「本書は、短期的な視点に立った株式売買で利ざやを稼ぐトレーダー向けのものではない。また、四半期ごとの収益改善によって自社の株価を都合よく上げていこうとする経営者向けのものでもない。」
企業に存在価値を求めるということは、ひいては経営陣や従業員、株主や取引先など、その企業に携わる人たちの存在意義を問うことになり、仕事に対する誇りをくすぐるであろう。それは、哲学的な領域に踏み込むことであり、会社は誰のものか?などという次元の問題ではない。経済学の意義とは何か?と問えば、問題が大き過ぎるものの、一つの使命に価値の定量化という課題がある。
しかしながら、この定量化が貨幣換算と結びついた時、人は目の色を変える。貸借対照表には、借方と貸方という損得勘定で記載され、どうやって儲けを最大化するか?いや、どうやって価値をより高価に見せるか?に執着する。debit と credit をあの有名人が翻訳したためかは知らんが、左側と右側ぐらいの意味に捉えた方がいいと、税理士さんに助言されたものである。
経済学が社会現象を扱う一分野である以上、道徳的心理や倫理的判断を無視することはできない。近年、アクティビストと呼ばれるモノ言う株主たちが現れ、コーポレート・ガバナンスという概念が広まった。それでもなお、株式市場が企業の四半期決算に一喜一憂することに変わりはない。経済学が唱える合理性とは、精神の合理性に適ったものであろうか、はたして人間の普遍性に適ったものであろうか...
「企業価値評価」は、ビジネススクールの教科書や金融機関の研修用テキストとなり、いまや世界標準になっていると聞く。本書は、三人の著者 Tim Koller, Marc Goedhart, David Wessels に加え、監修者本田桂子と翻訳チームを含むマッキンゼー社のコンサルタント軍団が、ノウハウを共有して改訂を重ねてきた第四版。彼らは、心理学と一体化した行動ファイナンスが旺盛な時代になってもなお、市場はファンダメンタルズを反映する!という立場を変えようとはしない。実際、世界恐慌、ブラックマンデー、リーマンショックなど度重なる金融危機に遭遇しながらも、必ず落ち着きを取り戻してきた。短期マネーの買い戻しや、HFT(超高頻度取引)の乱用といったものに、恐怖におののくトレーダー心理が重なると、市場をますます不安定にさせる。だが、株価が実体から乖離することはあっても、それが数年以上続くことはあまりない。経済のファンダメンタルズから株価が乖離するのは、企業家や投資家が経済原則を無視したり、時代が変化したなどと勘違いした結果である。確かに、将来価値を見抜く力を求めたところで、これが最も難しい。
しかしながら、ここに語られる企業価値評価に対する原理は極めて単純である。まず、経営者は資本市場に振り回されず、常に自社価値を把握しておく必要があること。次に、企業価値を理論的に理解するだけでなく、事業が価値創造にどんな意味を与えるかを説明できること。そして、目先の業績よりも長期的な価値創造のために何をしているか、が問われる。こうしたことは株主にも言えるだろうし、伝統的な製造業からハイテク企業まで業種を問わず同じはず。にもかかわらず、不正会計スキャンダルは後を絶たない。隙がなければ、敵対的買収や陰謀の類いにも対抗できるはずだが...
1. 概要
財務諸表には、ROA(総資産利益率)、ROE(自己資本利益率)、営業キャッシュフローなどが記載される。純粋な事業価値を求めるためには、非事業用資産や有利子負債・資本構成が数値を歪めることがあり、直接事業に関係する収益、資産、負債を抽出しなければならない。そして、貸借対照表、損益計算書、利益処分計算書から、バリュードライバーを再構築することになる。
具体的な算定法には、主にエンタプライズDCF法とエコノミック・プロフィット法に焦点を合わせている。どちらも、重要なバリュードライバーに、ROIC(投下資本利益率)と成長率を置いている点は同じ。理論的には、DCF法が最も有効とされるが、主観的な予測に基づく弱点を抱える。DCF法が将来キャッシュフローに着目することは、正論であろう。だが、これを高い精度で予測することは困難であり、分析も複雑になる。営業フリー・キャッシュフローの減少は、業績の悪化によって生じることもあれば、将来への多額の投資によって生じる場合もあるのだから。この点、エコノミック・プロフィット法は、投下資産から創出されるリターンに着目するため、少し概念的に捉えやすい。双方とも数学的に同じ結果になるらしいが、数値を解釈する時の意味合いが違ってくるという。
一方、アナリストレポートや投資銀行の資料では、マルチプル法が多用されるそうな。時価総額を単年度の収益の何倍か、といった視点で捉えれば極めて単純化できる。実際、一般公開されるファイナンス情報には、PER, PBR, EPS といった指標が並ぶ。投資家の間では、成長株と言えばマルチプルの高い株のことを指し、そう考えられる傾向がある。
本書では、企業価値と、EBITA や EBITDA との比で分析する事例が紹介される。同業種や類似企業の比較では、成長率と ROIC の算出だけで十分ということはあるだろう。しかしながら、ROIC が資本コストよりも高く、成長している企業では、EPS の成長率も高いが、その逆は正しくないと指摘している。
また、銀行や保険会社の固有の問題から、エクイティ・キャッシュフロー法を紹介してくれる。この手の業界は、直接の生産物が見当たらず、外部からの価値評価が非常に難しい上に、業績のほとんどが個人情報で固められ、会計報告を信じるしかない、というのが実情だろう。おまけに、ビジネスモデルの性格上、レバレッジ率が高いときた!貸借対照表や損益計算書における勘定科目にしても、一般的な企業とは意味するものが違うように映る。実は、ポートフォリオのバランスを考慮して銀行株を一定の割合で保有していた時期があるが、どうしても馴染めないために完全に手放したという経緯がある。銀行株を勉強するために、この書を入手したのではあったが...
他には、有利子負債・資本構成が大きく変わる場合は、APV(Adjusted Present Value)法を用いるべきだとしている。
すぐに想像できることだが、いずれの方法も相補的な関係にあり、一つの算定法が万能というわけではない。それは、統計学が分布モデルに当てはめようとする思考法に似ている。
また、企業にとって長期戦略こそが要であり、それぞれの算定法から継続価値に意義を求めることになる。持続できない事業が、社会的に役立っているとは考えにくいからだ。いずれにせよ、企業価値創造志向で最も重要なのは、その企業を特徴づけるバリュードライバーを把握することであろう。
さらに、キャッシュフローの予測期間と企業価値の関連性はない!と主張していることにも注目したい。競争が優位にある期間はリターンが通常よりも多く、年毎にキャシュフローを予測した方が合理的という考えがある。これは、初期は資本コストを上回る利益を上げ、徐々に投下資産に対する収益率が資本コストの水準まで減少する、という経済原則に基いている。確かに重要な原則ではあるが、ROIC を過信して企業価値と結びつけることは危険であろう。
2. エンタプライズDCF(Discounted Cash Flow)法
エンタプライズDCF法は、企業のキャッシュフローに純粋に注目していることから、学者や実務家が好むという。企業価値が将来キャッシュフローによって決定されることは正論であろう。そのキャッシュフローは投下資産に対するリターンと成長性で決まる、ということが基本原則としてある。ただ、将来キャッシュフローが正確に算定できれば無敵であろうが、将来予測が主観的であることは否めない。
「DCF法による企業価値評価の精度は、将来予測の良し悪しにかかっている。多くの場合、財務諸表の細かな検討に追われ、経済のファンダメンタルズの分析を忘れがちになる。企業価値は、ROICと成長率によって決まる。したがって、ROICと成長率を、業界全体のエコノミクスと関連づけて予測すること、また、予測した内容を過去の実績と比較検討することが非常に重要なのである。」
算定手順は...
- 事業から生み出される営業フリー・キャッシュフローをWACCで割り引き、事業価値を算定する。
- 短期保有目的の有価証券、非連結子会社株式、その他の資本投資などを含む非事業用資産の価値を算定する。この非事業用資産の価値と、事業価値の合計が当該企業の企業価値となる。
- 資産に占める有利子負債などの株主以外に帰属する価値を特定する。固定金利や変動金利による借入金、年金の積立不足分、あるいは、従業員向けストックオプションや優先株式なども含む。
- 企業価値から上記3の価値を除いたものが、普通株主に帰属する株主価値となる。1株当たりの価値は、この株主価値を発行済株式数で割って算出する。
キャッシュフローの成長率が一定だと仮定すると、基本的な算定式は次にようになる。
企業価値 = | 営業フリー・キャッシュフローt=1 資本コスト - g |
営業フリー・キャッシュフロー = NOPLAT - 純投資額
純投資額 = 投下資産t+1 - 投下資産t
ROIC = NOPLAT / 投下資産
投資比率 = 純投資額 / NOPLAT
g = ROIC x 投資比率
純投資額 : ある年の投下資産の純増減額 NOPLAT : みなし税引後営業利益 ROIC : 投下資産利益率 WACC : 有利子負債・株主資本の税引後の加重平均資本コスト g : 成長率
売上高とNOPLATが一定の比率で成長し、毎年NOPLATのうち、同じ割合を事業に再投資すると仮定すると...
企業価値 = | 営業フリー・キャッシュフローt=1 WACC - g |
営業フリー・キャッシュフロー = NOPLAT - 純投資額 = NOPLAT - (NOPLAT x 投資比率) = NOPLAT x (1 - 投資比率) = NOPLAT x (1 - g / ROIC)
そして、企業価値のバリュードライバー式が得られる...
企業価値 = | NOPLATt=1(1 - g / ROIC) WACC - g |
3. エコノミック・プロフィット法
算定結果はDCF法と同じでも、企業がどのように創造するかに着目するのが、エコノミック・プロフィット法だという。DCF法で用いる営業フリー・キャッシュフローは、企業の各年の業績を把握するのに適さないが、エコノミック・プロフィットは適しているという。
エコノミック・プロフィットとは、ある期間に企業が創造するみなしの価値を測るもので、以下のように定義される。
エコノミック・プロフィット = 投下資産 x (ROIC - WACC) = NOPLAT - (投下資産 x WACC)
そして、価値算定式は...
企業価値 = 投下資産 + 将来のエコノミック・プロフィットの現在価値の総和
価値0 | = 投下資産0 + | 投下資産0 x (ROIC - WACC) WACC - g |
= 投下資産0 + | エコノミック・プロフィット1 WACC - g |
一般的には、次のように定義される。
価値0 = 投下資産0 + | ∞ ∑ t = 1 | 投下資産t-1 x (ROICt - WACC) (1 + WACC)t |
ただし、エンタプライズDCF法と算定結果を同値にするためには、以下の点に留意しなければならないという。
- 投下資産は、期首のものを使う。つまり、前期末の投下資産額。
- エコノミック・プロフィットとROICの計算には、同じ投下資産額を使う。
投下資産をどう定義するかよりも、一貫性を保つことの方が重要であろうか。こうした会計上の感覚はとっつきにくいものがあるが、貸借対照表を書き慣れれば少し分かってくる。
4. 資産評価モデル CAPM
最も一般的な資産評価モデル CAPM を紹介してくれる。
E(Ri) = rf + βi [E(Rm) - rf]
E(Ri) : 株式iの期待収益率 rf : リスクフリー・レート βi : 市場と株式の連動性 E(Rm) : 市場全体の期待収益率
CAPMでは、リスクフリー・レートとマーケット・リスクプレミアム(E(Rm)との差で定義されるのは、全企業に共通でβのみが企業によって異なるからだという。これは確かな理論に基いているらしいが、実際の適用法につていは具体的に呈示されていないのだとか。そこで本書は、次のように提案している。
- 先進国のリスクフリー・レートを推定するには、10年満期のゼロクーポン・ストリップス債など、流動性の高い長期国債を利用する。
- 過去の平均値と将来の予測を踏まえ、現在のマーケット・リスクプレミアムは、4.5 から 5.5 の範囲が妥当と考えられる。
- 企業のβを推定するには、アンレバード・ベータ(有利子負債がない場合のベータ)の業界平均を求め、それを当該企業の目標とする有利子負債・資本構成に応じて変換する。
リスクフリー・レートの推定では、債務不履行リスクの小さい国債の最終利回りを参考にする、という考え。マーケット・リスクプレミアムの推定では、なるべく長い期間で算術平均する、という考え。しかし、これだけでは心許ない。マーケット・リスクプレミアムの予測はある程度可能だろうが、やはり確率論に頼ることになろう。いずれにせよ資産管理は、金儲けの手段ではなく、いかに資産を守るかという問題である。それを、盲目的に国や行政、あるいは金融機関に委ねていいのか?これまた生き方の問題である。
5. ペッキングオーダー理論
ファイナンスの世界には、資本と有利子負債の間にトレードオフの関係があるという見方に代わり、ペッキングオーダーがあると主張する学派があるという。企業が投資をする際、まず内部の資金を内部留保から利用し、次に社債を発行し、最後に株式を発行するというもので、資金調達手段においてコストの低いものから順番に選択していくという考えである。至極当然のようにも思えるが、安物買いの銭失いとなって、結局コストが高くつくということもあろう。
その一つの原因に、投資家は経営者の財務上の意志決定を社会に対するシグナルとみなすという点を指摘している。例えば、株式が発行されれば、投資家は、経営者が自社株が過大評価されていると考えいてると解釈したり。よって、理性ある経営者は、株式による資金調達が株価下落の原因となることを考慮し、株式発行を最後の手段とするという。
社債についても理屈は同じだが、株式よりは財務上の影響が小さい。この理論では、企業の成熟度が増し、収益性が高くなっていくと、内部で資金調達ができ、社債や株式による資金調達が不要になるという単純な理由で、レバレッジが低くなると考える。
しかしながら、実証的証拠はないと指摘している。例えば、潤沢なキャッシュフローをもつ成熟企業は、最もレバレッジが高い企業群に属するが、ペッキングオーダー理論では、この種の企業はレバレッジが最も低い部類に属すという。また、ハイテク新興企業は有利子負債の比率が多くなるとされるが、実際は最もレバレッジが低い企業の部類に属すという。
確かに、こうしたシグナルは短期的に株価を変動させるが、本質的な価値を増減するものではなさそうだ。資本市場に何らかの期待を抱かせれば、遅かれ早かれ期待に応える必要があり、過度に楽観的なシグナルを送れば期待はずれとなる。
「上場企業の場合、有利子負債・資本構成の決定が、将来見通しに関するシグナルを資本市場に送ることになる。投資家は、当該企業の事業、財務の真に見通しについて、経営者は投資家よりも多くの情報をもっていると考えている。もちろん経営者は、投資家に直接見通しを発表できるし、実際そうしているのだが、投資家は言葉よりも行動を信用する傾向がある。このため社債の発行や償還、増資や自社株買い、配当について決定が下されると、それが財務見通しについての何らかのシグナルではないかと考える。そこで、有利子負債・資本構成を調整する前には、このシグナル効果を意識しておく必要がある。」
6. クロスボーダー
外国企業の価値評価では、各国の会計制度の違い、国際税務、外貨建てによる指標換算、そして、為替リスクなども考慮しなければならない。ただ、各国の会計制度の相違は、急速に減少しているようだ。グローバル・スタンダードとして、IFRS(国際財務報告基準)や、GAAP(米国会計基準)を採用している国が多く、この二つの会計基準の統一化が急速に進められているという。
しかしながら、企業評価には、過去の業績に長期間遡る必要があるので、当時の会計基準の相違が問題となる。デリバティブについては、両基準とも金融資産とみなし、貸借対照表上に時価で記載するという。過去に遡れば、このような扱いをしていた企業はほとんどなかっただろうけど。
ただ、両基準とも、デリバティブ商品の時価変動による損益への影響を回避するためにヘッジ会計を適用することは可能だという。特定の条件が満たされた場合に限られるとしながらも。
引当金については、両基準とも、将来の営業損失を補填する目的の積み立てを禁止する点では、類似しているようだ。赤字が続けば、繰入が認められる引当金はありがたいが、計上のタイミングで微妙に違ってくる。引当金の乱用は、企業価値を歪めることになり、活用に制限が加えられるのは道理である。リストラ関連の引当金の計上には、負債としての定義を満たさなければならないし、損失をどう定義するかは会計上の問題となる。
また、法人所得や配当への課税方法は国によって異なり、近年、法人税が国際競争力の足枷となることが問題視されている。経済特区などで法的、行政的、税務的な優遇や規制緩和の措置を受ける場合は、企業にも勢いを感じるが、こうした条件は政治的リスクに曝されるかもしれない。
多くの国で、連結納税制度が採用され、企業損失との相殺によって節税ができる。多国籍企業が多重課税問題を抱えているとは限らず、国際租税条約によって、課税免除や税額控除などで国家間の合意がある。海外子会社の利益は、国内では課税されないなど。
実際、Amazon や Google などの巨大多国籍企業が、国家間の税制の違いを利用して節税を行っていることが問題視される。それでも、国内のグループ企業間の連結納税が認められていても、国をまたがると認められないということもあるようだ。
配当やキャピタル・ゲインへの課税方法の違いは、株主への実効税率にも影響を及ぼし、法人税と所得税で二重に課税されるケースもある。
為替リスクについては、市場がグローバル化したとはいえ、外貨のままで取引する方が賢明な場合も少なくない。ネット社会ともなれば、国内市場にこだわらなくても、自由に市場を選択できる。上場している主だった企業は他の主だった国でも上場しているし、保守的に考えれば、他国に上場していない銘柄をポートフォリオから除外するという考え方もあろう。外国企業の価値評価を行う際に為替リスクを懸念して、ヘッジ取引に頼るというやり方もあろうが。為替リスクは、企業のファンダメンタルズよりも、各国経済のファンダメンタルズに影響するということも考慮する必要がある。
7. コングロマリット・ディスカウント
古くから、コングロマリット・ディスカウントという議論がある。多角化した企業は、特定領域の事業に専念している企業と比較して、総合的な価値がディスカウントされるという考えである。
しかし、これはコンセンサスになっていないと指摘している。むしろ、プレミアムが上乗せされるという考えもある。確かに、奇妙なブランドイメージが作られたり、一見無関係に見える事業でも想定外の関連性を持つことがある。事業部間で内部取引による効率性もあり、その相乗効果は外からは見えにくい。単純に考えれば、各事業部ごとに価値算定を行い、それらを合計して企業価値を求めることになろうが、必ずしもそれが妥当とは言えないだろう。
8. 日本企業の構造的特徴
本書は、事業価値に非事業用資産を加えたものを企業価値とし、そこから有利子負債を差し引いたものを株主価値としている。しかし、日本企業の場合、事業価値、企業価値、株主価値の構成には、二つの特徴があると指摘している。
「第一の特徴は、非事業資産が大きいこと。」
老舗企業ともなると非事業資産が事業価値よりも上回ることが多いという。欧米企業ではあまり見られない傾向である。非事業資産には、まず、持ち合いの株式があり、メインバンクや取引先の株をかなり保有している。次に、余剰現預金、現預金、あるいは流動資産に含まれる有価証券など。企業が経営上安定していれば、余剰金の使い方には2通り考えられる。配当ないしは自社株買いを通じて株主に還元するか、来るべき成長への投資のために内部留保するか。日本企業は、将来に備えて内部留保を厚くすると、よく指摘される。おまけに、若干の遊休不動産を保有すると。
「第二の特徴は、有利子負債・資本構成が、総じて事業固有のリスクを反映したものになっていないこと。」
欧米では、営業フリー・キャッシュフローのボラティリティに反映される事業リスクと、資本コスト最小化を鑑みて、最適な有利子負債・資本構成を設定するという。そして、その目標に向けて資金調達の調整と自社株買いを行う。
一方、日本企業は、さすがに無借金企業礼賛こそなくなっているものの、有利子負債・資本構成の目標を明確にしているところは皆無だという。負債によって利益を計画的に拡充できるならば合理的となるが、借金に対する偏見があるのも確かである。敵対的買収に対して抵抗があるのは欧米とて同じだろうが、日本の経営者の多くは買収という言葉を極端に毛嫌いする傾向がある。従業員も顧客も幸せになれるのなら、経営的合理性となろうが...
ところで、日本国債が破綻しないのは、経済界の七不思議と言われているかは知らんが、こうした保守的な国民性が、デフォルトのリスクを相殺しているということはあるだろう。なにも企業の価値観までも欧米に合わせる必要はないし、市場の多様化こそ世界経済のリスクを分散することになろう。確かに、若年層が多く、活気溢れる市場は羨ましい。だからといって、高齢化社会にも市場的な役割がある。投資家から見れば面白みがないものの、安定した市場は金融リスクが高まった局面で資金の逃避先となる。リカードが比較優位理論で示したように、絶対的な市場価値よりも、相対的な市場価値を求めるという考えもあろう。
ただし、過激な金融刺激策によって、デフォルトのトリガを弾きかねない水準にあることは否めない...
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