2023-05-14

"πと微積分の23話" 寺澤順 著

πと言えば、円周率。こいつが、どんな値になるか、古代人は正確には知り得なかったであろう。無理数だから無理もない。
だが、数直線上で、直径 1 の円を転がせば、その周の長さが 3 より、ちょいと大きいぐらいは小学生でも分かる。
三千年記を迎えた今日でも、πに魅せられる人は少なくない。何万桁も暗唱して、ギネスに挑戦する人たちまで。
スパコンで計算中とはいえ、その精度となると、IEEE754 に従って暗黙に定義せざるをえない。要するに、実際に用いるには、近似するしかないってことだ。無理数だから無理もない。
無理数の存在が、極限へ迫ろうという数学者たちの野望を目覚めさせ、挫折感を喰らわせてきた。
一方で、図形を眺めながら極限へ迫ろうとした数学者たちがいた。アルキメデスに発する微分や積分といった思考法である。ここに、数学者という人種が、微積分学を通じて、πと戯れる物語が始まる。おいらも、おっ!パイと戯れたい...

代数学が等式で関係を記述すれば、解析学は不等式で関係を記述する。連続関数において明確な答えが見つからなければ、その前後で大小を比較しながら、より目ぼしい値へと近づいていく。それは、ε-δ論法が告げてやがる。おいらを数学の落ちこぼれにした奴が...
相対的な認識能力しか持ち合わせていない知的生命体が真理を探ろうとすれば、その周辺の関係から迫るしかあるまい。数学の極限に、人間の認識能力の極限を見る思い。
そして、微分方程式が解けない場面にちょくちょく出くわせば、近似法に縋る。本物語は、極限に迫るための裏技として、漸近的近似、テイラー展開、フーリエ級数などに触れ、極限に迫る数学的性質では、一様収束、連分数、ゼータ関数、ガンマ関数などに注目する。近似法でπが演じる重要な役割を暗示するかのように...

コーシー列の収束性を魅せつけられれば、こいつを近似に利用しない手はない。代数の循環性もまた然り、2/π に見るヴィエタの公式に見惚れ、π/2 に見るウォリスの公式に見惚れ、その背後に二大巨匠と謳われるオイラーとガウスの手招きを感じずにはいられない。
そして、連分数に見る黄金比に見惚れるのであった。曲線と戯れる数学者たちの曲芸に、人生の曲芸を見る思い。混沌とした物理現象を目の前にして最も有用となる理論は、近似法といってもいいだろう...

1. 古代の叡智にπを見る!
古代エジプト人たちは、「9分の1法則」なるものを編み出したという。直径 d の円の面積を求める時、d から 1/9 を引いたものを平方するという近似計算である。

  π(d/2)2 ≒ (8d/9)2

そして、πは...

  π ≒ (16/9)2 = 3.16049...

アルキメデスは、単位円に正 6 x 2n 角形で、外接と内接の両面から近づくことを考えたという。単位円の円周の長さ 2π に対して、正 6 角形をベースにすれば、内接する周の長さは、6辺 x 1 = 6 となり、こうなることは一目瞭然。

  2π > 6、つまり、π > 3

あとは、n を限りなく増やしていくだけ。そう、取り尽くし法ってやつだ。
円の面積が分かれば、楕円の面積も簡単に導ける。xy 座標において、半径 (a, b) の楕円には、円の面積を b/a 倍すればいい。

  b/a・πa2 = πab

しかし、楕円の周の長さとなると、かなり手ごわい。楕円関数論という理論体系が生まれるほどに...

2. レムニスケートに単位円の同型を見る!
楕円積分では、「レムニスケート」ってやつがある。リボンのような形をした摩訶不思議な図形である。
本書は、こいつに、単位円の円周の長さ 2π との同型を感じさせてくれる。
x軸とy軸に対して線対称で、原点と交わる接戦は、y = x と y = -x となり、特に、x軸と交わる √2c, -√2c を標準形とする。




その極座標方程式は...

  r2 = 2c2 cos 2θ

この図形に対して、数学者たちは、ϖ= 2.622...(パイ・スクリプトと読む)という定数を定義し、その全長を 2ϖで表記した。しかも、πも、ϖも、超越数というから、意味深げ。これらを同型と見るなら、新たな非ユークリッド幾何学が創設できそうな...

3. ビュフォンの針... 確率論にπを見る!
確率問題に、「ビュフォンの針」というのがある。
机上に一定間隔 d で区切られた多数の平行線を引き、そこに長さ L < d の針を無作為に落とす。この時、針がいずれかの直線と交差する確率に、なんとπが顔を出すというから摩訶不思議!

  P = 2L/πd

宇宙がこのような姿になった確率は、πに看取られているのか。そりゃ、パイに見惚れるのも無理はない...

4. スターリングの公式... 漸近的な近似に超越数を見る!
n! という数は、n が少し大きくなっただけで爆発的に大きくなり、なかなか正体が掴めない。これの近似となると、πと e(ネイピア数) という超越数が絡むから摩訶不思議!

  n! ~ √(2πn)・(n/e)n

超越数とは、無理数の中でもとびっきりの存在で、代数的な解にもなりえない数だ。カントールは集合論によって、大部分の実数が超越数であることを証明した。これには、数学者たちを驚愕させたことだろう。宇宙は、超越数に看取られているのか。そりゃ、大部分の微分方程式が解けないのも無理はない...

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