2020-01-19

過去に狂い... 未来に狂い... そして、現在に狂う...

「現実は夢を壊すことがある。だったら、夢が現実をふち壊したっていいではないか。」... ジョージ・ムーア

人間の認識能力ってやつは、時間を平等に扱わない。過去、現在、未来で抽象化し、実に都合よく解釈してみせる。未来に悲観すれば過去の思い出に縋り、過去に絶望すれば未来に根拠のない希望を抱く。そして現在はというと、幻滅しては現実逃避を試み、いつも幻を追っかけてやがる。どうりで人間社会は仮想世界へ驀進するわけだ。時間の矢は常に無情。過去は片時も休まず未来を抹殺し続ける。責任を持てなければ未来を覗くのにも勇気がいるし、行いを悔いたところで、おとといおいで!と神が嘲笑う。
そして気づかされる。できることと言えば、現在を精一杯生きることぐらいなものだと...

「愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る。」... ナポレオン

人間ってやつは、時間の連続性に身を置かないと心が落ち着かないと見える。精神病患者の多くは、精神内時間の連続性が失われることに原因があると聞く。癲癇病患者は、痙攣のさなか時間が停止したような崇高なひとときを味わうことができるそうな。この病が、古くから「聖なる病」や「悪魔の呪い」などと呼ばれる所以である。離人症患者は、自己を失い、存在感を失い、放心状態となって時間を感じなくなるそうな。このような精神がテレポートするかのような現象は、時間の呪縛から逃れたいという欲求から生じるのであろうか。精神内時間ってやつは、数学のように離散性と連続性をうまく使い分けているようだ。
精神正常者とされる人々だって負けちゃいない。曖昧な記憶を無理やりにでも認識空間の時間軸に押し込め、辛うじて連続性を保ってやがる。埋め尽くせない時間の隙間には誤った記憶までこしらえ、しまいには言い訳をする。記憶にごじゃいません!と...

「人生をもう一度やり直せるとしても、同じ間違いをするでしょうね。ただし、もっと早いうちに...」... タリューラ・パンクヘッド

では、未来に思いを巡らせてみては、どうであろう。十年後の自分を想像しても、そうなったためしがない。おそらく十年後も、想像のつかない世界を生きていることだろう。いくら未来に備えても、そうはならないってことだ。だからといって備えないわけにはいかない。臆病心を紛らわすために...
知的生命体が精神という能力を獲得してしまうと、正常も異常もたいして違いがなくなると見える。実現不可能な夢想から自己分裂を引き起こし、緻密な将来設計から逸脱すれば自分自身が許せないときた。精神を獲得するということは、精神病を患うということか。ならば、少しばかり精神異常を自覚できる方がいい。そういえば、人間とは精神である... と定義した実存主義者がいた。「人間とは精神である。精神とは自己である。自己とは自己自身が関係するところの関係である。すなわち関係ということには関係が自己自身に関係するものなることが含まれている。」と...
なんだこの難解な単語の羅列は???狂ったかキェルケゴール!なるほど、狂人が演じられれば、幸せというわけか...

人の一生とは、狂言のようなもの。猿の面をかぶれば猿に、武士の面をかぶれば武士に、エリートの仮面をかぶればエリートに、サラリーマンの仮面をかぶればサラリーマンになりきる。セレブリティの面をかぶればセレブかぶれにもなれる。あとは、幸運であれば流れに乗じ、不運であれば逆境を糧とし、いかに達者に振る舞うか。人生とは滑稽芸なのやもしれん...

「私は『奇人は貴人』だと考えているから、漫画にも大勢の奇人変人を描いています。こうした人たちには、好奇心の塊のような、我が道を狂信的なまでに追求している人が多い。つまり、誰が何と言おうと、強い気持ちで、我がままに自分の楽しみを追い求めているのです。だから幸せなのです。さあ、あなたも奇人変人になりなさい。」... 水木しげる

0 コメント:

コメントを投稿