2023-12-03

"R.U.R. ロボット - カレル・チャペック戯曲集I" Karel Čapek 著

カレル・チャペックの小説「山椒魚戦争」は、知能の発達したオオサンショウウオが、やがて人類の総質量を上回り、知能をも上回り、地上の支配者であった人類を滅亡させちまうという物語であった(前記事)。人類が様々な種を絶滅させてきたように...
自然界で進化した生物が発見されると、これを人身売買のごとく商品化し、繁殖までさせて労働力にしちまう。シンジケートまがいの経済システムは、まさに人類の発明品!

ここでは、人間が大量生産したロボットが、同じ役を演じる。R.U.R. とは、ロッサム・ユニバーサル・ロボット社。当社が開発した万能ロボットは、人間よりも安く、完全に従順な労働力を提供致します!
こいつぁ、人造人間か!バイオノイドか!人間を装うなら、少しは気違いじみていなくちゃ...
尚、本書には、二つの戯曲「ロボット」と「白疫病」が収録され、栗栖継訳版(十月社)を手に取る。

1. R.U.R. ロボット
「ロボット」の語源は、この物語に由来するそうな。元々はスラブ語らしいが、チェコ語の "robota" は賦役、苦しい労働を意味するという。強制労働のための機械というわけか。
この物語は、アラン・チューリングやフォン・ノイマンが提起した問題にも通ずるものがある。それは、コンピュータが意思を持ちうるか?という問い掛けである。

しかし、これは本当にロボットの物語であろうか。産業革命以降、世界中に工業化の波が押し寄せ、大量生産の時代ともなると、機械的な仕事が急激に増え、否応なしで命令に従う労働者が求められる。やがて植民地主義が旺盛になり、なりふり構わず人種や民族も一緒くたに労働力の集約にかかる。これぞ、生産合理性!
組織に隷属し、人間に隷属し、社会保障制度に縋る人々。自分で思考することを放棄し、情報を鵜呑みにする大衆。生産と消費を高めることでしか経済が回らない社会では、その成員がロボット化することで経済合理性がまかなわれる。うんざりする仕事は誰かに押し付けて、われわれは楽をしようではないか。そんな理想郷に思いを馳せるも、意志を持っちまった徒党が、そんな地位にいつまで甘んじてくれるやら。
世間には、非人道的な人間がわんさといる。これからの社会は、ロボットらしくないロボットも増えていくだろう。それは、 人工知能が暗示している。
そして、ロボットに戦争というものを教えてしまったら最後、人間よりもはるかに合理的な方法でやってのけるだろう。いや、わざわざ教えなくても、人間を観察していれば、いずれ知ることに...

「われわれは人間の弱点を知ったのです。人間のようになろうと思えば、殺しかつ支配せねばなりません。歴史を読むがいいのです!人間の書いた本を読むがいいのです!人間になろうと思えば、支配しかつ殺さねばなりません!」

2. 白疫病
熱病にかかったように軍備拡張が広がる世界で、今にも戦争をおっぱじめようとしている元帥がいる。その時、新たな疫病が蔓延!これはペストではない。ペストは全身が黒くなって死んでいくが、この病は白くなった肉の欠片がぼろぼ落ちていく。
しかし、ナショナリズムの熱病も同じことやもしれん。戦争は人口増殖の抑制に寄与する。疫病もまた...

そんな最中、貧しい人々を献身的に診察していた一介の開業医が、この白い病の治療薬を発見する。侵略戦争をきっぱりとやめ、恒久的な平和条約を結ぶ国にのみ、この治療薬を提供致します!
医者の倫理からすれば、どんな患者にも治療薬を提供するのが道理だが、あえて政治家の論理を通す。平和テロか!
元帥は、医者の要求を頑固として拒否し、愛国心に燃える大衆がそれを後押し。人間ってやつは、一旦、権力欲に憑かれると、民衆の苦痛を見ても、立ち止まる勇気が持てなくなる。そして、大衆もまた熱狂から抜けられなくなる...

「きみは、平和は戦争にまさる、と信じているが、私はね、勝った戦争は平和にまさる、と信じている。戦争に勝つ機会を国民から奪う権利など、私にはないのだ。戦死者たちの血によってこそ、ただの国土が祖国になるのだからね。戦争あってこそ、人間の集まりが国民になり、男たちが英雄になるのだよ。」

こう主張する元帥も、いざ白い病が自分に感染して死が迫ってくると医者の要求を受け入れ、治療薬を提供してもらうことに。だが、医者が元帥邸へ治療薬を届ける途中、大衆にリンチされて命を落とす。この国賊め!元帥万歳!戦争万歳!いつの時代も、大衆(体臭)に付ける薬はない...

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