2016-05-22

"ロマの血脈(上/下)" James Rollins 著

ようやくシグマフォースシリーズ第四作に突入。だが、このシリーズは十作を超え、もうついていけない。シリーズ物ってやつは、映画にせよ、小説にせよ、三、四作目あたりで精彩を欠いたり、飽きが来たりで、読者のモチベーションが減衰していく。しかし、ロリンズ小説は違う。毎度ながら、歴史と科学を融合させる手腕にイチコロよ!おまけに、静と動、分析と行動、知識とアクションを絶妙に織り交ぜ、歴史の可能性ってやつをプンプン匂わせてやがる。
ただ奇妙なことに、動の領域に文章のオアシスを感じる。静の領域はあまりに知識が溢れ、何度も読み返し、疲れ果てる。無限の知識の中に放り込まれると、アクションの方に安らぎを覚え、静脈と動脈が逆流するかのような感覚に見舞われるのだ。かなりの気合と体力を要するのも、ロリンズ小説の魅力!さて、次の挑戦は何年先になることやら...

本書は、およそ結びつきそうにない二つの血統を題材にしている。それは、古代ギリシアの聖地デルポイの巫女ピュティアと、不思議な占い能力を持つロマ種族である。これらを軸に、歴史的には、ロマの起源、インドのカースト制度、ハラッパー遺跡を絡め、科学的には、人間の予知能力と脳の可塑性、自閉症の中で稀に現れるサヴァン症候群、さらに特殊能力に関する米露の極秘プロジェクトを絡める。
また、地球上で最も汚染された地域の一つに数えられるチェリャビンスク地方や、チェルノブイリ原発事故に関して旧ソ連政府が隠蔽してきた衝撃的な事実は、福島第一原発事故を目の当たりにした我が国としても見逃せない。
ところで、ナノテクノロジーとは驚異的な技術だ。子供たちが持つ特殊能力を増幅させ、大人どもがそれを操ろうというのだから。生まれたばかりの赤ちゃんにマイクロチップを埋め込む外科手術が、法律で定められる時代も近いかもしれない。もし特殊能力を自由自在に制御できるとしたら、そこに野望の持ち主が群がるは必定。歴史を振り返れば、あらゆる独裁者は独善的な平和のために社会を破壊してきた。現存する社会秩序を一度チャラにし、新たな秩序とモラルを再構築しようと目論んできたのである。目的のためには手段を選ばず!の改バージョン、平和のためにはあらゆる犠牲を惜しまず!こうした論理は、愛国心や民族優越主義がいびつな形で肥大化した時に生じる。どんな残虐行為も、劣等人種、あるいは人間以下と見做さない限り、やれるものではない。世界征服の野望に憑かれた輩が、独善的な民族不要説を唱えるならば、まさに自らの種族を抹殺することになろう...

ジェームズ・ロリンズは、この物語が生まれたきっかけに、テンプル・グランディンの言葉を挙げている。
「もし何らかの力で自閉症がはるか昔に地球上から姿を消していたとしたら、人間は今でも洞窟に住み、火のまわりに座って過ごしていることでしょう。」
オリバー・サックスの著作「火星の人類学者」でも紹介されるアスペルガー型自閉症の女性動物学者で、TED.com から彼女のプレゼンテーションを拝見した。本書の自閉症に関する記述は、個人的に共感を覚える。というのも、おいらにはごく身近に重度の知的障害者がいる。この手の症状は自閉症を誘発することが多く、意思伝達能力と社会適応能力の低さから、自己の殻に籠もることが身を守る手段となる。その結果、言語能力や発話能力の遅れや阻害、動作の繰り返しやチック、一つの行動に対する執念などが見られる。だからといって無理やり取り合おうとすると、今度は人格を否定することになり、機能不全に陥ってパニックを起こす。
尚、自閉症の原因については、未だ解明されていないという。自閉症ゲノムプロジェクトと米国立衛生研究所の共同研究によると、ある複数の遺伝子と環境的な要因により発祥するというところまでは分かってきたらしいが...
もっとも本物語に登場するのはサヴァン症候群であり、その中でも世界で数十人しかいないと言われる天才的サヴァンである。超人的な能力を発揮するほど、精神的ストレスとなって自ら寿命を削るとすれば、それは幸せであろうか?狂気を自覚できる能力を持っていれば尚更だ。一方で、世俗的欲望は自覚意識を麻痺させてくれる。人間社会が狂気しても、みんなで自覚できないとすれば、それは幸せであろう...

1. あらすじ
グレイ・ピアース隊長の眼前でホームレス風の男が射殺された。男の名は、MIT の神経学者アーチボルド・ポーク。みすぼらしい姿は、致死量の放射線を浴びていたからである。彼はデルポイの神殿が描かれた硬貨を手に握っていた。放射線の反応する方向を測定器で追っていくと、ポークの娘エリザベスと出会う。狙撃者は特殊能力を持つ少女を連れていたが、目を離した隙に行方不明となる。なんの運命か、その少女をロマの男ルカがグレイの所へ連れてきた。彼女はタージ・マハルの絵を描く。グレイはエリザベスとルカと共に、ポークの足取りを追ってインドへ向かった。
一方、ウラル山脈では、一人の記憶喪失の男が不思議な能力を持つ三人の子供から、僕たちを救い出して!との依頼を受ける。その頃、ニコライ・ソロコフ上院議員とサヴィーナ・マートフ少将は、チェルノブイリ原発を利用したロシア再興計画を進行中。計画に加担させられていたのは、不思議な能力を持つオメガクラスの子供たちで、その能力を増幅させる人体実験には、シグマの存在を疎ましく思うアメリカのグループも関与していた。
グレイたちはポークの同僚ハイデン・マスターソンから情報を得て、パンジャブ地方でギリシアの神殿の遺跡を発見。そして、デルポイの巫女から現代へ繋がる血統の謎を解明するが、ロシア兵に捕らえられてしまう。
三人の子供と行動を共にする記憶喪失の男も、カラチャイ湖の放射線に怯えながら追っ手の巨大猛獣と戦っていた。廃炉となったチェルノブイリ原発四号炉を「新しい石棺」で密閉する式典が進むにつれ、ニコライとサヴィーナによる二つ作戦... 各国首脳を抹殺する「ウラヌス作戦」と、地球の生態系を壊滅させる「サターン作戦」... の開始が迫る。この二つは、第二次大戦でソ連軍が用いた作戦名で、セットで成功させることにより勝利を確定づけたことで知られる。
デルポイの巫女の預言が意味するものとは... 世界は燃えてしまう!人類の運命は、グレイたちでも記憶喪失の男でもなく、意外にも一人の少年の手に委ねられていた...

2. デルポイの神託と巫女ピュティア
デルポイの神託はギリシア神話のオイディプス伝説で描かれ、人々の運命を左右してきた。神殿の入口には、三つの格言「汝自身を知れ」「過剰の中の無」「誓約と破滅は紙一重」が刻まれていたされる。
巫女は霧に包まれながらトランス状態に陥り、依頼者が訊ねる未来について答えた。彼女の神託は古代世界において絶大な影響力を持ち、王や征服者ですら服従し、何千人もの奴隷が解放され、西洋民主主義の種がまかれたとされる。二千年近くに渡って厳重な警護の下に置かれた女性たちは、パルナッソスの山腹にあるアポロン神殿の内部で生活し、預言者として選ばれた一人に「ピュティア」の名が与えられ、その地位は代々受け継がれてきたという。ピュティアの信奉者には、プラトン、ソフォクレス、アリストテレス、プルタルコス、オウィディウスなど錚々たる人物が名を連ね、初期のキリスト教徒たちでさえも彼女を崇拝したという。ミケランジェロは、システィーナ礼拝堂天井画に、キリストの再臨を預言するピュティアの姿を大きく描いている。
また、2001年に、新たな事実が明らかになったそうな。考古学者と地質学者のチームが、パルナッソス山の直下に奇妙な配列のテクトニック・プレートを発見したという。プレートの隙間から炭化水素ガスが放出され、ガスに含まれるエタンには高揚感と幻覚をもたらす作用があるとか。ピュティアが霧に包まれてトランス状態に陥ったのは、このガスを吸引したためであろうか?
しかしながら、キリスト教の台頭でデルポイの神託は衰退し、テオドシウス皇帝はキリスト教をローマ帝国の国教に定めた。
さて、本物語は、398年、ローマ軍がデルポイの神殿を滅亡させる場面から始まる。洞窟の至聖所には神聖なオムパロスがある。それは、「世界のへそ」と呼ばれるもの。そこに、神がかった能力を持つ少女が連れられてきた。百人隊長は少女の引き渡しを要求するが、最後のピュティアとなる巫女は少女をかばって殺される。百人隊長は洞窟内をくまなく探したが、少女の姿はどこにもなかったとさ...

3. ショヴィハニと直観力
死の天使ことヨーゼフ・メンゲレが、双子の子供に特別な関心を寄せていたという話は有名である。アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所で人体実験をやった奴だ。本物語でも、双子の子供に焦点をあて、薄気味悪さを醸し出す。そして、古いジプシーの言葉で「ショヴィハニ」と呼ばれる天賦の才を持つ双子の兄弟が鍵を握る。世界征服を目論む野心家にとって、遠隔透視や予知能力は極めて利用価値が高く、人の心を読む「エンパシー」と呼ばれる能力は利用価値が低いように映るらしい。だが、心を読む能力を極限にまで高めれば、人の心を盗むことだってできる。
ところで、直観の正体とは何であろう?先天的能力とも、後天的能力とも言われるが、おそらくその両方であろう。難題を前にすれば、突然閃いたように理解できる瞬間があったり、解決策が突然夢の中で浮かんだりする。インドを舞台にしているのは、どうやらヨガの行者が持つ驚くべき能力について、生理学的な根拠があるらしい。
例えば、手足や皮膚の血流を調節することで何日も極寒に耐えることができたり、基礎代謝率を下げることで何ヶ月も断食を続けられたり、皮膚の血流を制御することによって人間の意思までも制御できるというもの。心頭を滅却すれば火もまた涼し!とも言うが、もっと科学的なレベルにおいてである。
本来、直観とは、身に迫る危機に対して高められる能力のような気がする。天才的サヴァンの人たちは、知的障害を抱えながらも限られた分野で驚異的な才能を持つ。ずば抜けた計算能力や記憶力、機械操作力、空間認識力、臭覚・味覚・聴覚の識別能力、音楽や絵画の才能など。彼らもまた、何かから自分の身を守ろうとして能力を研ぎ澄ますかのように...
さて、人間は未来を見ることが可能であろうか?本書は、超心理学の研究者ディーン・ラディンが行った実験を紹介してくれる。画面上に様々な写真を映し出す。目を背けたくなるような写真と、心和むような写真を、無作為に混ぜて。数分後には、被験者は目を背けたくなる写真が映し出される前に、たじろぐようになったという。約三秒前に予測できるようになったというわけだ。実験は、賭け事をする人にも行われたという。トランプで良いカードが出る時にはプラスの反応を示し、悪いカードが出る時にはマイナスの反応を示す。すると、その反応がカードをめくる数秒前に現れたという。
原因は分からないが、権威ある学者によると、ごく普通の人でも短時間であれば未来を見ることができるらしい。麻雀では、一発ツモやドラがのるといった匂いを感じることがあるが、これも予知能力であろうか。もっともおいらは、牌の流れ!を読もうとする...

4. 脳の可塑性とヘッブの法則
人間の脳は、三百億個の神経細胞からできていると言われる。各神経細胞は複数のシナプスで結合され、大規模な神経回路が形成される。その数は、十の百万乗の単位。
ちなみに、全宇宙に存在する原子の総数は、十の八十乗ぐらいと言われている。
脳への情報伝達は、電気信号によってもたらされる。ものを見る時は目で見ているのではなく、脳で認識して見ている。耳が聞こえなくなった人が、人工内耳によって聴力を取り戻すことができるのも同じ理屈である。新しい言語能力を獲得する場合でも、言語特有の周波数から言葉を認識できる神経回路が形成される。
したがって、脳の内部に電極を挿入すれば、なんらかの意思制御ができるというのはもっともらしい。電気信号の入力によっては、五感以上の知覚能力を覚醒させる可能性だってある。脳が電気信号の集まりで、しかも新たな信号に対する適応能力を持っているために、外部から電気回路を接続することによって、新たな認識能力を持つこともありうる。人間は生まれつきサイボーグ!というわけだ。
2006年のブラウン大学の実験によると、体が麻痺した患者の脳に微小電極を接続したマイクロチップを埋め込み、その患者は四日間の練習を積んだ後、体を一切動かすことなく頭で考えるだけで、ディスプレイ上のカーソルを動かしたり、電子メールを開いたり、テレビのチャンネルを切り替えたり、ロボットアームを動かしたりできるようになったという。ハーバード大学がラットに行った実験によると、TMSジェネレータ(経頭蓋磁気刺激装置)は、神経細胞の成長を促進することが解明されたという。発育途上の子供の方が、その影響を受けやすい。だが奇妙なことに、学習と記憶に関する領域だけ成長したそうな。
また、神経学には「ヘッブの法則」というものがある。「発火する神経細胞同士は結びつきを強める」というもので、脳のある部分を刺激し続けると、その部分がどんどん強化されていく。外部からの磁気的な刺激によって、神経細胞のスイッチを入れたり切ったりできるとすれば、その能力を操ろうと考える輩が必ず現れる。まさか!メンゲレはこんな実験をやっていたのか?
「我々の行っている実験の内容が、外部の人間に漏れてはならない。そんなことになれば、ナチを断罪したニュルンベルク裁判ですら、交通違反を扱ったのではないかと思われるような事態が起こる。」
尚、誘発された記憶喪失については、主にプロプラノロールを使用して、選択された記憶を薬により消去する技術が実用化されているそうな...

5. スターゲイト計画と科学者の倫理
スターゲイト計画とは、冷戦時代のプロジェクトで、軍事作戦に遠隔透視能力を応用するというやつだ。公式には、アメリカの第二のシンクタンクであるスタンフォード研究所が管轄していた。後に、ステルス技術の開発に関与する機関である。
1973年、スタンフォード研究所は、CIAから委嘱を受けたという。精神力だけで、はるか離れた地点にある物体や活動を監視し、情報を収集することが目的である。非現実的といえばそうかもしれない。だが、どんなにバカバカしい研究でも、敵国が成果を出している可能性があれば、遅れをとるわけにはいかない。CIAの報告書によると、1971年ソ連の計画は突如として最高レベルの機密扱いになったという。実際は、それほど成功例はなかったらしい。だから、1995年に幕引きしたことになっている。それでも、遠隔透視の実験では、15% の有用な結果が得られたという。確率的な値をはるかに上回る数値だ。
例えば、ニューヨーク在住のアーティスト・インゴ・スワンという人は、緯度と経度の座標を与えるだけで、その場所にある建物の形状を詳細に説明することができたという。そのヒット率は 85% 近いとか。顕著な成功例で最も有名なのが、誘拐されたジェームズ・ドジャー准将の救出に関する事例がある。ある遠隔透視者が、准将の監禁された町を言い当てたという。また別の透視者は、監禁されている建物の様子を詳細に描写し、鎖でつながれているベッドの位置まで特定したとか。
さて、本物語では、スターゲイト計画は密かに継続され、しかも、ベルリンの崩壊とともに資金ぶりに行き詰まったロシアが、アメリカの組織「ジェイソンズ」に資金援助を求めたという展開を見せる。ジェイソンズとは、冷戦時代に創設された科学部門のシンクタンクで、著名な科学者たちで構成される実在する組織。
科学者は、政治や軍部の干渉を嫌う傾向がある。それはどこの国でも同じであろう。国家の枠組みを超えた地球レベルの倫理観を唱えるケースもある。人類として踏み入れてはならない境界を侵そうものなら、いくら敵国同士でも互いに協力を求める可能性だってある。本物語は、その科学者たちの良心の呵責とやらに期待するのだが...

6. ロマとカースト
ヨーロッパに移住したジプシーは、当初エジプト出身と言われ、「エイジプトイ」や「ジプシャンズ」と呼ばれ、それが語源とされる。だが、近年の言語学研究によると、ロマ語は古代インドのサンスクリット語が起源だと判明したそうな。ロマはインドの北西部パンジャブ地方を起源とする種族で、すべてのジプシーを含んでいるわけではなさそうだ。ヨーロッパで長い間苦難の時代を強いられてきたが、なぜ移住してきたかは不明だという。
ロマの祖先がインドを脱出したのは、10世紀頃。ちょうど厳格なカースト制度が導入される時代と重なり、歴史学者の間にはカースト間の摩擦が原因ではないかとする説もある。カースト制度の枠組みから外れた最下層の人々は不可触賤民とされ、その中に、泥棒、音楽家、不名誉除隊の軍人のほか、魔術師も含まれていたという。
では、カーストといった差別意識はどこから来ているのか?ヒンドゥー教の言い伝えによると、すべてのヴァルナ、すなわち身分は、インド神話に登場する原人プルシャから誕生したとされるそうな。聖職者や教師などが属するバラモンはプルシャの口から、王族や武士は腕から、商人は腿から、労働者は足から生まれたという。それぞれの階級の中でも上下関係があり、そのほとんどは二千年前の「マヌ法典」によって定められ、しかも、何をやって良いか何をやったら悪いかなど細かく規定されているという。
しかし、五番目のヴァルナである不可触賤民だけはプルシャから生まれたのではないとされ、社会の枠組みから外れた。彼らは、その汚らわしさゆえに普通の人々とは交流できないとされ、動物の皮、血、糞尿、人間の死体の処理を職業としてきた。上位カーストの人々の家や寺院に入ることも禁じられ、同じ食器を使って食事することも認められておらず、上位カーストの人の体の影が触れることすら許されないという。規則を破れば、袋叩きに遭い、強姦され、殺害されるとか。アチュート(アウト・カースト)として生まれれば、死ぬまでアチュートというわけだ。
経済学者アマルティア・センが問題提起した「喪われた女性たち」は国際的に反響を呼んだ。嫁焼き!... 毎年10万人を超える若い女性が焼き殺され、その多くは家庭内暴力だとも聞く。もちろんインドの法律はそうした差別を禁止しているが、実質的にあまり変わっていないらしい。特に地方では差別が根強く残り、現在でも人口の 15% が不可触賤民に分類されるという。慣習とは、恐ろしいものだ!
さて、本物語では、不可触賤民の中に不思議な能力を持つ家系があるとしている。それが「ショヴィハニ」というわけだ。そして、ロマ種族はこの血筋を他には明かさず、近親交配によって維持しようとしたために、遺伝的異常が数多く発生したという。その遺伝子異常の好転した場合が、天才的サヴァンというわけか...

7. タージ・マハルと愛の象徴の恐怖
タージ・マハルは、三百年以上前にムガール帝国の皇帝シャー・ジャハーンにより、最愛の妃が永遠の眠りに就く場所として建設した霊廟である。人々の間では、不滅の愛の象徴とされる。王妃は、旦那から四つの約束を取りつけたという。一つは、自分のために大きな墓を建てること。二つは、皇帝が再婚すること。三つは、皇帝が子供たちを大切にすること。四つは、毎年命日に墓参りをすること。皇帝は約束を守り続け、最愛の妃とともにタージ・マハルに埋葬されたという。
しかし、愛の物語の裏には、必ず血塗られた歴史がある。言い伝えによると、霊廟の完成後、皇帝は建設に携わった職人の手をすべて切り落としたそうな。これに匹敵する壮麗な建築物を二度と造らせないために...

8. 核の遺産
1986年、チェルノブイリ原発の四号炉が爆発した事故では、放射線の影響で十万人以上が死亡し、七百万人が被曝したとされる。その多くが子供たちで、いまだ癌や遺伝子異常の報告が絶えない。さらに近年、悲劇の第二波が訪れた。被曝した子供たちが子供を産む年齢となり、先天性欠損の事例が三割増加したという。1993年にモルドバで生まれた赤ん坊は、二つの頭、二つの心臓、二つの脊髄を持ちながら、手足は二本ずつ。脳が頭蓋骨の外にある状態で生まれた子供など。
しかしながら、もともと核で汚染されてきた地域で、原発事故だけの影響とは言いがたい。ウラル山脈にある旧ソ連時代のプルトニウム工場も、ウラン鉱山で働く囚人の住居として使用された地下都市も実在し、ほとんどの囚人は刑期を終えずに命を落としたという。プリピャチで、厚さ12メートルの巨大な鋼鉄製のシェルターで古い石棺を密閉する計画も事実だとか。
チェリャビンスク地方は、地球上で最も汚染された地域の一つとして数えられる。カラチャイ湖の汚染された湖水は周辺のアサノフ湿地へ漏れ出て、そこに断層が存在するのも事実だそうな。ノルウェーの地球物理学者の調査によると、大地震などが発生して湖底の断層に影響を与えた場合、北極海は死の海と化し、北米や北部ヨーロッパにまで汚染が広がると予想されているという。
2013年、チェリャビンスク州に隕石が落下したと大々的に報じられた。重さ10トンと見られる隕石が。科学者が予想する事態ともなれば、サヴィーナ少将が人工的に作り出そうとした事態が、偶発的に起こる可能性はある。福島第一原発事故を目の当たりにすれば、他人ごとではない...

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