2022-03-06

"量子が変える情報の宇宙" Hans Christian von Baeyer 著

原題 "INFORMATION : The New Language of Science..."


かつて人類は、宇宙観を力で語り、エネルギーで語り、そして今、情報で語ろうとしている。物理量では、重力を通して質量ってやつが幅を利かせ、これほど自己存在を強烈に意識させるパラメータはあるまい。
自己主張の旺盛な現代社会において、存在感の可視化はそのまま精神上の問題となる。体重計の上でいくら軽い存在を演じようとも、存在感では重みを求めてやまない。そして今、情報媒体における露出量が存在感に重みを与える。
一方で、騒々しい集団に埋もれながらも、存在の自由を静かに謳歌できる人たちがいる。情報の本質に希少性というものがあるが、彼らこそ密かに希少価値を高めるのやもしれん...


Big Question !
これは、科学界に古くからある神託めいた問い掛けである。宇宙はいかにして誕生したか?人類とは何者か?そして、どこから来、どこへ行くのか?... といった類いの。それは、存在の意味を求めてきた旅と言おうか。いや、解釈をめぐる旅と言おうか...
物理学の研究対象は、天文学から、運動力学、電磁気学、量子力学へと巨大な空間から微小な空間へ迫り、宇宙を構成する物質の根源を探求してやまない。
理解できなければ、それをバラバラにして構成要素へ還元せよ!
人間の理解力には、還元主義的な思考が備わっており、しかもそれは、認識能力との折り合いにおいてなされる。
認識できるものすべてに意味を与えようとは、人間の性癖にも困ったものである。それは、自己存在に意味を与えるための布石か。そもそも、科学者や哲学者が追い求めてきた実在なんてものは、人間認識の産物に過ぎないのやもしれん...
尚、水谷淳訳版(日経BP出版センター)を手に取る。


「物理だけを扱う物理理論は、物理さえも説明できない。私が信じるに、宇宙を理解しようとすれば、同時に人間も理解しなければならない。物理世界は深い意味で人間と結びついている。」
... ジョン・アーチボルト・ウィーラー


情報ってやつは、意味を与えて価値が生まれる。では、何が意味を与えるのか?
人間が、意味ある生き方をするのは難しい。ましてや自分自身で自己に意味を与えるとなると、自己満足から自己陶酔へ、自己肥大から自己欺瞞へ導きかねない。
そもそも、何事も意味を与えないと理解できないものであろうか。情報理論の父クロード・シャノンは、情報という用語の意味を問わず、ひたすら情報の量に着目して、これを定量化する数式を編み出した。対数の底が 2 であることは、Yes か No か、表か裏か... といった二択配列と関係することを暗示し、情報の基本構造がデジタル的であることを示している。
情報量と 2 の冪乗数は、すこぶる相性がいい。0 が認識できるということは、1 をも認識できることを意味する。善を認識すれば、悪をも認識せざるをえない。すべての認識は二項対立の関係から同時に生じ、こうした特性は、相対的な認識能力しか発揮できない知的生命体の限界であろう。
エントロピーを定式化したボツルマンにしても、合理的な通信符号を発明したモールスにしても、情報自体の意味は問わなかった。ただ、統計学を変革したベイズのような実用的な感性が、情報の事象に対して主観確率なる視点を与えている。
情報は扱い手によって、意味を与える。それが人間であろうが、機械であろうが。実際、情報はただ右から左に流れていくだけにもかかわらず、ある種の有機体のように振る舞い、人々に多大な影響を与える。


情報の意味を問わず、情報の量を問う。これは、人間にとって何を意味するのだろうか?Big Question に加えたい問い掛けである。
そして、それは(IT)、BIT からなるのか?いや、QUBIT からなるのか?量子への問い掛けが、宇宙解明への道となるのか?と。人間ごときが、生と死を同時に体現する量子の多重人格症に問い掛けたところで、精神分裂症を患うのが関の山であろうけど...


「情報という概念が過去数百年をかけて徐々に姿を現してきた様子は、同時に抽象的な量であるエネルギーが十九世紀半ばに誕生した様子とは、著しく異なっている。エネルギーは、二十年という短い期間に、考案され、定義が与えられ、物理学の基礎として確立し、そしてあらゆる科学の礎となった。我々は、情報が何ものかを知らないのと同様に、エネルギーが何ものであるかも知らないが、それでもそれを、新しい厳密な科学的概念として正確な数学的用語で記述し、また商品として測定し、売買し、規制し、課税することができる。情報もまた売買や規制の対象になりつつあるが、それ自体はエネルギーとは大きく異なり、また主観性の趣を呈しているがゆえに、定義するのもエネルギーよりはるかに難しい。」

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