2007-11-18

"高校数学でわかるシュレディンガー方程式" 竹内淳 著

本書は、前々記事、前記事に続き、「高校数学でわかる!」という呪文の三つ目の罠である。高校まで数学が得意だったと錯覚していたアル中ハイマーは、このブルーバックスの企画にいちころである。

前書きに、量子論でやさしさを追求した本は、シュレディンガー方程式に触れられないのが普通であるという。一方、シュレディンガー方程式を解説する本では、難し過ぎる傾向があるとも述べている。どうやらこの分野では、シュレディンガー方程式までたどり着ける人は限られるようだ。本書は、シュレディンガー方程式をマスターしないと量子力学を理解したことにはならないと主張し、この方程式をやさしく解説することに挑戦している。ちなみに、アル中ハイマーは量子論を専攻したわけではない。通りすがりのずぶの素人である。それでも、シュレディンガーの名前ぐらいは聞いたことがある。波動関数という言葉の響きには、強烈なウォッカ気分にさせる魔力がある。本書は、こんな酔っ払いでも、なかなか読ませる量子力学の入門書である。ただ、アル中ハイマーには、不確定性原理の意義や、シュレディンガー方程式の本質まではいまいち迫りきれない。とうとう三冊目にして、本当に呪文の罠に落ちてしまった。お陰様で、この分野に少々興味を持ってしまうのである。これからは「量子論」というキーワードを検索キーに加えておこう。

1. 量子力学の幕開け
プロイセン国の宰相ビスマルクの時代、ドイツが急速に工業化を進める。「鉄は国家なり」と言われ、近代国家が生まれた時代である。良質の鉄を作るために、溶鉱炉の温度を正確に把握する必要があった。科学者は分光器を発明する。鉄に光をあてると反射した光は、温度によってスペクトルの形が変わる。こうして光を使って物質を解析する時代が始まった。
20世紀初頭、ほとんどの科学的問題は解決済みと考え、たとえ解決していなくても、ニュートン力学とマクスウェルの電磁気学を駆使すれば解けると信じていた。そうした時代にプランクが登場する。光エネルギーは、振動数の定数(プランク定数)倍であるという理論を唱える。この理論では、波長が短くなるとエネルギーが強くなるので、赤、オレンジ、緑、青、紫の順にエネルギーが大きくなることを意味する。ちなみに、紫より波長の短い紫外線は、遺伝子に影響する大きさで、正常な細胞をガン化させることもある。後に、プランクは、光のエネルギーは振動数の定数倍だけでなく、更にその整数倍をとることに気づく。この式が量子力学の幕開けとなる。

2. アインシュタインの登場
光が波なのか粒子なのかという論争はニュートンの時代からある。ニュートンは粒子説を唱え、ホイヘンスは波動説を唱える。20世紀初頭、ヤングの干渉実験で波動説が有力となる。更に、マクスウェルが、光は電磁波の一種であると主張し後押しする。そんな時代にアインシュタインは再び粒子説を持ち出した。粒子説は光電効果を説明できる。金属に光をあてて電子を取り出す現象である。波長の短い(振動数の大きい)光をあてると飛び出す電子のエネルギーは大きくなる。照射する光を強くすると飛び出す電子の数が増えるが、一つ一つの電子のエネルギーは変わらない。現在、光は粒子と波の二つの性質があるとされている。ド・ブロイは、電子もこの二重性をもつと提唱した。現在ではこれも実証されている。電子が波の性質を持つとすると、波を表現する方程式が存在するのではないかと考えたのがシュレディンガーである。

3. シュレディンガー方程式
古典力学では物体の位置が時間とともに変化していく様子をニュートン方程式で解析することで物体の運動を表す。しかし、ミクロの世界、つまり量子力学では、位置ではなく波動関数を使う。波動関数は雲のような空間に広がった分布関数のようなもので、無限に発散するような関数は取れないし、物体が存在しない場合は0でなければならないなどの制約がある。シュレディンガー方程式は、この波動関数が時間とともに変化していく法則を示す。つまり、電子が原子の中にどのように分布するかを知るためには、シュレディンガー方程式を解けば良いというのである。ちなみに、「量子」という言葉は、量が変化する際の最小単位であって、その値が飛び飛びに変化するという特徴が語源となっているらしい。
ここで、ハイゼンベルクの不確定性原理について触れられる。このあたりはアル中ハイマーには頭が痛い。不確定性原理では、位置と運動量や、時間とエネルギーは同時には正確に測定できないというものだ。物理学の世界では不確定性の要因も多いだろう。というよりどんな世界にも不確定性はつきまとうものだ。ただ、ハイゼンベルグはこの不確定性そのものが本質であると唱えている。ニュートン力学では、位置と運動量の両方の情報がないと物体の運動は正確には計算できない。よって、この不確定性原理は論争の的となる。この主張に強く反対した一人にアインシュタインがいる。アインシュタインの「神がサイコロを振るはずがない」という言葉は、不確定性の対極にある。アインシュタインは不確定性の影響を受けない実験を次々に提案する。その都度、ハイゼンベルクは不備を見つけ出し、量子力学の世界では不確定性から免れないことを明らかにする。現在においても不確定性をくちがえす物理法則を見出した科学者はいない。不確定性原理は、波をいくつか足し合わせるとパルスになるという数学的性質にもつながると語られる。これは、なんとなくフーリエ変換を暗示しているようだ。おかげで少し理解できる範囲に取り戻せる。パルスの時間幅を短くするとエネルギーは大きくなるというのは、実は不確定性原理を表しているという。短い時間を測定しようとすれば、不確定性原理によってエネルギーの分解能が悪くなる。
んー!やっぱり、不確定性原理は、アル中ハイマーにはスピリタス級である。短いパルスの時間幅でウォッカすると、エネルギー効率は最大化され悪酔い度は96%まで高められる。

0 コメント:

コメントを投稿