2023-05-21

"Beautiful Data" Toby Segaran & Jeff Hammerbacher 編

こいつを入手したのは、十年ぐらい前になろうか...
買ったはいいが、それで満足しちまう。そんな専門書どもが本棚の片隅で、たむろしてやがる。シリーズものではコレクションしておきたものもある。それで、もったいない病が疼けば、しゃあない...

オライリー君のビューティフル・シリーズでは、まずコードに誘われ、アーキテクチャ、セキュリティときて、そして今、データに手を出す。コードには、それこそ美しいものがあり、コード哲学が露わになる。では、データはどうであろう。
例えば、言葉を集めただけの国語辞典に美しさを感じるだろうか。笑える語釈にでも出会えば、そんな感覚も湧くやもしれんが、データそのものは数字や記号と類似で無味乾燥、ただそこに存在する。
コードを書く行為は主体的で能動的だが、データは、収集し、分析し、処理するといった一連の行為に見舞われ、客体的で受動的である。解釈できる点では、統計とも似ている。
データは、それを活用する人によって生き生きし始めるのであって、誰にでも美しく見えるものではあるまい。これを美しく見るには、データとうまく付き合う必要がありそうだ。
数学も無味乾燥とされるが、方程式には美しいものがある。オイラーの等式は、超越数のπと e が、虚数を介して冪乗で絡むと自然数に収束することを告げ、ここに新たな世界観を感じずにはいられない。データにも、こうした感覚を持つ人がいるのだろう。活用する側から見れば、関連付けや階層といったデータ構造に哲学を見ることはできる。整理の美学と言うべきか。
本書を眺めていると、構造化されたデータの集合体が図書館に吸い込まれていくかに見える。データ構造がデザインされれば、そこにデザイン哲学が露わになる...

「データの美しさは、奥深いところにある。美しさは、それまで隠れていた構造やパターンが姿を現したときに出てくる。パターンの出現で、データに関する新しい考えや疑問がわく。アイデアがひらめき、探索してみようという気になる。物事の本質を見抜く力が与えられる。そして、空間的な広がりのあるところに、地理的な美しさが現れる。... 美しさとは、広い意味で実体が与える喜び、意味、満足感といった特徴を表すものだ...」

今日、データ駆動型(Data Drivenn)が盛んに議論され、開発設計の場でも、問題解決のための意思決定プロセスで重要視されている。データの収集、分析、処理、さらに可視化によって、以前と異なる光景が見えるようになれば、新たな価値観を生み出すであろう。本書は、データの自己発見パラダイムを紹介してくれる。
ちなみに、キェルケゴールは... 人間は精神である。精神とは自己である。自己とは、それ自身の関係に関係する関係の...などと支離滅裂なことをつぶやいた。相対的な認識能力しか発揮できない知的生命体が自己を認識しようとすれば、その周囲の関係から迫るしかあるまい。データの自己発見もしかり。データが別のデータと関連づけられ、その連鎖が新たな価値観を生む。そして、データは検索される宿命を背負う。誰が検索するかって?もはや人間は無用のようだ...

「美しいコードは、リストを並び替え、連立一次方程式の解法、フーリエ変換の実行といった非常に明確な目的を持つ場合が多い。コードの美しさは、どれだけ目的に合っているかによる。美しいデータの場合は、このような目的はそれほど明確ではないかもしれない。データの探索は、科学的試みの重要な部分を占め、これによって洞察、検証すべき仮説、従来の理論の検証が導かれる。美しいデータには探索が必要である。このようなデータにはパターンや構造、例外が含まれる。これらは、探索してもすぐには見つからないが、内側の奥深くに潜むものを掘り当てた褒美として現れる。」

ところで、高度な情報化社会は、本当に進化へと向かっているだろうか。ネット上に情報を公開すると深刻な結果を招くことは、ユーザがよく知っている。スパム、炎上、ID盗難、ジャンクメール... おそらく進化の過程は、単純増加ではなく、退化の時代もあったであろう。では、現在は?
データの設計とは、信頼をデザインすることでもあるはず。しかしながら、いまや個人データを保護することは難しい。ネット通販で商品を購入すれば、まったく関係のない広告メールがわんさと飛んでくる。新型コロナに感染し、行政サービスに携帯電話番号を登録すれば、アルバイト勧誘のショートメッセージがすかさず飛んでくる。
あらゆるサービスがデータ化されれば、犯罪もまた然り。無味乾燥のデータに、データ以上のものが見えてくる。データは人生を表し、データが物語を語り始める。まさに高度なデータ化社会!現代人は、データに右往左往させられるばかり...

「そう遠くない昔のこと、ウェブは情報の共有、発信、配布の場だった。しかし時代は変わった。ウェブはいま、個に向かっている...」

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