2018-12-23

"ほろ酔い文学事典 - 作家が描いた酒の情景" 重金敦之 著

なにゆえ、腐った飲み物に... なにゆえ、腐らせる技術に... 著作権先進国の原産へのこだわりときたら... しかも、長く置くほど味わい深いときた。人間の魂も腐ったぐらいの方が味がでるのやもしれん...
こいつに酔うの簡単だ。しかし、ほろ酔うとなると侮れない。上品に格調高く酔うには修行がいる。作家どもは、自ら仕掛けた文章で自己陶酔に浸る。この世界では、酒と女について書けるようになったら一人前らしい。美酒に酔うのも、美女に酔うのも、同じ道というわけか。ただ、どちらに身を委ねるにしも危険がつきまとう。酔うのも溺れるのも紙一重。薬草系のリキュールでも身を滅ぼすことがあり、アブサンともなれば人間失格へまっしぐら。酒はよく口説きの道具とされるが、どちらが道具にされているのやら...
もはや清酒で心を清めても無駄だ。蒸留して不純物を取り除いても無駄だ。文壇では高貴な感受性を持った連中が、グラス越しにエクスタシーを語り合ってやがる。言葉を巧みに操る達人ともなれば、ぶらっと酔いどれ紀行の中に、下品きわまりない隠語をさりげなく盛り込むのもお手の物。どうやら文学の原酒は官能小説にありそうだ。
ちなみに、あるバーテンダーが能書きを垂れていた... 「酒に落ちる」と書いて「お洒落」と... 棒が一本足らんよ。

「どうせいつ死ぬか知れぬ命だ。何でも命のあるうちにして置く事だ。死んでからああ残念だと墓場の影から悔やんでも追付かない。思い切って飲んで見ろと、勢よく舌を入れてぴちゃぴちゃやって見ると驚いた。何だか舌の先を針でさされたようにぴりりとした。人間は何の酔興でこんな腐ったものを飲むのかわからないが、猫にはとても飲み切れない。」
... 漱石「吾輩は猫である」より

1. 食事の序曲
アペリティフにまつわるイベントは各地で見られる。フランス農水省は、2004年から6月の第一木曜日を「アペリティフの日」と定めたそうな。ワインを世界各地に広めようと。京都市では、2012年に「乾杯は清酒で」という条例が制定されたという。日本文化を促進しようと。鹿児島や宮崎や熊本の町でも、焼酎での乾杯を推進する条例があると聞く。焼酎も忘れてもらっちゃ困るとばかりに。
日本のサラリーマン文化には、とりあえずビール!という慣習がある。「とりあえず」という枕詞は、食前酒の地位を確立している証拠。それにしても、接待ビールのお酌は苦い!
ちなみに、酔いどれ天の邪鬼は、食前酒から純米系か、モルト系に走る。アルコール許容量が小さいので、最初から全力投球せざるをえない。前戯も、本ちゃんも、後戯も、いつもヘロヘロよ。そして、ピロートークに走るのさ...

2. 政界にまつわる隠語
酒といえば、アングラなイメージがあり、どこの国でも法律で厳しく規制される。禁酒法の時代には密輸が横行し、戦後の日本では闇市で売買された。高度成長時代には、洋酒を「舶来品」などと呼んで高級なイメージを与えていたが、おいらの世代には、気取っているようで嫌味に聞こえる。今ではジャパニーズ・ウイスキーにも高級なものを見かけ、若い人たちに舶来品なんて言葉は通じないだろう。
さて、1964年、自民党総裁選挙を巡ってのお話...
三選を目指す池田勇人と対抗馬の佐藤栄作は、事実上の一騎打ち。激しい選挙運動のさなか、実弾(現金)が乱れ飛び、様々な隠語が生まれたという。うまいことを言って二派から金を貰うのが「ニッカ」、三派から頂くのが「サントリー」、調子よく各派から貰うのが「オールドパー」と言うそうな。オールド(old)とオール(all)を混同したのか、あるいは、洒落たのかは知らん。パーは白票やチャラを意味するという説もある。もらうだけもらって、いざ投票となると洞ヶ峠を決め込むという寸法よ。オールドパーは当時の最高級ウィスキー、まさに舶来品である。政界を生き抜くには、勝ち馬に乗るのが最も賢明という構図は、いつの時代も変わらない。こと政界においては、人間の腐らせ方は難しいと見える...

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