2008-05-18

"第三の時効" 横山秀夫 著

昨日、推理小説を10冊ほどまとめて買い込んだ。今週は、推理小説週間にするとしよう。アル中ハイマーは推理小説に目がない。それも、リズミカルに読めてストレス解消に抜群だからだ。ただ、読み出すとやめられない止まらない「かっぱえびせん」状態となる。したがって、暇な時にしか手を出してはならない。つまり、今週は暇だということだ。そう言えば、ここ数年、推理小説なるものを読んでいない。記憶の隙間を呼び起こすのもブログ効果というものか?久しぶりに読むのだから、ハズレのないように願いたい。評判の良さそうなものを物色する。本屋の陳列に素直に任せ、商売の罠に嵌るのも悪くない。そして、なすがままに手を伸ばす。左脳の破壊された酔っ払いは、しぶとく直感で生きるのである。
おいらは、推理小説を選ぶ時に基準とするものがある。それはタイトルだ。この点は、他の本ではどうでも良いことであるが、推理小説となると別である。読む前から気分を作って、自らの感情を揺さぶる。これがストレス解消となる。

少々異色のミステリーを見つける。題材にしている事件は至って平凡である。ところが、これがなかなか読ませてくれる。全六編からなる連作短篇集というのも読み易さを増す。本書は親本から文庫化されたものであり、かなり細かい加筆がなされているというから、それもうれしい話である。注目すべきは登場人物の設定である。なかなか凝った設定で、物語の大半がここに集中している。これほど引き込まれるのは、設定やシナリオがしっかりしているからに違いない。映画でもシナリオのしっかりしたものは廃れずに、おもしろいものだ。

本書は、F県警強行犯係シリーズ。捜査課長が強行一係の三班を統括するが、それぞれの班長は覇権を激しく争い、独断で動き、指揮も思うままにならない。三人の班長は、不幸な交通事故以来一度も笑わなくなった刑事、冷徹な仕事ぶりで部下からも嫌われる公安あがりの刑事、動物的な勘に頼るたたきあげの刑事、と強烈な個性を持つ。そして、出世のために他班と争い、時には同じ班内刑事ですら手柄のために蹴落とす。そこには、人間の倫理やプライドを高く謳い上げて、一人一人の登場人物の描写からも人格を浮かび上がらせる。こうした人間模様を背景に、刑事たちの逮捕への執念を描く。なんと言っても、様々な冷酷な展開を見せながら、最後は温かい人間模様で着地させるところがいい。

1. 沈黙のアリバイ
法廷でしかける被告人の罠。長期間の取調べ中ついに自供。ところが、法廷で突然アリバイがあると叫ぶ。そして、傍聴席の警察官を嘲笑うかのごとくこっそりと笑みを見せる。被告人は自白を強要された悲劇のストーリーを作り上げ、冤罪を叫びマスコミを味方につける。おまけに、担当裁判官は冤罪判事と異名をとる人物。アリバイ発言は警察の面子という心理を巧みに揺さぶる。そもそも被告人は、自らのアリバイを証明するつもりなどさらさらない。偽装したアリバイは必ず見破られることまで計算している。むしろ、あるかもしれないアリバイを訴えることにより判事の心証形成を被告人に有利に働くように仕組む。しかし、そのアリバイは更に根深い犯罪を意味していた。

2. 第三の時効
通常の時効を「第一の時効」。刑事訴訟法255条によると、犯人が国外に出た場合、その期間は時効の進行が停止される。これが「第二の時効」。この第二の時効に犯人を嵌めようと画策が始まる。夫を殺された妻とその娘。実は娘は犯人の子。犯人が二人に接触してくるところを待ち受ける。そして、第二の時効が成立する。ちょうどその時、今まで現場にも姿を見せなかった冷酷な班長が登場する。実は「第三の時効」が存在した。犯人を逮捕していなくても裁判所には起訴できる。初公判までに捕まえればいいというわけだ。現場の刑事にも知らせず巧みに仕組んだ罠。しかし、この班長が仕掛けた罠は、実は逃亡犯に向けられたものではなかった。

3. 囚人のジレンマ
共犯者の心理が巧みに描かれる。互いに別々の場所に囚われている。自分は共犯者を裏切らないと固く心に決めている。だから相手も決して自分を裏切らないと信じている。だが、意思の疎通は図れない。しばらくすると、相手にに対する疑心が生まれる。それを打ち消しても蘇っては増殖し、すべての感情と理性を凌駕する。そして、とことん追い詰められてしまった時、人は自分以外の人間を信じられなくなる。この心理は、捜査一課の人間関係にも当てはまる。出世と自分の生き残りしか考えない集団。そこには、まさしく心の砂漠がある。いや、老刑事の花道を飾らせるための人間愛、水も緑もあった。

4. 密室の抜け穴
同じ班内で手柄を競わせる。リスクのあるはずの班内不和は、刑事の世界に限って言うなら、仕事の原動力になっても士気低下には繋がらないという。強行犯係に属する捜査員は例外なくプライドが高い。容疑者が厳重に監視されたマンションの一室から煙のごとく消える。そして、責任追及会議で刑事達の葛藤が始まる。どこにも隙がないはずなのに誰かがミスをしたはずだ。出世欲と不条理な人事や、ライバルを蹴落とすための陰謀が渦巻く。そもそも容疑者が逃げたというのに会議をしている暇などない。会議招集者は誰だ?この会議の主旨は?班長がつぶやく「要するに密室に抜け穴を作らせりゃあいいってことだ。」実は、会議そのものが犯人探しだった。

5. ペルソナの微笑
青酸カリを使ったホームレス殺人事件が発生。一人が13年前に起きた青酸カリの盗難事件を思い出す。当時8歳の少年が何者かに渡された青酸カリで結果的に父親を殺してしまった。子供を使っての卑劣な間接殺人。少年は成人しても残酷な体験から上辺の笑顔しか作れない。刑事自身にも幼い頃、事件で道具に使われた過去があり、間接殺人には複雑な思い入れがある。実は、本事件の真相そのものが13年前から引きずったものだった。

6. モノクロームの反転
水と油の二つの捜査班の主導権争い。二つの班は協力して1プラス1が3にも4にもなる。しかし、犬猿の仲で1以下にもなる。県警最強の仕事師集団はどう動くか?互いに情報を隠蔽、手柄を争う。一家殺害。そして葬儀。そこには子供の棺桶があった。それを見て、最後の最後に人間の倫理が際立ち、捜査班はプロの集団となる。

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