2016-01-10

自動化の罠

人には、分かりやすく、便利なものに群がる性癖がある。新たな知識に出会っては、皮相的に掻い摘み、一人の人物に出会っては、あの人はこういう人だ!と一言で片付ける。そして、いつの時代もハウツー本は盛況ときた。物事を理解するために手っ取り早く抽象化を試みるものの、この抽象化は普遍性には程遠い。人々は、忙しい!と言葉を交す。まるで合言葉のように。「多忙とは、威厳をまとった怠惰に他ならない。」とは、誰の言葉であったか。人はみな、面倒臭がり屋というわけか...
分かりやすい言葉で操る方法論はソフィストの時代から旺盛で、古来、弁論術と呼ばれ、今ではちょいと洒落て、プレゼンテーションなどと呼ばれる。露出狂の政治屋どもは、演説で大衆を酔わせようとしては自己陶酔に浸る。雄弁術ってやつが、自我を肥大化させるのか。それとも、論理の力で相手を打ち負かす詭弁術ってやつが、そうさせるのか。いずれにせよ、大衆を説得する力が民主主義の基調であることは確かである。
やがて、説得する力は人々の使う道具にまで及び、文明ってやつが使い方の分かりやすい道具を追い求めてきた。そして、ことごとく面倒な行為を代替してくれる存在が増殖し、自動化の信仰が始まった。
単純化よ... 凡人がお前に焦がれるのは、面倒臭いからか。天才がお前を徹底的に追求するのは、普遍性に焦がれるからか。なにもかも面倒に感じれば、やがて生きることも面倒になるだろう。人間が人間らしく生きるためには、適度な不便性が必要なのかもしれん...
ソクラテス曰く、「満足は自然の与える富である。贅沢は人間の与える貧困である。」

1. 全自動に翻弄されるオヤジ
トイレは便利...
前に立つだけで、ようこそいらっしゃいませ!ってな具合に便蓋が開き、便座から立つと勝手に流してくれて、おまけに、お尻まで洗ってくれる。オフィスのペーパーレス化が進めば、トイレもペーパーレスになるのか。おかげで、よそで用を足そうとすると、流し忘れるという大罪を犯してしまう。
停電時は大騒ぎ!バケツに水を汲んで流すしか術がない。
健康診断で大便検査の時も悩ましい。せっかく出たものを勝手に流しやがる。
定期的に洗浄までやってくれれば、夜な夜な奇妙な機械音がして、年寄りが騒ぎおる。勘弁してくれ!

風呂も便利...
ボタン一つで沸かしてくれるし、タイマ設定しておけば、毎日同じ時間に沸いている。しかも、温度設定で、いつも快適。だが、栓をし忘れると、たちまちアラームが鳴って、やかましい!年寄りは、ちょっとした不具合に遭遇するとパニックに陥り、警告音が鳴る度にサービスセンターに電話しようとする!システムをリセットする、などという発想があるはずもない。ただ、頭はイニシャライズされるようだ。お湯が足らなかったり、ぬるいと思えば、蛇口をひねればいいだけなのに、もうすっかり昔のやり方までも忘れている。たかがお湯を沸かす機械で、何をそんなに悩まなければならないのか?

エアコンも便利...
自動洗浄機能のおかげで、電源を切ろうにも運転ランプが点滅し、切れない!と年寄りが騒ぎおる。季節の変わり目に霜除自動運転が機能し、運転ランプが数時間続き、これまた壊れたと騒ぐ。勘弁してくれ!

蛇口も便利...
自動水栓ってやつは、蛇口に触れず、手を出すと勝手に水が出る。おかげでガキのオモチャとなり、水道代も馬鹿にならない。

はたまた...
キッチンに行けば、あらゆるものが電子音で共鳴しあっている。ご飯が炊けたら、ぴぃ~ぴぃ~。魚が焼けたら、ぴぃ~ぴぃ~。冷蔵庫を開けっ放しにすれば、ぴぃ~ぴぃ~。やっかましい!
尚、焜炉は、IHクッキングヒーターなどと呼ばれ、ネーミングがちょいと洒落ただけで、年寄りにとっては、もう異次元空間。たかが調理器なのに、難しい顔をして悩んでやがる。

ところで、生物界には、厳しい自然環境から育まれてきた危険回避能力というものがある。安全で、便利で、自動化の蔓延した社会が、人間の応用力を奪い、危険察知能力までも奪うのか...

2. 憧れのロボット社会
労働社会には、人は余っても、必要な人材は不足しているという奇妙な現象がある。そりゃ、富も集中し、格差も生じるだろう。社会は人材の活用法が分からないでいる。大学院卒の優秀な人材が、居酒屋でアルバイトしながら食いつなぐ一方で、就職先がないから大学院に逃げ、学歴だけが量産される。
スペシャリストでは物足りない。ゼネラリストでも物足りない。便利な社会が、ますます高度な人材を要求してくる。もはや安定した職能なんてものは幻想であろうか。この矛盾に対抗するには、自己啓発とスキルアップしかなさそうだ。人間社会は、人の歩みを止めさせようとはしない。常に自己破壊と自己創造を繰り返すよう仕掛けてくる。
機械化が進めば労働手法も変わり、技術進歩が仕事の質を変える。そして、ロボットにとって変わる日も近い。文句一つ言わなければ、労働争議も生じない。理想的な寡黙の労働環境!熟練工などという用語は死語になるのだろうか?
考えるだけでロボットが仕事をしてくれるし、そのうちロボットが考えてくれるだろう。そして、ロボットが支配する奴隷社会となるのだろうか。なぁーに、心配はいらない。支配者がロボットになれば、人間はすべて平等となる。おまけに、人間の労働者が不要となれば、まるでパラダイス!これが、人間の目指す理想社会ってやつか。そして、毎日、朝から酒に溺れるアル中人生。それなら、もう実践してるよ...
やがて人間は、才能溢れるロボットに憧れるだろう。異性ロボットとの不倫問題も法整備する必要がありそうだ。マイクロチップを脳に埋め込み、理想的な身体をプログラムする。自分自身をアップグレードするのも簡単だ。知性も理性もアップグレード。しかも、自動アップデートで常に最高状態が保てるという寸法よ。
しかし、このリスクは大きすぎる。なにしろ巷では、システムを一斉にダウンさせちまうのだから。それは、すでにMS教(= SM狂)によって実証済みだ...

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