2009-08-23

"新ハイスピード・ドライビング" Paul Frere 著

先日、知人からポール・フレール氏が2008年に亡くなったと聞いた。そこで、本書をなんとなく読み返したくなった。これを読んだのは10年ぐらい前だろうか。カートで熱くなっていた時期のバイブルである。著者はアマチュアのために書いたと述べているが、前書きにフィル・ヒル(1961年F1チャンピオン)は、プロでも参考にするべきだと語っている。ちなみに、二人ともルマンの優勝経験者。本書は、現在でも通用するドラテク理論の名著と言っていい。今宵は、カートの体験談と重ねながら綴ってみよう。久しぶりに血が騒ぐぜ!(ドスの利いた声で) 10年前といえば、カート場に毎週のように通い、一日中走りこんでいた。タイムトライアルでは、常にベスト3にランキングされるように躍起になっていた。凝り性という性格が災いして、仕事をサボって走ったこともある(これは内緒!)。今では年に数回行く程度だが、それなりのタイムは出せるだろう!と意地を張る。まるで餓鬼だ!60歳過ぎても「趣味はカートです!」と言いたいものである。ちなみに、著者は70歳半ばでも、300km/hクラスの車をテストしていたという。当時、愛車をサーキットに持ち込んで走ることもあった。こちらはカートと違って思いっきりヘタレだ!経済的に辛いし、帰り道も自分の車が足なので絶対にぶつけられない。ただ、サーキットで走る経験は貴重である。グラベルにはまって動けなくなった時の景色はそうそう味わえるものではない。キャタピラ号に牽引される後ろ姿には寂しさが漂う。だが、それを酒の肴にされるのは愉快だ!ヘタッピだと思い知らされれば、公道で無謀な運転を避けるようになる。自称、走る道路交通法!ただ、いつまで経ってもゴールド免許になりきれないでいる。ちなみに、愛車はSW20の3型、生産中止の噂を聞いて慌てて購入したが、今では10%の税金アップが辛い。 カートを語り始めるとアル中ハイマーは熱い。カートは後輪駆動車なのでオーバーステア傾向にある。ミッドシップエンジンで、シートもやや後ろにあるので、重心は後ろにある。したがって、一旦回転運動が始まればリアが流されやすい。回転運動中に駆動力を与えれば簡単にスピンするわけだ。とはいっても、しっかりとフロントに荷重がかからなければ、フロントが軽い分むしろアンダー傾向となる。また、後輪軸は左右が直結されているので、2wayのデフのような感覚で、これもアンダーの要素となる。つまり、荷重移動の按配でアンダーにもオーバーにも容易にできる車なので、ドラテクの勉強にもってこいというわけだ。 速く走るためには、ブレーキングを最小限に抑え、なるべくアクセルの全開区間を長くすればいいわけだが、そう単純ではない。後輪駆動車の場合、コーナーの脱出方向に車体姿勢が決まっていないと、アクセルを開けることができない。オーバー状態では、絶対にアクセルを開けられないのだ。 なんといっても難しいのはブレーキングであろう。ブレーキングには主に二つの役割がある。コーナー進入のための減速と、回転運動のきっかけ作りである。最初は、この二つを使い分けていたが、慣れると一発でガン!と踏んで双方を兼用するようになる。適度にフロントに荷重をかけてステアリング蛇角を小さくすれば、スリップアングルの効率が上がる。また、フロント荷重の反動は、必ずリアに反作用となって返ってくるので、タイミングが合えば駆動軸への伝達効率も上がる。高速コーナーでは、アクセルを抜くだけでフロントに荷重がかかって、ブレーキを使わずに曲がれるが、低速コーナーでは、しっかりとフロントに荷重をかけないと曲がれない。パワーのないカートでは、一度減速するとスピードの回復に時間がかかるので、ターンインではなるべくブレーキを使いたくない。最初は、荷重移動にメリハリを付けて操作する。頭で確認しながら走っている感じだ。遠心力で体が外に流されるのを息を止めながら踏ん張るもんだから、吐き気もする。ステアリングも重く、疲れてくるとヘルメットの重さで首が流される。ところが、慣れてくるとステアリングの修正が少なくなり、姿勢も安定して全体的に滑らかになる。腕や足など部分的に疲れていたものが、やがて疲れにくくなり、しかも疲れが体中に分散する。 荷重移動の効率を上げるために、ライン取りも重要となる。車がコーナーに追従する能力は、ひとへにタイヤの接地力で決まると言っていいだろう。タイヤの接地は路面の摩擦係数に支配される。接地力は車両重量とも比例するが、車両重量が増せば遠心力も大きくなって外へ流される。コーナーリング中は、接地力の限界ぎりぎりに保つことが鉄則であろう。理屈はすべてのコーナーを速く曲がればタイムは上がりそうなものだが、そう単純ではない。すべてのコーナーで欲張っても、どこを速く走るように組み立てるか、全体のバランスが鍵となる。いくら一つのコーナーを速く曲がったところで、次のストレートでスピードが乗らなければ意味がない。最初は、コーナーを速く曲がろうと頑張りすぎて、突っ込み重視になりがちだった。その反動がコーナー出口に現れる。一概には言えないが、基本は立ち上がり重視にした方がタイムは出しやすいだろう。コーナーの進入を多少犠牲にしても、集中力が途切れずにタイムも安定する。この精神的なものって結構大きい。 また、コーナーの進入角度も重要である。次に続くストレートで加速効率を上げるためにも、なるべく速く脱出姿勢を決めたい。コーナー出口になるべく速くステアリングを向けて、カウンタをあてずに効率よくスライドさせる。いわゆる慣性ドリフトだ!ほとんどの車体運動で慣性力を利用することになる。ドリフト中はアンダー状態でなければ、アクセルは踏み込めない。ところで、四輪ドリフトとスライドやスキッドとの境界線も微妙で、明確な区分はないらしい。だた、レース用語としては、前輪が多少ベンドの内側へ向いているか、少なくとも直進方向を向いている場合がドリフトで、前輪をコーナーとは逆向きに修正する場合がスライドやスキッドだという。ひらたく言えば、無駄な滑りをさせないのがドリフトといったところだろうか。速く走るドライバーほど無駄な動きを抑え、派手さを感じさせないものである。 カートの体感スピードは一般車の倍ぐらいだという話をよく耳にする。100km/hぐらいでフルブレーキングすると、200km/hぐらいに感じるということか?ちと大袈裟ではないかい!カートでそんなに危険を感じることはないが、限界を試すにはそれなりに勇気がいる。コーナーでは外へ飛び出しそうになるから、最初から思いっきり突っ込むことはできない。だが、最悪でも直線運動を回転運動に変えてスピンすれば、外へ飛んで行くことはないことを体が覚えれば、少々のオーバースピードでも危険を感じなくなる。スピンする場所もコーナーの外側なので、後続車との危険も回避できる。 少し慣れてくると、ステップアップしてパワーのあるマシンを試す。そこで、いきなり体験するのがタイムダウンである。パワーがあれば、立ち上がりが鋭く、ストレートも速いので、感覚的には速く感じるが、タイムは逆に悪くなった。話を聞くと、多くの人がこうした体験をするようだ。こうして、ドラテクの奥深さを痛感させられる。 意外と難しいのは、縁石の使い方である。クリップポイントが内側の方が有利だとは言い切れない。縁石でグリップが格段と良くなるならありがたいが、行付けのカートコースではそれほどのグリップを期待できない。縁石の盛り上がりは、車体に傾きを与え逆バンクとなる。その傾き具合が、外側の駆動輪にうまく伝達する場合もあれば、逆に遠心力が邪魔になる場合もある。本書は、雨水溝に前輪をひっかける例を紹介している。つまり、車体が内側に傾くことで自然にバンクをつけるのと同じ理屈である。カートコースにも内側の段差に引っ掛けて加速できるコーナーがあるので、それを利用することがある。そう言えば、アニメでタイヤの内側を溝に引っ掛けて遠心力に対抗しながら、ジェットコースターみたいに曲がる話があったなぁ。 当時は、コースを歩いて観察したり、上手い人のライン取りを追走して参考にしたりしたものだ。そして、試行錯誤しているうちに、突然速くなる瞬間がある。速く走ろうという力みも薄れ、滑らかで自然な感覚になれる。自分の限界を知って諦めの境地に辿り着いたと言った方がいいのかもしれない。当時張り合っていたのは、小学生とスタッフの女の子だった。小学生は将来レーサーになると自信満々に語っていた。サインをもらっとけば良かったかも。なぜか?少年はインべたでスコンと曲がりやがる。どう見てもライン取りに無理があるのに、なんであのスピードで曲がれるのか?コーナーリング中はステアリングをこじって忙しそうに見えるが、タイムが出るのが不思議でならなかった。失敗してスライドさせたとしても、それほどタイムロスにならない。追走すると、立ち上がりで置いていかれるのが悔しい。これはテクの差ではなく体重差に違いないと言い訳したものだ。なにしろ20kgぐらいの差はあるのだから。ところが、雨になると立場が逆転する。わざわざ土砂降りの日を選んで走ることもあった。その理由はコースが空くからである。ただ、同じことを考える奴らがいる。マイマシンを持った連中は溝つきタイヤを装着するが、貧乏人はレンタルマシンで、しかもスリック!マイマシン派は、チューニングしていてエンジン音からして違う。それを後ろから煽るのが快感なのだ。雨の落ち始めは、ペイントされている所にタイヤをのせると、いきなりズルッ!といく。雨天で悩まされるがバイザーの曇りである。低速コーナーでいちいちバイザーを開けて拭くのが面倒でしょうがない。本書は、曇止め防止剤がない時、石鹸を薄く塗りつけ乾いた布で拭けば、曇止めに匹敵する効果があることを教えてくれる。 ちなみに、アル中ハイマーはなぜか?右曲がりのヘアピンが下手だ。夜の社交場では「右曲がりのダンディ」と呼ばれているのに。 本書は、着座姿勢からハンドリングの力学などを交えながら、運転技術の基礎理論と路面の安全性を解説する。おかげで、いい加減だった運転姿勢が、9時15分ちょい前でステアリングをしっかり握るようになった。どんなスポーツであれ、瞬時に反応して的確な動作をするためには、姿勢が大切である。理論の中には、物理学の数式を交えながらサスペンションのセッティングなど、運動力学の視点からも考察される。そして、バンク角度、タイヤ荷重、ダウンフォース理論といったデータも付録される。 また、後輪駆動車、前輪駆動車、四輪駆動車のタイプによって運動性能や操作性の違いを比較している。その大きな違いは、回転運動中に駆動力が増すと、後輪駆動車がオーバー傾向を示すのに対して、前輪駆動車と四輪駆動車はアンダー傾向を示すことであろう。後輪駆動車は、コーナー脱出時に車体の姿勢が出口方向に決まっていないとアクセルを開けられないが、前輪駆動車と四輪駆動車は、コーナーリング中に横を向いていてもアクセルが開けられる。前輪駆動車と四輪駆動車は、アンダー傾向が強いので危険の察知もしやすい。よって、一般車では前輪駆動車や四輪駆動車の方が好まれる。 「安全でしかも速いドライバーになるためにいちばん大切なのは、素早い反射神経ではなく、むしろ的確な予測能力である。」 どんなに練習してもドライバーの天性の素質には勝てないだろう。プロストやセナが、教科書やドライビングスクールを必要としたとも思えない。 「どんなに本を読んでも、レース学校でいかに練習しても、基本的な素質を生まれながらに備えていない人は優秀なレーシング・ドライバーにはなれないと私は思う。自動車の操縦は、ある水準以上ではスポーツとなり、鋭く正確な反射神経と完全な判断力が何よりも要求される。このスポーツでは、卓越した才能に恵まれており、しかも旺盛な研究心を持つものだけが一流の境地に到達できるのである。」 著者は、サーキットとロードではテクニックは別もので能力の比較は難しいが、ロードドライバーの方が偉大だと語る。その理由は人口的な環境ではなく、もっぱら自然を相手にするから、それにほとんどぶっつけ本番だからだという。ストリートで速い奴が王様ってわけか。それってストリーキング?なるほど、ふるちんで走るのは度胸がいるぜ!(ドスの利いた声で) 1. ギアチェンジ シンクロメッシュ式であっても、素早く加速するために、ダブルクラッチがいまだに使われるという。一度吹かしてやれば、シンクロメッシュ・コーンも傷めない。 ところで、よくギアの選択で迷うことがある。あるギアで回ると、回転数がレッドゾーンまで上がり、コーナーを出た途端にシフトアップが必要になるが、一つ上のギアで回るには加速が不足するという場合など。本書は、迷わず高い方のギアを選択すべきだと助言してくれる。その理由は、精神的なものだという。ギアチェンジはタイムロスにも繋がる。ブレーキング中のシフトダウンも、コーナーでの集中力に影響を与える。この考えは公道にも当てはまるという。速く走ることを前提とすれば、最大トルクの回転数を維持するのが最も効率がよいはず。そのために、ヒール・アンド・トゥもやる。本書は、ヒール・アンド・トゥは単にタイムを縮めるだけでなく、車体を安定させる意味での安全性にも通ずるという。ちなみに、坂道発進にも使える。 また、機械の摩擦を考慮すれば、回転数がある程度のところまで達しないうちからフルスロットルにするべきではないという。低速回転からの急加速は、無駄な爆発を引き起こす。ちなみに、カートのような非力なマシンでは、いきなりフルスロットルにすると、逆にパワーダウンする。よくある話に、最良の加速性能を得たい場合、各ギアでエンジンの最大トルク以上に引っ張るのは意味がないという説があるという。しかし、この説は間違いだと指摘している。計算上でも最大トルクの少し上になるようだ。したがって、すべてのシフトアップは、最高許容回転数で行うべきだと指摘している。ただし、最大トルクが比較的低い回転数のエンジンもあって、その場合は、最高許容回転数よりも早めにシフトアップすることになる。ちなみに、おいらはよくオーバーレブさせる。ヘタッピな証拠だ! 2. ブレーキング ブレーキは、運動エネルギーを熱エネルギーで吸収するシステムである。ブレーキ系統で生じた熱を瞬時に空気中に発散できないので、ドラム、ディスク、ライニングは異常な高温となりフェードの原因となる。その主な原因は、ライニング摩擦係数がある温度を超えると急激に減少することにある。レーシングカーはフェードしにくいが、逆に冷えるとライニング摩擦係数が小さい。高温は、同時にブレーキオイルを沸騰させペダルの踏みしろが増え、ペーパーロックを起こす。完全にブレーキが利かなくなった経験はないが、ブレーキがスコン!となって利きが鈍くなったことはある。ブレーキを使うのが少ないドライバほど上手いとはよく耳にする。タイヤのためにも、加速と減速は滑らかな方がいい。いずれにせよ、タイヤのグリップを超えるスピードでは、コーナーは曲がれない。ホイールロックすれすれの、絶妙なABS仕様の足がほしいものだ。ところで、カートでは左足でブレーキコントロールできるのに、車となると左足ブレーキは微妙な加減ができないのはなぜだろうか?単なる習慣であろうが、練習してもまったくセンスがない。 3. 空力 ほとんどの車は空力的なリフトを発生する。それは、飛行機が浮上する逆の原理で、車体の上を流れる空気が下を流れる空気よりも気流が速いために、気圧に差が生じるからである。しかも、後輪の方が浮きやすい。したがって、高速コーナーでは恐ろしいオーバーステアとなる。空気の流れといっても、正面からの流れに有効なだけで、横風に弱いのは飛行機と同じ。ちなみに、F1カーはトンネルの天井を走っても張り付くほどのダウンホースを発生する。実際に5G近くの求心加速度を得ながら、5Gの遠心力に対抗できるわけだ。もちろん、ドライバーの体にもそれだけのGがかかる。それで二時間近くも走り続けながら、瞬発力を維持しなければならないのだから、最も過酷なスポーツと言えるのかもしれない。 空力を利用せずに、高速コーナ-で程よいアンダーにシャーシーだけでセッティングしても、低速コーナーでは強いオーバーとなるので、シャーシーのチューニングだけではバランスを保つのは難しい。現在の空力は、グランドエフェクトを最大限活用して、ウィングは補助的な位置付けにある。本書は、セッティングの手順を解説してくれる。最初に、低速コーナーに合わせてシャーシーをチューニングするという。低速コーナーでは、空力効果よりもシャーシーのチューニングがものをいうからである。次に、高速コーナーのダウンフォースを調整するという。ウィングは前輪よりも後輪の方にダウンフォースをかけることになる。そして、サスペンションは、タイトコーナーで適度のアンダーとなるようにアジャストする。これがすべてだという。この状態でスピードを上げると、リアのダウンフォースが車速の二乗に比例して急速に立ち上がり、フロントのダウンフォースを凌いで大きくなり、高速コーナーで安定するという。 4. タイヤとホイール 一般にホイールのリム幅が広いほど、あるいはタイヤの断面が偏平になるほどスリップアングルは減少する。リム幅が広がると接地面の幅広いタイヤが装着できるので、接地面積が拡大してグリップ性能は上がる。幅だけでなく、半径方向にリム径を拡大しても、同様に接地面積が広がり同じ効果を得る。したがって、リアタイヤの幅と直径を大きくすればオーバーが減り、フロントで同じことをすればアンダーが減る。また、タイヤが関係するのは、コーナリング・フォースだけではないという。タイヤが支えることのできる垂直荷重の限界値も決まるという。ただ、タイヤの幅は大きければいいというものでもない。フォーミュラーカーは、タイヤが剥き出しになっているので、単純に空気抵抗にもなる。 ちなみに、ラリーともなると、ダートや積雪路を走るので、タイヤの種類も限りがないようだ。凍結するとスタッド付きが当たり前にしても、スタッド付きのスリックタイヤなるものもあるらしい。

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