2008-05-03

"これなら分かる応用数学教室" 金谷健一 著

なんとなく本棚を眺めていると、本書に目が留まった。これは5年ぐらい前に読んだ本である。アル中ハイマーは、学生時代に応用数学で赤点を取った覚えがある。特に思い出されるのがε-δ論法である。おいらは、これで数学を挫折した。しかし、こうした本を読むと、また数学に再チャレンジしてみたくなるから、困ったものである。どうせ、またアホを自覚するだけなのに。パラパラと読み返していると、なんとなくウェーブレット変換ごっこでもして遊びたくなった。ちょうど連休だから、まとめておくのも悪くない。尚、遊んだ内容は、酔っ払いディオゲネスのページに掲載しておこう。ウェーブレット変換は、JPEG2000でDCTの代わりに採用され、10年ほど前に少しだけ勉強した覚えがある。

本書は、岡山大学工学部情報学科のための講義ノートが基になっているという。そして、データ解析に必要な線形数学の基礎知識を、重ね合わせの原理を切り口にまとめている。章立ては、最小二乗法、直交関数展開、フーリエ解析、固有値問題、主軸変換、ウェーブレットと、それだけで、独立した書籍になるような範囲を網羅している。その中で、厳密な理論や定理を省き、具体的な計算で示される点が理解を深めやすい。中でも、しばしば登場する学生と先生とのディスカッションが、かなり役に立つ。学生の質問は、実際に講義中に扱われた内容や感想を採り入れているという。そのレベルは出来の悪い学生であるというが、おいらの疑問点とマッチしている。例えば、最小二乗法では、なぜ誤差の二乗和を最小に近づけるのか?近似するならば、二乗しなくても、誤差の最大値を最小に近づけるか、あるいは、誤差の平均値を最小に近づければいいのではないかと考えたものだ。ただ、平均値となると、プラスとマイナスで打ち消されて結果的に和が0に近づくので、絶対値を与えなければならない。最大値や絶対値が含まれては微分ができない。よって、偶数乗すれば符号の問題も解決する。しかし、高次となると計算が複雑化するから、二乗が一番簡単というわけである。こうしたやり取りも昔を思い出しながら笑えてしまう。これもアル中ハイマーが出来の悪い学生レベルであることの証である。

本書の重要な概念を一つ挙げるならば、それは直交関数系である。この数学の美とも言える関係が成り立てば、大幅に演算量を減らし簡略化できる。つまり、任意のデータを直交関係にある関数の成分に分解することが、解析学の基礎ということである。そして、ベクトル、行列式、関数へと、その直交性質が次々と紹介される。行列式では、固有値問題のありがたみを感じる。ある行列に対して、固有値と固有ベクトルが求まる絶妙なケースが見つかれば、固有値で形成した対角行列を標準形として、演算数を大幅に減らすことになる。関数では、ルジャンドルの多項式、チェビシェフの多項式、エルミートの多項式、ラゲールの多項式で感動する。フーリエ変換にしても、sinとcosが直交関係にあることが重要であり、オイラーの公式にも直交関係が潜んでいる。スペクトル分解(固有値分解)が、データ解析の意義にどうのように関わるかも体感できる。画像の基底の話では、アダマール変換の基底が正規直交基底となることが紹介され、離散コサイン変換が、アダマール変換の三角関数版といったことがイメージできる。こうした、直交関係が語られていく中で、最後にウェーブレット変換が登場する。最後に扱うからには、最も難しいかと身構えていると、最も簡単なので拍子抜けする。また、最も歴史が浅いことにも驚かされる。数学の天才というのは、難しいものでないと真面目に取り組まないのかもしれない。

おいらが、数学で大嫌いな言葉の一つに「たたみこみ」がある。たたみこみ積分と聞いただけで蕁麻疹が出る。なぜ、こんな言葉を使うのか?本書は、言葉の説明をしているが、かなり苦心している様子がうかがえる。それは、convolutionを無理やり和訳した成果だという。結局、二つの関数の積分の仕方(合成積)を定義しているのだが、覚えるしかないらしい。おいらの脳の記憶領域は、極端にリフレッシュサイクルが短いので、辛い助言である。従って、ここではsとt-sの関係だけ押さえておこう。つまり、tだけ平行移動したものとの内積という奇妙な関係である。たたみこみ積分は、二つの関数f(s)とg(t-s)の積の積分で表されるが、代数系の性質である分配法則、交換法則、結合法則が成り立つところがおもしろい。この性質が通信分野で役立ちそうなことが感じられる。しかも、フーリエ変換の関係式を導く基礎となっているという。

本書は、こうした直交性質という数学の美しさを、気持ちの良い世界で見せてくれる。きっと、バーへ向かうベクトルとクラブへ向かうベクトルも、直交関係にあるに違いない。その証拠に、今日も夜の社交場へと気持ち良く直行するのである。

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