿にはできないのである。言い伝えによると、初代グランドマスターは世界一栄華を極めていたイスラエルの王、ソロモン王だったらしい。ただし、史実上の裏づけがなくメーソンの経典に書いてるだけである。こうした話から、ユダヤ教を崇拝し、ユダヤ陰謀説などとこじつけられる材料とされるのだろう。いずれにせよ、ユダヤ教、キリスト教の影響を受けているのは確かなようだ。また、フリーは自由と訳すよりは、免除と訳すべきらしい。税金の免除など、数々の特権が与えられたという意味で捉えるべきのようだ。よって、フリーメーソンとは、上級資格をもった石工という意味である。

2. その原形
国家事業として建設を行う場合、石工職人を募る必要がある。この時、資格制度があれば職人の区分けが容易い。これがフリーメーソンの原形であるという。職人の区別は階級で管理される。この資格を売買する輩もいたので極刑で管理されていたようだ。この管理体制、階級体制がピラミッド型になっている。こうしたことから、ピラミッドはフリーメーソンが建設したと主張する人もいるようだが決定的証拠はない。本書もピラミッド建設にフリーメーソンが関わっているという仮説を支持している。そもそもフリーメーソンの性格からして証拠が残されている方がおかしいという。
しかし、統制が確立している組織とは、だいたいがピラミッド型の管理体制になっていると思うのはアル中ハイマーだけだろうか?
ピラミッドは王の墓ではなく公共事業であったという考えはほぼ定着している。では何のために?本書は、何かの儀式を行うための館だったのではないかという仮説をたてている。フリーメーソンのロッジは世界中に散らばっているが、エジプトゆかりの名前を冠したものが多く見られるらしい。なんとなく古代エジプトとの関わりはありそうだ。

3. 十字軍との関わり
素人目に見ても、宗教との関わりがありそうなことは薄々感じる。イスラム教もキリスト教も古代エジプトのイシス信仰を受け継いでいるので関わりがあるだろう。本書でも、イスラム教対キリスト教の構図として十字軍を取り上げている。騎士団は12世紀以降のヨーロッパで発生した強固な結社であり、背景はいずれも反イスラムである。三大騎士団と言えば、テンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団、ドイツ騎士団。テンプル騎士団は、なぜ秘密結社という形態にこだわったのか?彼らの儀式や集会の秘密性。これは独特な世界観を植え付ける心理的作用があるという。武士でも似た面があるが、騎士としての気品の高さだろうか。人間は、あらゆる面で他人より高貴であると思いたいのだろう。ブランド志向や、社会的地位を求めるなどはその典型である。高貴と言われる世界には必ず儀式が存在する。天皇家に見られる儀式も、日常からは遮断されているがゆえに気品が保たれていると言っていいかもしれない。気品とは一般人との差別意識ということか?差別化の度合いは一般社会との乖離度に比例すると述べている。例えば、ゲリラや犯罪組織など、儀式が反道徳的であればあるほど仲間の結束も固い。ロッジを創ることは、餓鬼の頃、仲間で秘密の隠れ家などを作って遊んだ感覚と似ている。本書は、フリーメーソンとテンプル騎士団の共通性について語り、深い関わりを持っていたのではないかという仮説を立てている。十字軍は、ユダヤ人勢力も目障りであった。イスラム教だけでなく、その矛先は旧約聖書を掲げるユダヤ教にも向けられた。ゆえに、ユダヤ人は秘密裏に集会を行い、フリーメーソンという隠蓑を使って差別主義をかわしたという仮説も立てている。

4. 明治維新との関わり
本書は、坂本竜馬の雄大にしてトリッキーな行動はいったいどこから生まれたのか?と疑問を投げる。幕末から明治にかけて活躍した西郷隆盛、高杉晋作、伊藤博文、桂小五郎、五代友厚、岩崎弥太郎らを追っていくと同一人物に辿り着くというのである。ちなみに勝海舟ではない。竜馬が日本初の商社を長崎に設立したことにしても小曾根英四郎の援助があったからで竜馬の人間性をかったとものの本では片付けられるが本書はそうはいかない。竜馬が長崎に滞在した期間から会社設立までの期間が異常に短いこと、竜馬の知名度からして行動のスケールが大きすぎることから、黒幕の存在を指摘する。長崎といえばグラバー邸。明治維新最大の黒幕はトーマス・グラバー。グラバーの封建社会打倒という理念から利害関係が一致したので竜馬を利用したと語られる。著者は、グラバーの生地はスコットランドで、彼はフリーメーソンであると確信していると熱く語る。このあたりは、一生懸命証拠立てして解明しようとしている苦労が伝わるので推理小説のように読める。ちなみに、黒船で来航したペリーもフリーメーソン。終戦のミズーリ艦で調印した時、ペリーが掲げた星条旗を持ち込んだのも、マッカーサーがフリーメーソンだからであると述べている。日本の首相にも。。。あらゆるところにフリーメーソンはいる。プロスポーツ界にも多い。

5. 1ドル札
1ドル札にピラミッドが描かれている。他国の文化遺産がなぜ米国の紙幣に使われるのか?これぞフリーメーソンの象徴なのだという。これは「全能の目」という章で語られているが、その解釈はおもしろい。1ドル札にラテン語でつづられた以下の文章。
「NOVUS ORDO SECLORUM」 新しい世紀の秩序!
「ANNUIT COEPTIS」 我々の計画に同意せよ!
という意味らしい。この2つの文章がピラミッドを囲んで円を描くように配列されている。そこにダビテの星を描くと、ちょうど星の5つの頂点にM,A,S,O,N (メーソン)が重なる。へー!
本書は、アメリカ合衆国、EUも総じてメーソン国家で、フィリピン、ブラジル、アルゼンチンもそうだと言っている。スウェーデンに至っては王室とメーソンがダブっているとまで言っている。歴代の米国大統領にフリーメーソンが多い。ナポレオンもフリーメーソンだったのではないかという歴史家がいる。

本書は全般的にフリーメーソンの行儀の良いところを取り上げている。しかし、これだけの人数がいる以上は、行儀の悪い面もあるはずである。その一つを紹介してくれる。P2事件(プロパガンダ2)。これはイタリア映画「法王の銀行家」で公開されているらしい。複雑に絡み合った陰謀を銀行家を通して描いているのだそうだ。おいらは観ていない。
集団には、その理念がどんなにすばらしくても一部で傲慢な連中が育つ。エリートと称して思い上がって世界金融を支配しようと思っても不思議ではない。時々、フリーメーソンと世界金融の支配を重ねて論じるものを見かける。本書でも、秘密主義で自分達をエリートと思い上がり傲慢になる危険性を述べているが、世界征服など物理的に不可能だと言っている。確かにそうかもしれない。ただ、物理的に不可能だからといって抑止力にはならない。思い上がれば可能性を肯定するだろう。これはフリーメーソンだからというのではなく、秘密主義を共有しエリート集団であると自己認識したときに傲慢さが生まれる。これは人間の真理だろう。こうしたタイプの人間は、特に政治家や官僚など地位のある所に多いように思える。俺が世話してるんだ!俺が金出してるんだ!人間とはそのように変貌するものだ。
特にアル中ハイマーは秘密の会合で有頂天になりやすい。フリーメーソンの理念を見習うべきである。さっそく秘密の場所に行って酒を酌み交わし情報交換をするとしよう。
ただ、その場所をロッジとは言わない。クラブと言っている。
ちょうど案内状が届いている。そこには暗号文で「浴衣祭り」と書いてある。

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