2024-06-09

"歴史を変えた 6 つの飲物 - ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語るもうひとつの世界史" Tom Standage 著

トム・スタンデージという人は、ちょいと風変わりな視点から歴史を物語ってくれる。それは、喉の乾きの物語。人体の三分の二は水からできており、水分の補給はそのまま死活問題となる。
しかし人類は、文明の歩みとともに水以外の飲み物を発明してきた。文化の尺度に水質が挙げられるが、水以外の飲み物にも文化の成熟度が見て取れる。
ここで注目する飲み物は、三つがアルコール、三つがカフェイン。ぞれぞれの出現に、農耕の始まり、王朝や貴族のステータス、裏社会との結びつき、大量生産と大消費主義の動機づけなど、人類の一万年の歩みを概観させてくれる。ただ、良き水がなければ、良き飲み物も叶わない。
結局、原点回帰へ導かれ、老子の言葉を引く... 上善、水の如し!
尚、新井崇嗣訳版(インターシフト)を手に取る。

水以外の飲み物では、まず醸造物がある。それは、神からの賜物か...
農耕をやれば、農作物の自然発酵を観て、醤油や味噌、そして酒の作り方を学習する。主だった醸造酒では、ビールは麦芽を発酵させ、ワインはブドウの果汁を発酵させ、日本酒は米を発酵させて造る。発酵とは、言わば、うまいこと腐らせること。文化の尺度に腐らせ方の技術を見る。人間も、腐らせ方が問題か。うまく腐らせれば、熟成する。

「銃器および伝染病と並び、蒸留酒は旧世界の人々が新世界の支配者になる手助けをすることで、近代世界の形成に寄与した。蒸留酒は、数百万の人々の奴隷化および強制的移動、新しい国家の建国、土着文化の征服の一翼を担ったのである。」

社交場におけるビールの役割は、メソポタミア文明やエジプト文明にも記述が見つかるそうな。ワインともなると、古代ギリシア・ローマ時代に、その飲み方で人間性が格付けされたとか。大航海時代になると、長い船旅で保存性を求め、醸造酒を蒸留してウィスキーに価値を見い出す。世界各地の植民地では、その地域に適した蒸留酒が生産された。そして、アメリカ建国にラム酒が一役買ったのだった。蒸留酒の流通は、グローバル経済の幕開けを予感させる...

「ニューイングランドは、その富の主な源であるラム酒をフランス領の島々の安価な糖蜜で作った。彼らはラム酒で奴隷を買い、メリーランドとカロライナで働かせ、イギリスの商人たちへの負債を支払ったのである。」
... 合衆国大統領ウッドロー・ウィルソン

酒宴の場は、あらゆる論議を活性化させてきた。プラトンの「饗宴」に浸れば、哲学論議もお盛ん...
しかし、酒は強い人と弱い人、飲める人と飲めない人がいて、とても平等とは言えない。悪酔いすれば、頭痛が...
頭をスッキリさせたければ、カフェインか。そこで、コーヒーハウスの出現。男女を問わず、階級を問わず、粋な男に、コケティッシュな女に、聖職者に、ジャーナリストに、作家に、詐欺師など、あらゆる人種が集まり、政治、経済、哲学、技術などあらゆる分野で談話の場となる。本格的な情報社会の到来か...

コーヒーが情報社会を発展させたとすれば、世界征服を覚醒させたのは、お茶ってか。大英帝国に発する帝国主義の野望は、イギリスへ茶を供給する東インド会社の独壇場に発するという。その税収によって、政治的影響力を増大させていく。多国籍企業の先駆けか。茶の栽培からケシの栽培まで、その供給ルートを独占すれば、アヘン戦争へ導かれる。茶の物語は、産業革命から帝国主義へ至る物語というわけか。
イギリスでは紅茶がもてはやされ、これに高級志向が絡むと、差別意識を助長させる。紅茶のまろやかさに浸れば、誰もが王族気取り。その感覚は、スコッチやブランデーにもお見受けする。こうした文化の優越感が、民族主義や国粋主義を覚醒させていったとさ...

そして、大量生産や大消費主義を象徴するのが、コーラというわけである。カフェインにコカインとくれば、コカ・コーラに資本主義のエッセンスを見る。21世紀の現在でも、超エリートの政策立案者たちは、消費を煽る経済政策しか打ち出せないでいる。
水の浄化技術が貧弱な時代には、水以外の飲み物が求められた。水質汚染に正面から立ち向かうことのできる技術革新の時代となれば、問われるのは、まさに水の質ということに...

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