2024-08-04

"アジャイルサムライ - 達人開発者への道" Jonathan Rasmusson 著

アジャイルサムライとは、なんとも日本風のタイトル...
執筆当初は、"The Way of the Agile Warrior." であったとか。ジョナサン・ラスマセンは、技術屋魂に武士道精神を見たのか...
尚、西村直人・角谷信太郎監訳、近藤修平・角掛拓未訳版(オーム社)を手に取る。

「アジャイルサムライ... それはソフトウェアを顧客に届ける猛々しいプロフェッショナルだ。たとえプロジェクトがきわめて過酷な状況にあろうと、かつてなく手ごわい期日であろうと、成果をあげる力量を備え、しかも品格と平静さを失うことがないのだ。」

アジャイルチームには、三つの特徴があるという。
まず、役割分担がない。人はみな自分の得意分野にこだわる傾向があるので、定義する必要もないと。
次に、分析、設計、実践、テストといった工程はいずれも、途切れることなく続く連続的な取り組みで、日々連携であると。
そして、チーム一丸となって成果責任を果たし、自分の担当に固着しないと。
こうしたチームには、哲学的な共通意識やメンバーが互いに高め合おうとする風土を感じる。アジャイルは、ソフトウェアの開発手法として知られるが、なにも分野にこだわることもあるまい。時にはフレームワークであったり、時には職場環境であったり、あるいは、エンジニアリングであったり、マネジメントであったり、はたまた、心構えであったり、哲学であったり、はたまた、人生そのものであったりと様々な捉え方ができよう... 

「君が質の高いソフトウェアを届けることは誰にも止められない。君が職場に立って、お客さんに向けてプロジェクトの状況と、プロジェクトに必要なことを誠実に伝えるのも誰にも止められないんだ。でも勘違いしないでほしい。これは簡単なことじゃない。私たちの業界には何十年もの歴史がある。時の流れと共に積み重なってきた数々の問題が、私たちの行く手を邪魔することだってあるだろう。とはいえ、結局のところ君の働き方や仕事の質を選んでいるのは他の誰でもない、君自身なんだ。そのことだけはしっかりと受け止めてもらいたい。それから、誰かにアジャイル開発を押しつけるのはだめだ!」

優れたプロジェクトマネージャは、チームに何をすべきかなんて指示しないという。そんなことは必要もないと。プロマネが手助けすることはただ一つ、環境を整えること。そのためにも自己組織化を要請している。
スタートを切る前から駄目になってしまうプロジェクトは多い。その主な理由を二つ挙げている。一つは、答えるべき問いに答えられない。二つは、手ごわい質問をする勇気が持てない。まさに忖度体質か!
そこで、マネジメントツールとしてインセプションデッキを提示している。インセプションデッキとは、プロジェクトの目的や問題点などを全体像として把握し、チームの進むべき道を示したある種のドキュメント。それは、10 の手ごわい質問と課題で構成される。我々はなぜここにいるのか?との問いに始まり、エレベーターピッチの作成を求めたり、顧客を積極的にメンバーに引き入れたり、解決案を図式化したり、期間の見極めや何を諦めるかを明確にしたり...
要するに、哲学的な意識や価値観をメンバーで共有し、個人とチームの強みをしっかりと自覚すること。
尚、やるべきことは、どうも加算されていく傾向にあるので、諦めることを明確にする方が合理的なようである。それでも、プロジェクトをやるのか?と自問すれば、プロジェクトの核心に迫り、インセプションデッキの背後にある意思が見えてくる。適切な質問こそが、自己を導き、チームを導くであろうことを。そして何よりも、仕事ってやつは楽しまなくっちゃ!

但し、言葉に翻弄されては本末転倒。オブジェクト指向にしても、ドメイン駆動設計(DDD)にしても、テスト駆動開発(TDD)にしても、真新しい方法論が登場してはセミナーが乱立し、そこに人は群がる。おそらく、アジャイルを実践している人は、それがアジャイルかなんて意識はないだろう。ごく自然に受け入れているのでは...
本書で紹介されるアジャイルの原則にしても、すでに実践しているものが多い。特定の方法論に固執しないのも、一つの方法論としておこうか...
とはいえ、あまりに情報を共有するがために、すべてがメンバー全員に筒抜けでは弊害もある。リリースの遅れにしても隠しようがない。上を誤魔化し、結果で帳尻を合わしてきたプロマネにとっては...

「マーフィの法則は、事前によく練られた計画を台無しにしてしまうことについては、とりわけ情けも容赦もない。変化と向き合うための戦略がなければ、君の暮らしは荒れ狂うプロジェクトに翻弄されるがままになってしまうだろう。」

ちなみに、身近な介護チームにも、アジャイルを見かける。福祉サービスや通所介護に病院が加わり、ケアマネージャさんをはじめ、介護士さん、福祉用具屋さん、看護師さん、栄養士さん、理学療法士さん、お医者さん、ついでに食堂や売店のおばさんたちの連携が素晴らしい。医療現場といえば、たいてい医師が主導する立場にあろうが、担当の垣根を超えて介護士さんや看護師さんたちが率先し、お医者さんは後ろから支えているような位置づけ。臨機応変に対応せざるを得ない現場だけに、まさにジェネラリストの集まり。実に、自由主義的で、民主主義的なチームだ。
本書にも、アジャイルチームは担当役割が曖昧とあるが、曖昧というより自由と表現する方がいい。役割分担を明確に与えなければ、仕事が進まない大企業体質とは明らかに違う。命令を待たなければ何もできない官僚体質とも根本的に違う。なによりも仕事をしている人たちが楽しそうで、顧客の方も乗せられちまう。介護地獄が楽しいわけがないのだけど...
本書も、アジャイルメンバーに顧客を引き込み、積極的に要求を引き出すことを奨励している。実は、顧客というのは、自分の要求が分かっていないことが多い。なので、実用的な成果を短いスパンで定期的に公開し、顧客自身の意志を明確にさせることが重要となろう...

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