おいらが美少年と呼ばれていた中高生時代、ブルーバックス教に嵌っていた記憶がかすかに蘇る。なんといっても分かった気にさせてくれるのがいい。そして今、行き詰まった設計作業を尻目に、初心者向けの宇宙論で気分転換といこう...
宇宙創生を記述する有力な仮説と目される「インフレーション理論」は、1980年代のはじめ、佐藤勝彦氏とアラン・グース氏によって提唱された。数学的に表現するならば「指数関数的膨張モデル」といった具合になるが、インフレーションの名はグースの命名センスによるものらしい。
この理論の前にも有力視された宇宙モデルがあった。「ビッグバン理論」がそれである。しかしながら、平坦性問題や地平線問題、あるいはモノポールの発生となると説明がつかない。宇宙の創生モデルを構築するには、どうしても特異点が避けられないのである。
ここで言う特異点とは、密度の無限大や温度の無限大などで物理法則が破綻することを意味する。宇宙が膨張しているということは、時間を逆に辿ると、空間がどんどん小さくなり、エネルギー密度がどんどん高くなり、宇宙の始まりを点とした場合、ついにはエネルギー密度が無限大になってしまう。
つまりは、物理法則を超越した概念を必要とし、キリスト教の言う、神の一撃!ってやつに縋るしかない。もちろん科学者の立場としては許しがたいことだ。
本書は、ビッグバン理論で説明できない難題に対して、「超大統一理論」が重要な鍵になることを物語ってくれる。物理学には、もともと四つの力を記述する理論がある。質量を持つものの間で働く重力、電荷を持つものの間で働く電磁気力、クォークの結合や原子核を形成する強い力、中性子のベータ崩壊などを引き起こす弱い力と。これらの力の性質があまりにも違いすぎれば、統一理論にも段階が生じる。電磁気力と弱い力は、電弱統一理論としてすでに完成。あとは、これに強い力を加えた大統一理論、さらに、重力を加えた超統一理論を待つばかり...
注目したいのは、宇宙の進化の過程において、生物の進化と同じように、物理法則が枝分かれしていったという説である。現在、観測される加速膨張は、「第2のインフレーション」と呼ばれている。
まず、宇宙の始まりが点だとすれば、その点はどこから来たのか。それはトンネル効果で説明される。トンネル効果とは、電子が本来通過できないはずのところ、すなわちポテンシャル障壁を、ある確率で通過してしまう現象である。どこか別の空間から、電子が突然わいて出たってか。となると、一つを意味するユニバースという宇宙像も、マルチバースへと想像が膨らむ。ブラックホールが別空間の入口で、ブラックホールの数だけ宇宙があるってか。
次に、点から次元へ拡大していったとすれば、人間の認識能力が「三次元 + 時間」に幽閉されるのは、宇宙年齢からすると、かなり初期の段階で DNA の分子構造が形成されたということであろうか。そして、人類の住む宇宙の次元はさらに多様化し、物理法則も多様化していくのだろうか。超ひも理論は、10次元や11次元を唱えれば宇宙が説明できるとか言っている。
ただ、法則までもがあまりに多様化してしまえば、それは法則と呼べるものなのだろうか。いずれ、人間社会のように法則も役に立たなくなるってか。人間の認識能力が、ある物理法則の系に幽閉されていることは、幸せな空間を生きているということかもしれない。宇宙の未来像がいくらでも想像できるのだから。少なくとも、光速が絶対的な物理量として君臨している間は。そして、人間の目で真の光が見えた時、宇宙の正体を見るであろう。そこで神を見るのか、悪魔を見るのかは知らんが...
ところで、物理学には、なんだか分からないけど、あると便利な概念が数多ある。数学が編み出したマイナスやゼロといった概念は、もともとは仮想的な量であった。計算する上で、実に都合にいい便宜上の存在だったのである。やがて、マイナスは家計の赤字などと結びつき、ゼロは財産の果敢なさなどと結びついて、すっかり実感できる物理量となった。日常生活では自然数だけで十分であったはずが、引き算や割り算をやれば整数や有理数が必要となり、実数がなければ建築物も建てられない。演算によって系が閉じられないという現象が数の概念を拡げていき、物理量に拡大解釈をもたらしてきたのである。
人間が認識する上で最も存在感を示す量といえば、時間と空間であろう。こいつらときたら、自己存在を強烈に意識させやがる。カントはアプリオリと呼んで特別な量として論じ、物理学ではセットにして時空という量で扱う。古代人は星々を眺めながら自己認識を中心に、人類の住む宇宙とはどんな存在か?そこに存在する天体や生命体はどうやって誕生したのか?宇宙の誕生と終焉はいつか?などと問い、様々な宇宙モデルを描いてきた。近代物理学はこの伝統を受け継ぎ、今なお宇宙モデルをあれこれ想像しているところである。だからといって、物質界で説明ができないとなれば反物質なるものを登場させ、まったく何も存在しないはずの真空にも僅かなエネルギーがあると主張しては宇宙を膨張させ、おまけに、虚時間を想定しては宇宙創生前の時間までも扱えってしまうとは。プラスの現象にはマイナスの概念を仮定して相殺してしまえば、エネルギー保存則に矛盾せず説明できるという寸法よ。観測結果に合わせて概念を生み出しているとすれば、それは科学なのだろうか...
1. 真空の正体
力の統一理論では、「真空の相転移」という概念があるそうな。相転移とは、水が氷になるように、物質の性質(相)がある条件で突然変わること。生命の進化では、突然変異といったものがあるが、真空ではこれに相当するものらしい。宇宙の初期段階において、温度が急激に下がったことで真空の相転移が起こり、空間自体の性質が変化したという。
すると、真空での力の伝わり方も変わっていく。そのような相転移が次々に起こり、重力が枝分かれし、強い力が枝分かれし、電磁気力と弱い力が枝分かれしていったとか。
例えば、水は温度が下がると氷になる。水の状態では、分子はどの方向にも自由に動き回ることができるが、氷の状態では、格子状の結晶となって方向性を持つようになる。こうした相転移で対称性の破れが生じると、「潜熱」という熱エネルギーが生じる。こうした現象が、インフレーション理論では鍵になるという。相転移の事例として、超電導を紹介してくれる。
ところで、真空とは、特別な空間のようである。真空とは、まったく空っぽな状態を言うはずだが、量子力学ではそうは考えない。粒子と反粒子がペアで存在し、普段は相殺してエネルギー的には何も無いような状態である。
例えば、電子には陽電子がセットになって対生成と対消滅を繰り返し、ゆらぎとなって現れるといった具合。おまけに、こんな法則を持ち出されては...
「真空のエネルギーは不思議なことに、宇宙がどんなに大きく膨張しても、密度が小さくなることがないのです。」
真空のエネルギー密度が小さくならないとするならば、空間が広がると、真空中のポテンシャルエネルギーは増大してしまうではないか。宇宙ってやつは、真空にこそ最大の潜在的な熱エネルギーを溜め込んでいるというのか。そして、それが無から明るみになった時、宇宙が真の正体を現すというのか。通常は、無の状態で沈黙が守られていて、滅多に正体をお見せすることはないようだけど。真空に潜むダークマターってやつは、神か?それとも悪魔か?いまや真空の定義を再定義しなくては...
「宇宙は、真空のエネルギーが高い状態で誕生しました。その直後、10のマイナス44乗秒後に、最初の相転移によって重力がほかの三つの力と枝分かれをします。いわゆるインフレーションは、そのあと10のマイナス36乗秒後頃、強い力が残りの二つの力と枝分かれをする相転移のときに起こりました。真空のエネルギーによって急激な加速膨張が起こり、10のマイナス35乗秒からマイナス34乗秒というほんのわずかな時間で、宇宙は急激に大きくなりました。その規模は、10の43乗倍とされています。」
2. 人間原理
宇宙法則を知れば知るほど、「人間原理」なんてものを想像せずにはいられない。そう、人間都合のデザイン論である。
古代の戦争では、皆既日食という現象が歴史を変えてきた。月の大きさと距離、太陽の大きさと距離、これらの絶妙な配置がなければ、皆既日食なんて怪奇な現象は起こらない。月の軌道のおかげで地軸の傾きを安定させ、季節の周期を安定させ、生命の誕生する可能性を示唆する。地球の絶妙な大きさと重力が生命体のバランス維持に寄与する。こうした偶然性は何を意味するのか?誰かが意図したのか?
おまけに、宇宙法則には、様々な物理定数が介在する。光速、重力定数、プランク定数、ボルツマン定数... これらの数値を眺めていると、人間が誕生するように調整されているかのように思えてくる。電磁気力の強度法則をちょいと変えるだけでも、生命は発生しないだろう。α粒子の結合力をちょいと弱めるだけでも、トリプルアルファ反応のような核融合は起こらないだろう。
物理法則には、人間が宇宙の観測者という特別な存在であると信じるに事欠かない。宗教は、神は人間を創造するように宇宙を設計なされた... と唱えるが、科学も負けじと、なかなかの宗教ぶりを発揮する。人間が生きるには、信念や信仰を必要とする。知的生命体に概して備わる性癖なのかは知らんが。精神という能力を獲得し、かつそれを実感でき、しかもその正体を知らないとなれば、それも致し方あるまい。すべての現象をいかようにも解釈できるおめでたい存在となれば、やはり神の仕業か。そして今、巷を騒がせているダークエネルギーは、人間にとって都合のよい量なのだろうか。おそらく究極の物理法則が編み出された時、その方程式の中に定数といった数値は現れないのであろう...
「もしも、宇宙の創生から進化までがすべて物理学の法則にもとづいて決められているならば、宇宙創造において神が自分の意図で何かを選択する余地はない。しかし、もしも神が物理学を超えたものであるならば、神に選択の余地はある。」
3. ポテンシャルエネルギーって...
ところで、学生時代から、なんとなく腑に落ちない物理量がある。ポテンシャルエネルギーってなんだ?人間にも潜在的な能力があるようだ。まだ覚醒していないだけで...
人間が自己存在を最も認識できる物理量といえば、重力であろう。重力を前提としたポテンシャルエネルギーは、位置エネルギーと呼ばれる。物体は高い位置にあるほど、落下した場合に生じる力が大きい。ただ、落下しなければ、何も生じない。
では、真空のポテンシャルエネルギーってなんだ?どこに落下するというのか?それがブラックホールなのか?ブラックホールに出会わなければ、エネルギーは眠ったままなのか?そのまだ目覚めていない物質が、巷を騒がせているダークマターってやつなのか?もし仮に、真空中に膨張すれば働くであろうエネルギーが潜在的に存在するとすれば、それは真空と呼べるものなのか?もはや、真空という用語を再定義しなければ... などと言えば、エーテル説に回帰し、潜在力とともに地獄にでも落ちるさ...
2019-03-03
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